三百三十七話 かこみん
『それでは無限界層一桁トーナメント準決勝はタクミ&ソネリオンVS伽羅様&ネレスに決定致しました!!』
「いやちょっとまってっ!! これ不正してないっ!? いま球ぶつけて俺たちを亡き者にしようとしたよねっ!!」
『試合開始は1週間後っ、勝ち上がったコンビが決勝戦へ進みますっ!!』
「聞こえてるよねっ!? さっきまで普通に会話してたよねっ!?」
まんまるは答えない。そのまま、ふんわりと天に登って小さくなっていく。
「い、言いたいことだけ言って帰りやがった」
ずっと延期されてて、いつになっても再開しないと思っていたトーナメントがいきなり始まった。しかも勝手な事情で巻き気味にっ!!
「コンビ戦ってなんだよっ、俺のパートナー、着古したシャツだよっ、これコンビ組んでなくても一緒に戦えたんじゃないっ!?」
『はっ、確かにっ、もはや私とタクミ様は一心同体でしたっ』
ちがうよ、お前が本体に帰らないだけだよ、同体にしないで。
「こ、このままじゃマズい。俺たちのコンビには足りないものがある」
『確かに、私たちにピッタリのコンビ名を考えないといけませんね』
コンビ名? チョビタク? いやいやいや、そんなの考えてる場合じゃないよっ!
「カルナだよっ、魔剣カルナっ、このトーナメントはずっとカルナが側にいてくれたんだ。シャツの中にいる髭なんかより、よっぽど頼りになるんだよっ」
『ふむ、それは確かに否定できませんね。カルナさんは魔装備の中でも圧倒的に優れた逸品です。おそらく全界層の中でもトップクラスの魔剣でしょう』
ミッシュ•マッシュと融合を果たし、その力を根こそぎ吸収したカルナは、文字の力が制限された俺より強いんじゃなかろうか。
「あのタクミともめて洞窟を追放されてしまったが、なんとかカルナとはトーナメント前に合流しないといけないな」
『大丈夫ですか? 今、洞窟に戻るのは気まずいのでは? よろしければ私がカルナさんを説得して、こちらに連れてきましょうか?』
「え? 本体に戻って?」
『いえ、シャツのままですが』
ダメだ。どこにシャツに説得される魔剣がいるというんだ?
「俺、1人で行ってくるよ、ソッちんは留守番しといて」
『ええっ、我々は常に一つ、もはや一個の……ああっ、そんな乱暴に脱ぎ捨てないでっ、せめて、せめてハンガーにかけてくださいっ、シワができないようにっ!』
うるさい髭シャツをぐちゃ、とカゴに押し込み、祠から離れていく。
久しぶりに1人になれたけど気分は晴れやかではない。洞窟に戻るのが怖かった。
追放された後、みんなはどうなっているのか?
あのタクミと仲睦まじくなっている姿を見たら、俺は立ち直れないかもしれない。
「い、透明」
見つかったら嫌なので貴重な文字の力を使って姿を隠す。こっそりと気づかれないように、洞窟の入り口から、そっ、と中の様子を覗き見た。
「あのタクみん、あのタクみん」
「ん? どうした、ロッカ。ご飯はまだだぞ」
「なんでもないでござる。ただ呼んでみただけでござるよ」
ぐはっ!!
なんとか、声に出さずに耐えたが、いきなり致命傷クラスのダメージを負ってしまう。なに? なんなの? ロッカ、お前はもうそんなにあのタクミと関係が発展してるのっ!?
「ねえ、もうタクミはいないんだから、あの、ってつけるの、やめてもいいじゃないかしら? 区別する必要もなくなったんだし」
がはぁっっ!!
サ、サシャ、君はそんなこという人じゃなかったよね? 俺、すでに過去にされてるよね?
「ダ、ダメだ。精神的ダメージがデカすぎる。このままじゃ、俺、カルナに会う前に力尽きちゃうよ」
きっとカルナも似たようなことを言うのだろう。そうなったら俺はもう……
逃げるようにそこから立ち去ろうとした。しかし、不意に聞こえてきたカルナの声に全身が硬直する。
『それはさすがにあかんのとちゃうかなぁ、どんだけズボラでも、うちらのタッくんは出て行ったほうのタッくんやで』
「カ、カルナっ」
な、泣いちゃダメだ。声も出してはいけない。いますぐにカルナを抱きしめたい衝動を必死におさえる。
「ん? なにか言ったでござるか?」
「え? 何も言ってないわよ」
「空耳じゃないかな? さ、そろそろ仕上げに入るから、2人は食器を並べておいて」
「「はーい」」
それに比べてコイツらはっ、カルナの声も聞こえないくらい、あのタクミに夢中じゃないかっ。
カルナを取り戻すだけでいいと思っていたが、このままにしておくのも癪にさわる。
「幸い、俺とあのタクミは見た目がほとんど同じだ。文字の力で変身すれば完璧に勘違いさせられる」
食事を終えたあのタクミがお風呂に入っている間に、透明を解いて、変化の文字であのタクミの姿に変身する。無精髭がなくなって、ちょっと幼い感じになっただけなのに貴重な文字を使うのは勿体無いが仕方あるまい。
「ふふふ、見とけよ、お前たち。この姿で好き放題して、あのタクミの評価をどん底までさげさせてやる」
「なるほど、それはいいアイデアだね」
「ほへ?」
お風呂に入っていたはずの、あのタクミが俺の真後ろに立って頷いている。
「僕もちょっと無理してたからさ。しばらく交代してみようよ、はい」
魔剣カルナを渡して、あのタクミはスタスタと去って行く。
思いがけず達成された目的に、俺はただポカンと立ち尽くすしかなかった。
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