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三百三十五話 演者の苦悩

 

「あのタクみん、あのタクみん」

「ん? どうした、ロッカ。ご飯はまだだぞ」

「なんでもないでござる。ただ呼んでみただけでござるよ」


 あかん、聞いてられへん。タッくんが追放されてから1週間。ちょっとイチャイチャしすぎちゃう?


「ねえ、もうタクミはいないんだから、あの、ってつけるの、やめてもいいじゃないかしら? 区別する必要もなくなったんだし」

「おおっ、さすが行き遅れ王女。だてに年は重ねてないでござ……いたたた、やめるでござる、ほっぺを引っ張っらないでほしいでござるっ」


 うん、もはやタッくん、亡き者にされてる。


『それはさすがにあかんのとちゃうかなぁ、どんだけズボラでも、うちらのタッくんは出て行ったほうのタッくんやで』

「ん? なにか言ったでござるか?」

「え? 何も言ってないわよ」

「空耳じゃないかな? さ、そろそろ仕上げに入るから、2人は食器を並べておいて」

「「はーい」」


 聞こえてへん。ついに、あのタッくんだけやなくて、ロッちんまで、うちの声が届かんようになってきてる。


『元々、あのタッくんにはうちの声が聞こえてへんかった。漫画版と小説版では脳内セリフの吹き出しが違うからや。でもロッちんまで聞こえへんようになったのは……』


 あのタッくんは、タッくんのように、うちを腰に刺している。けど所有者になっても心が通じることはあらへん。声はずっと届かんままや。それどころか、周りまでうちのことを忘れていってる気がする。


『やっぱり、そうや。ロッちんやサシャはあのタッくんと仲良くなるにつれて、どんどん漫画版に近づいていってるんや』


 タッくんには厳しいこと言うたけど、うちはあのタッくんを最初から疑っとった。

 魔法少女のフィギュアに入れられた時から、違和感を感じてたんや。


『絶対裏があるはずや。たとえ漫画版でも、タッくんはこんなに上手いことモテたりせえへん。ダメでズボラで抜けてるタッくんがほんまのタッくんやねんっ』


 その正体を探るために戻ってきて仲間になったフリしたんや。うちはひょいひょいと乗り換えたりせえへん。アホなほうのタッくんの味方やねん。


「それは、声が届かないから拗ねてるだけじゃないんですか?」

『うわぁっ、なんや、レイアっ、いきなり現れんといてっ、びっくりするやんかっ!!』


 あのタッくんにも気づかれないように、コッソリとしゃがみこんで、いきなりレイアがうちの背後にあらわれた。


『な、なんや、まだレイアはうちの声聞こえるんか?』

「ええ、私もずっとタクミさん派ですから。倍率もいいですし」

『ほな、なんでついて行かんかったん?』

「あなたと同じですよ。ちょっと、こちらのタクミさんは出来過ぎて気持ち悪いです。私も色々、探ってみようと思いまして」


 なるほど、気配も声のボリュームもカットできるレイアは隠密にもってこいや。うちもただの剣みたいに帯同されてるし、2人でやれば、あのタッくんの秘密、だいぶ探れるかもしれへん。


『ほな、しばらく同盟結ぼか。でもタッくんはゆずらへんで』

「はい、そこはもう最大のライバルとして認めてあげましょう。あのタクミさんに堕ちた他の者たちは、もはや、その資格すらありませんから」


 ほんまや。これ、恋愛バトルロワイヤル、だいぶ有利になったんとちゃうやろか。……でも、なんか、めっちゃ大事なこと忘れてる気がするんやけど。他に強大なライバルおらんかった?


「あ、動きますね。夕飯が終わったら、しばらく1人の時間です。怪しいことをしないか、よく観察しましょう」

『ほんまのタッくんは、漫画読んだりゲームしたりゴロゴロしてるけどな』


 あのタッくんは空いた時間もサボったりしてへん。風呂やトイレの掃除したり、残った食材をぬか漬けにしたり、寝るまで、しっかり家事してる。


「あまりにも完璧すぎますね。……どこか違和感を感じるほどに」

『やっぱりレイアもそう思う? うちも演技してるふうにしか見えへんねん』


 根本的な性格が同じなら、タッくんはめっちゃ遊びたいはずやねん。家事なんか、できるだけサボって、怠惰な生活を身体が欲してるはずやねん。


「ずっと疑問に思っていました。あのタクミさんにいたはずの漫画版の仲間たちはどこに行ってしまったのか、と」

『ほんまやな。屋根裏宇宙(バックヤードコスモ)には誰もおらんかった。みんな死んでしもたんか、もしくは離れてしもたんか』

「離れたのなら、今のタクミさんと、同じようなことが起こったのではないですか?」


 ほ、ほんまや。ちょうど、今タッくんは1人ぼっちになってるやんか。※(実際はアリスといるのでなってません)


『もしかして、あのタッくん、仲間たちを失った過去を経験してるんか?』

「ええ、だからこそ、誰も離れないように演技しているのかも。完璧なタクミさんを、自らの手で作り出して」


 疲れたような笑みを浮かべながら家事をする、あのタッくんは、なんだか、ちょっと健気でほんの少しだけ、きゅん、とくる。


『……あのタッくん』

「ん? 何か言った?」


 そして、うちの声が届いてしまった。





コミックス4巻が2025年12月25日に少年チャンピオンコミックスから発売されました! 小説版とはまた違ったオリジナル展開になりますので、ぜひぜひお手に取ってみて下さい。よろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
浸食が進んでますなあ 「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらを覗いているのだ」
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