三百四十話 僕の代わりに戦ってくれる人
「僕とタクミ君はなにが違うんだろ」
千里眼の水晶で洞窟の様子を伺っている。
あの地獄のような家事の日々から、タクミ君は解放されていた。サシャやヌルハチ、あのずぼらなロッカですら、タクミ君を手伝っていた。
……あのタクミと呼ばれる僕には、ずっと情け容赦なかったのに。
「ソネリオンは、僕の何がダメなんだと思う?」
「……」
チョビ髭が描かれたシャツに話しかけるが、やはり反応はない。魔剣カルナと同じで、かなり心を通わせないと脳話は出来ないみたいだ。※ ソッちんと呼ばないので返事しないだけです。
「あのタクミ、修行にいくぞ」
「え? ちょっと待ってよ、アリス、朝修行してから、まだ5分もたってないよ。せめて、朝ご飯食べてからに……」
「なにをいうか。あれは早朝の修行、いまからが本番の朝の修行だ。朝食はその後に決まっている」
なんなのっ、その修行地獄っ!?
「ほ、本当にタクミ君は、こんなに修行してたのっ!? 文字の力だけで十分強いのにっ!!」
「当たり前だ、タクミは文字の力に頼らずとも、己の力のみで戦うため、日々修行に明け暮れていた。寝る間も惜しんで、いや寝てる間もイメージトレーニングをしていると言っていたな」
うそだよっ、それ絶対騙されてるよっ、絶対ゴロゴロしてただけだよっ!!
「じゃ、じゃあ僕も今日はイメージトレーニングにしようかな。ちょっと身体疲れてるし……」
「却下だ。タクミはそのような泣き言はいっさい吐かなかった。ペナルティとして朝の修行は倍にする」
「ふぇっ!?」
だ、だめだ。せっかく入れ替わって逃げてきたのに、こっちのほうがさらに地獄じゃないか。
「あ、あの、僕が修行で強くなったらアリスは困るんじゃないかな? タクミ君をやっつけてしまうかもしれないよ?」
「それこそ、ワタシの望むことだ。タクミは敵が強ければ強いほど喜び、それを乗り越えていくことを生き甲斐にしている」
絶対してないわっ!!
元が同じなんだから確信できるよ、タクミ君はそんなこと、1ミリだって望んでいないよっ!!
「や、やっぱり入れ替わるのやめて帰ろうかな。すぐバレちゃったし……」
タクミ君と同じように、髭をはやして小説版に近づけたんだけど、アリスには一目で見破られてしまった。
「当たり前だ。タクミはお前のようにナヨナヨしていない。いつでも宇宙最強のオーラと自信に満ち溢れてる」
うん、それ勘違いだよ。どうして僕には勘違いされる設定がなくなってるんだ?
「ここから帰るなら、せめてワタシの修行についてこれるぐらい強くなれ。それがタクミの宿敵として最低限の条件だ」
「いやだ、もう最後の戦い、僕の負けでいいよっ。タクミ君と同じようにゴロゴロしていたいよっ」
「タクミは生まれてから一度たりとて、休んだことなどない」
「嘘だぁあぁあぁーーー」
首根っこをつかまれ、修行の場へと引きずられていく。
「まって、わかった、わかったから自分の足で歩かせてっ」
「昨日もそんなこと言って逃げたじゃないか」
「逃げないっ、約束するっ、神に誓って嘘つかないからっ」
「神って創造神? そんなのに誓ってどうするんだ? とっくにタクミが倒したのに」
ちがうよっ、アンタが倒したんだよっ ……あれ? なんだ? ちょっとだけ記憶が戻ったような……
「全部、アリスがやってるんだよ。タクミ君は何もしてない。文字の力だって、外部から与えられたもので、タクミ君は一度も強くなんてなってないんだ」
そうだ、僕がずっとそうだったんだ。たぶん「あのお方」なんて言われてランキング1位になってるのも、きっと他の誰かが頑張ったおかげなんだ。
「ふっ、お前はタクミと同じ姿なのに何もわかってない。むしろタクミは自分の手柄をワタシに譲っていたのだ。魔王も創造神も大聖霊も全部タクミ1人で倒してきたのに、ワタシが倒したように見せてくれていたんだよ」
うん、もう洗脳レベルの勘違いだよ。もう何を言っても通じないよ。
「……どこまでが僕と同じだったんだろ? 僕にはもう、僕の代わりに戦ってくれる人はいないのかな?」
ざざっ、と記憶にノイズが走る。
女の子? 顔がノイズでわからない。名前も思い出せない。でも、それがアリスじゃないのだけはわかった。
不意に視線を感じて、山頂に目を向ける。
それはまるでノイズの向こう側のように。
紅と蒼の双剣を持った女の子が僕を見て微笑んだ。
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