三百二十九話 交差
『あれ? タッくん、うち、いつのまに戻ったん?』
「え? 覚えてないの? 魔法少女」
『魔法少女?』
どうやら魔法少女セラキュアに入っていた記憶は全部抜けているらしい。
『タクミ様、魔法少女の器ですが、流石に再利用はできないようです』
「ああ、カルナが出た時にバラバラになっちゃったからな」
見るも無惨に飛び散った魔法少女。地面に突き刺さった折れたステッキから哀愁が漂っている。
『え? なに? おらへんのにソネリオンの声するやんっ、しかも、うちと同じ、脳直やんっ!』
あ、これ、脳直っていうんだ。
『カルナ殿、ここです、私は真上にいますよ』
『っ!? ぎゃぁぁあぁっ、髭がっ、チョビ髭がタッくんのシャッツにめり込んでるっ!! タッくん、チョビ髭殺ってしまったんっ!? 呪われてしまったんっ!?』
「う、うん、まあ違うんだけど、いまのところ害はないから、ほっといていいよ。それより今は……」
ざっ、ざっ、と壊れた魔法少女の元に足音が近づいてくる。ここにいるのはもう1人しかいない。
魔剣カルナを握り、いつでも鞘から出せるように身構える。
「ああっ!!」
近づいてきた物影が突然大声をあげたので、びくんっ、と身体を震わせた。
「セラキュアっ! 僕の魔法少女がバラバラにっ!!」
俺たちのことが目に入ってないのか。一目散に壊れた魔法少女に駆け寄って抱きしめる。
「な、なんて姿にっ! 劇場版限定フィギュアだったのにっ!! マジカルステッキまでボッキボキじゃないかっ!!」
隙だらけだった。今なら一撃加えれば、すべての騒動は収まるんじゃないか。そう思ってコッソリ近づこうとすると……
『気をつけて下さい、タクミ様。『あのお方』は……』
「うん、わかってる」
簡単にはいかない。それは重々わかっている。それでもトーナメント前に、ある程度の力量を計りたい。
「……問題は、どの時点で分岐しているか、だ」
音無歩。
文字の力を使い無音で近づき、そっ、とカルナを抜き放つ。
魔法少女を抱きしめ、号泣している『あのお方』は俺の存在など忘れている。……と見誤ってしまった。
「とりゃ」
完全に不意をついたはずの一撃が空を切る。
『あのお方』は動いていない。動いたのは俺が手に持つカルナだった。
『ちょっ、タッくんっ、いきなり何するんっ!? 危ないやんかっ!! 当たったらどうするんっ!?』
「いや、ちょっと実力が知りたくて……て、カルナはどうして庇うの? 『あのお方』を」
『ど、どうしてって、そら庇うやろ。だって、これ、どう見ても……』
俺じゃない。それはわかっているはずだ。それでも攻撃できないのは見た目ではない。滲み出てくる雰囲気がそっくりなんだ。
「『あのお方』と話してくる。たぶん不意打ちは通用しない」
俺が主人公だった時もそうだった。致命傷となるような攻撃は何かの補正が加わって、絶対に当たらないようになっていた。
何を失って何を得たのか。それがハッキリすれば攻略が見えてくる。いまだに魔法少女を抱きしめ泣いている『あのお方』の肩を叩き、こちらを認識させる。
「こんにちわ、『あのお方』、大切な人形を壊して、悪かったね」
「こ、こんにちわ。いや僕が悪いんだ。君たちが侵入者だと思って、とっさにボディーガードを作ってしまった」
うん、侵入者で間違いないんだけどね。『あのお方』の判断は間違っていない。俺も同じことをしただろう。
「……名前は覚えているかい?」
「え? この子? セラキュアだよ、魔法少女セラキュア」
「ちがうよ、アンタの名前だ、『あのお方』と呼ばれる前はなんと呼ばれていた?」
イライラするのは、まるで自分を見ているようだからか? 同族嫌悪。いや、コイツと俺はまったく違う人間だ。そもそも住む次元すら違っている。
「ごめん、まったく思い出せないんだ。ただ、一つだけ、感じていることがある」
ああ、そうか。
やっぱり、そうなんだ。
その感覚はたぶん俺も同じもの。
「君はかつての僕なのかい?」
「わからないよ、それを聞きにきたんだ」
『あのお方』は未来の俺だと思っていた。
だけど、それは違う。造形そのものが微妙に違っていた。無精髭もないし、俺よりも若干、愛らしく見える。
『タッくん、うちもなんていうていいかわからへんけど、なんか漫画版のキャラがアニメ版でちょっと変わったような、そんな感じやで、この人』
ああ、そうか。
やっぱり他から見れば、そう見えるのか。
間違いない。カルナの答えはほぼ正解といっていいだろう。ただし……
「俺が小説版で、こっちが漫画版だ」
作家が作った世界は漫画化され、その物語はある日を起点に大きく異なり違う世界へと分岐した。
主人公であった俺がどういう経緯で、こっちの世界にやってきて屋根裏宇宙に閉じ込められたかはわからない。ただ、一つわかるのは……
「どちらかの世界しか残れないってことだ」
小説版と漫画版。
二つの物語が今、ここに交差した。
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