閑話 タクミとあのタクミ
「は、はじめまして、あのタクミです。よろしくお願いします」
あのタクミを見つめる仲間達が洞窟の前で驚きの表情のまま固まっている。
だ、大丈夫だろうか、本当にここに連れてきてよかったのだろうか。
「え、えっと、タクみん、拙者よくわからなかったので、もう一度説明してもらってもいいでござるか?」
「うん、だから『あのお方』は漫画版の俺だったんだよ。似てるけど、ちょっと違うだろ?」
「漫画……ああっ、わかったでござるよっ、タクみんは双子だったのでござるなっ!!」
うん、それは別の漫画だよ。ロッカには全然伝わってない。
「ふむ、魔法で変身しているわけではなさそうじゃな。魔力の流れは、まったく感じぬわ」
ヌルハチが波動球•探であのタクミを鑑定している。
いいぞ、俺が求めているのはそういうやつだ。
あのタクミは魔法を使えない。これはかなり有力な情報だ。
『タッくんは「彼女」と戦う時に魔法や神降ろし覚えたもんな。ほな、あのタクミはそれ以前に分岐してるんかな?』
「忘れてるだけかもしれないけどな。俺だって何億年もしたら、ほとんどのことは覚えてないぞ」
『え? タッくん、うちのことも忘れてしまうん?』
いや、ずっと腰に刺したままなら、きっと忘れずにいられるだろう。だけど、あのタクミは手ぶらで魔剣は持っていない。漫画版のカルナはいったいどこに行ってしまったんだろう。
「昔、ここに住んでたはずだけど、なにか思い出さないか?」
「い、いやぁ、朧げだけど、こんな洞窟じゃなかったような気がするなぁ。もっとマイホーム的な家に住んでいたイメージが湧いたんだけど」
「ああっ! そういえば漫画で見たっ! 洞窟に一戸建ての家が丸ごと入ってたっ! 中にも囲炉裏とかあって、暮らしやすそうだったよっ!!」
くっ、なんてこった。
小説版から漫画版に変わる時にアップグレードしたんだ。確かに文字だけなら気にならないが、絵にすると毎回殺風景な洞窟が舞台だと見た目によろしくない。
「こ、これで勝ったと思うなよ」
「え? べ、別に戦ってないけど、なんかごめんね」
軽い敗北感を覚えながらも、こっちもそんな感じで改造してやる、と心に誓う。
後でリンに空間魔法で小さなお家を運んでもらわなくては……
「タクミさん、ちょっといいですか?」
いきなり背後にレイアが登場して、びくんっ、と震える。何回繰り返しても、この現れ方は心臓に悪い。
「な、なに? カットならまだ使わなくていいよ。下手に刺激したら何が起こるかわからないから」
「すみません。すでにカットできるか試しちゃいました」
こわいよっ、全てをカットで解決しようとしないでっ! いまは、あのタクミより伽羅様より、アンタが1番、恐怖だよっ!!
「で、どうなったの? ど、どこかカットしちゃったの?」
「それなんですが、あのタクミさんにはカット能力がまったく通じません。本体だけではなく身につけた衣服でさえ、数ミリもカットできませんでした」
衣服まで? こっちにいても漫画版のモノはレイアにはカットできないのか。世界線が違う? いやもっと根本的なものが異なっているのか?
「まあ衣服をカットしても特にメリットはないと思うけど……」
「そんなことありませんよ。タクミさんとの細かい違いがわかるかもしれないじゃないですか」
「いや、どこ見てるのっ!! そんなとこの違い、わからなくていいからっ!!」
下半身に不穏な視線を感じて咄嗟に隠す。やっぱり、怖すぎるぞ、カット能力。
「ちょっとよいでござるか? 拙者、漫画版のタクみんより、そのシャツが気になるのでござるよ。タクみん、チョビ髭に呪われたのでござるか?」
「い、いや、これは色々あってだな」
全然話さないのでソネリオンのこと、すっかり忘れてた。魔法少女に吹っ飛ばされた本体が見つからず、俺のシャツには未だにチョビ髭の顔がはりついている。
『ああ、申し訳ありません。しばらく、ここでお世話になることになったソネリオンことソッちんです。洗濯はできれば手洗いでお願い致します』
「しゃ、しゃべったでござるよっ!? 気持ち悪いでござるっ!! レイア様、すぐにカットするでござるよっ!!」
「ああ、ちょっと待って。色々な魔装備で助けてくれるから。今はまだカットしないで」
まあ、ずっとこのままなら、やがてカットしてほしいけど。
『大丈夫ですよ。本体の位置はだいたい掴めてますので落ち着いたら戻ります。それよりタクミ様、お気づきになりましたか?』
「ああ、カルナの声やソッちんの声は、あのタクミには聞こえていない。魔法少女みたいな魔装備は作れるのに、だ」
魂だけになったカルナとは意思疎通ができていた。魔剣やシャツに入った魂の声が聞こえないのは、なにか理由があるはずだ。
「吹き出しの違いか。漫画版と小説版では、心の声みたいな表現の仕方が異なるんだ」
確かに俺が見た漫画版に心の声を表す『』は、存在しなかった。
カルナやソッちんとは、あのタクミの前でも内緒で作戦を立てることができるが……
『逆に我々には認識できない何かを持っている可能性が、あるということですよ』
あのタクミはそんなことなど、まるで気にしてないように、俺の仲間たちとお気楽に談笑していた。




