三十八話 強制執行プロポーズ
「この大陸には大きく分けて五つの国があるのはご存知ですね。
蛮族地帯、北方ノースカントリー。
神倭ノ地、東方イーストグラウンド。
魔法王国、西方ウェストランド。
機械都市、南方サウスシティ。
そして、私達が住む一番大きな国、
総合国家、中央センターワールド」
十豪会で使用した円卓にサシャ、ナナシンさん、俺、レイア、クロエの順に五人が時計回りに一つずつ席を空けて座っていた。
サシャが連れてきた兵士達は離れた位置で、円卓を守るように囲んでいる。
タクミポイントを何と交換するのか。
その説明が少し長くなるとサシャが言ったので、移動することになった。
どんな話になるのだろうと、ドキドキしながら聞いていたら……
えっ? 大陸規模っ!?
「現在、中央センターワールドは、我らルシア王国が統括し、その中心となっております。東西南北に隣接する四つの国とも、ここ百年あまりは大きな争いはなく、平和な日々が続いていました」
そうだ。この大陸では人間同士の争いは長く行われていない。
「どうしてだと思う? タクミ」
十年前と同じように、サシャが俺に話しかけてくる。
「え、あっ、おぅ」
あまりにも自然で、十年前よりも美しいその姿に動揺してしまう。
「あ、ああ。あれだな。ルシア王国が強力な戦力を持っているので、他の国は喧嘩を売れない状態なんだよな」
「うん、その通り」
サシャがにっこりと俺に笑いかける。
冒険者時代、いつも回復を施してくれた時と同じ笑顔に、どきり、となり思わず目を逸らしてしまう。
「レイア、うち、なんかイライラするわ。ドラゴンになってしまいそうやわ」
「奇遇ですね、黒トカゲ。私もなんだかイライラして神を降ろしたくなっています」
クロエとレイアがなんだか恐ろしいことを言っているが、聞こえないフリをしておく。
「ルシア王国にはギルド協会本部があり、大賢者ヌルハチが所属していました。さらに魔王やゴブリン王、古代龍などの伝説級の存在が滞在し、トドメに人類最強アリスまでもが台頭してきました。もはやルシア王国に手を出す国など皆無、そう思っていたのです」
サシャの説明を聞くと、改めてとんでもないのが集まっているな、と実感した。
アリス一人でも、人類全体に勝てそうなのに、世界最強ベスト5くらいまで、揃っていそうなラインナップだ。
「しかし、ここ数ヶ月でその状況が変わってきたのです」
「まさか、どこかの国がルシア王国に喧嘩を売ってきたのかっ?」
ルシア王国は強力な力を持ちながらも、他国を侵略することはなかった。それ故に、この百年あまり戦争は一度たりとも起きなかったのだ。
それを崩そうという無謀な国があるっていうことか?
「どこかの国ではありません。全てです。今、ルシア王国を除く、東西南北、四つの国全てがこの国を侵略しようとしています」
「す、すべての国っ!?」
そんな勝ち目のない戦いを全ての国がしようとしているのかっ。
「タクミ殿。ここからは私、ナナシンが説明させて頂きます」
サシャに変わり、ナナシンさんが話始める。
「事の発端は一ヶ月と少し前、大武会でのタクミ様の武勇伝により始まりました」
武勇伝?
いやいやいや。あの大会、俺はただ突っ立っていただけだからね。
「ギルドランキング一位であられる宇宙最強タクミ様の噂は、世界中に広まっていました。ですが、それはあくまで真偽のわからない噂にしか過ぎなかったのです」
実際はアリスの活躍をギルド協会の秘書リンデンさん(魔王)が俺にすり替えていただけだからな。
「しかし、今回の大武会でギルド会長を瞬殺し、魔王や大賢者、人類最強アリスですら、寄せ付けぬ強さを見せたと、大陸中で大きなニュースとなりました」
おかしい。何かがおかしい。あの大武会はまるで俺が勘違いされる為だけに行われていたように思える。
リンデンさん(魔王)だけではない。アリスやヌルハチ、さらに他の出場者ですら計画に含まれていたのではないだろうか。
「そして、タクミ様はギルドに所属していますが、洞窟に引きこもっているだけで、ギルドにも国にも興味がないということが広まっております」
うん。だってもう、料理だけ作ってのんびりひっそり暮らしたいだけなんだもの。
「それ故に、各国は今、こう思っているのです。タクミ様を手に入れることができれば、ルシア王国を、いえ、世界すら支配することができるのではないか、と」
はい、またきた、この展開。
え? 俺、魔王の次は国王なの?
俺に対する勘違い評価が止まることを知らない。
「中央センターワールドどころか、他の四つの国でも、タクミポイントを集める為、必死になっております。すでにタクミポイントを貨幣に変えている国も存在します」
えっ! 俺、お札になってるのっ!?
「このままでは、タクミ様はどこかの国に奪われてしまう。そこで最も人口の多い、我々ルシア王国がいち早くタクミポイントを集めさせて頂きました」
ナナシンさんが俺に向かって一礼する。
説明が終わり、話し手は再びサシャに変わった。
「わかる? もう選択の余地はないの。あなたはルシア王国の…… いえ」
これまで昔のように、気さくに話していたサシャが初めて真剣な顔になる。
「私のものになりなさい、タクミ」
断崖の王女、サリア・シャーナ・ルシア。
幾人もの男たちの求婚、そのすべてを断ってきた王女が俺にプロポーズをした。




