三百四十一話 脳内スガイ
「あ、あれ? ここはどこ?」
さっきまで洞窟で家事をしていたはずなのに、いつのまにか、あたり一面が真っ白になっていた。
なにもない空間。そこには俺だけがポツンと1人立っている。
「だ、誰かの攻撃? まさか、俺、監禁されてるっ!?」
『いやいや、ちゃうで。ここ、タッくんの頭の中やで。普段なんも考えてへんから、真っ白なんやわ』
「カルナっ」
俺1人だけだと思ったが、腰には魔剣カルナが帯刀されている。よかった、めっちゃ寂しかった。
「いや、でも頭の中って……俺、夢でも見てるのかな?」
『ちゃうちゃう。誰かがタッくんの頭に入ってきてん。だから脳が警戒して中の様子をうちらに見せてるんや。うちでさえ、ここは覗いてるだけで入ったことなかったのに』
「ええっ、だから考えてることわかってたのっ!? いや、それより、誰? カルナ以外の誰がこんなところにっ!?」
カルナとの脳内会話は、頭の中を経由して行われていたのか。しかし、俺にはカルナ以外にそんなことをしている者はいないはずだが……
「やあやあ、どうも、お久しぶり、タクミさん」
「っ!? お、お前っ、文字人間っ!!」
普通に。まるでそこにいるのが当たり前のように。
俺の頭の真ん中に、こたつを敷いてミカンを食べながら全身に文字がビッシリ書かれた文字人間がペコリと頭を下げて挨拶する。
「な、なんでっ、俺の頭の中にっ!? 俺に文字の力を与えて、消えたはずだろっ!?」
かつてのラスボス候補だった文字人間は、俺がお腹に『超優しくて誰も傷つけない。誰よりも平和を望むナイスガイ』と書いてから、俺に文字の力を継承して、ただのモブになった。
「うん、実はね、心配だったから、ずっとキミを見守っていたんだよ、ボクはナイスガイだからね」
「え? 俺の頭の中で?」
「いや、ここに来たのは初めてだよ。ずっと聖杯のほうにいたからね」
「それも俺の中じゃないかっ!!」
てへっ、みたいなポーズをとっているが可愛くない。
なんなんだ、コイツはっ、あれからずっと俺を監視していたのかっ!?
「あ、あの、ありがた迷惑なんで、よかったら帰ってもらえますかね?」
「え? 大丈夫なの? ボクがいなくても」
「うん、特に問題はないかと……」
『タッくん、タッくんっ』
カルナが俺の腰を引っ張って、コソコソ話をする。
「な、なんだよ、カルナ」
『ちょっとまって、なんか、おかしいねん。帰る前になんで、タッくんの側にずっといるんか、聞いてみてっ』
「え? ただの気まぐれじゃないの? 自分が与えた文字の力をどう使うか、見てみたかったんじゃない?」
『ええから、聞いてみて』
う、うん、まあ、聞くけどさ。
「あの、文字人間さん、なんでずっと見守っていたんですか? そんなに心配だった? 俺、けっこう、うまく文字使っていたでしょ?」
「はい、数々の素晴らしい文字のアイデア、感心していました。しかし、ボクがあまり離れすぎると、どんな文字を使っているのか聞こえないんですよ」
ん? 別に文字人間に聞こえなくてもいいんだけど。
「もう文字の力をくれただけで充分だよ。これからは俺1人でやっていくから、文字人間も自由に……」
「え? くれた?」
「え? くれてないの?」
コクン、と可愛らしく頷く文字人間。
「………………………………………ええぇえぇええっ!?」
う、嘘だよね? 俺、ずっと文字の力を使ってたよね? まさか、俺のアイデアを文字人間が使ってただけなのっ!?
チラリとカルナの方を見ると、塚の部分がうんうんと縦に頷いている。ええぇえぇええ……
「カ、カルナも知ってたのっ!?」
『なんとなくやけどな。タッくん、文字の力使いまくっても消耗せえへんし、技名いうてから発動するまでタイムラグあるし、使うつもりない時でも自動変換みたいに勝手に文字の力になってたやん』
「そ、そんなことは……ああっ、そういえば大怪獣の時や秋刀魚の時はっ」
「はい、ボクのほうでうまく処理しておきました」
さ、さすがナイスガイ。俺、知らないうちに何回も救われてたんだね……あ、ありがとう。
「じゃあ、俺はただ文字の力を使ってるフリしてただけの、恥ずかしい最弱ってことなの?」
「……」
気を遣って何も言わないでくれるナイスガイ文字人間。
う、うん、大丈夫だよ、ずっとそうだったんだから泣いてないよ。景色はボヤけてるけど。
「あっ、それじゃあ黒塗りの辞書は?」
「ハッタリですよ、そういうふうに思わせているだけの伽羅様の暗示です。だいたい文字の力使ってるのボクですから、タクミさんが何をされようと関係ありません」
「……じゃあ、もうお前が全部戦ってくれよ」
「ダメですよ、ボクは超優しくて誰も傷つけない。誰よりも平和を望むナイスガイなんですから、これからもタクミさんがやってる体で頑張って下さい」
いやっ! 俺は超傷ついたし、全然平和じゃなかったよっ!!
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