三百二十八話 元鞘
「邪龍暗黒大炎弾っ!!」
当たれば暗黒の炎に焼き尽くされる無数の炎弾が容赦なく襲いかかる。
「カルナっ!!」
俺の声はいくら叫んでも届かない。いや、聞こえていても、自分のことを呼んでいることがわかってないのか。
「どうすればいいっ、ソッちんっ!」
『思い出してもらうのが1番ですが、完全に器である魔法少女と同化してます。当初の予定通り、粉々に破壊して、タクミ様の下半身のそれに魂を押し込みましょうっ!』
「ええっ!? ず、ズボンにっ!?」
『違いますよっ、腰にいつものように刺してるじゃないですかっ!!』
ああ、そうだ。魂の抜けた魔剣ソウルイーターをいつものように、鞘に入れて持ってきたんだ。
魔法少女の器を壊して、元に戻せば、カルナもきっと思い出してくれるはずだ。
「これがほんとの元鞘ってやつか」
うん、そんなことを言ってるヒマはない。
雨霰のように降り注ぐ暗黒の炎。
文字の力最強の防御技も、魔装備最高の鎧も、もう使えない。
「百足百式」
俺の足が瞬間的に増殖する。
残像ではない。足を100本に増やして加速するミッシュ•マッシュが使っていた技を文字の力で模倣する。
無数の黒炎弾を残像を残しながら回避して、一瞬で魔法少女カルナの背後に回り込む。
「なんやっ、それっ、気持ちわるっ!!」
『タクミ様っ!』
「おおっ、ナイスタイミングっ」
シャツに張り付いたチョビ髭の口から、にゅっ、と新しい魔装備が出現する。
さっきは見逃していたが、無敵の鎧アイギスもこうやって出していたのか。
『アスカロンっ、龍殺しの魔剣ですっ!』
「またカルナが怒りそうなものをっ!」
だが、それは案外的を得ている。
ブラックドラゴンのカルナをこの剣で攻撃すれば、自分がドラゴンだったことを思い出すかもしれない。
さっき、ミッシュ•マッシュの技を使った時も、カルナはドラゴ弁に戻っていた。
記憶の断片をくすぐる攻撃を繰り返せば、倒す前に記憶を取り戻すはずだ。ならば、ここはもう一つ。
「千手完音」
今度は手が千本に増殖する。
しかもそのすべてに魔剣アスカロンが握られていた。
手に持ったものまで、そのまま増やすことができるミッシュ•マッシュの反則技だ。
「ぎゃあああっ、だから気持ち悪いいうてんねんっ!!」
いいぞ、カルナ。
ミッシュ•マッシュとの戦いは俺にとってもお前にとっても忘れられない……
「ミラクル暗黒魔法邪龍暗黒大炎パンチっ!!」
「へ?」
予想外の攻撃だった。カルナの暗黒魔法と魔法少女セラキュアの必殺技が合体した。
暗黒の炎を纏った拳が大迫力で迫り来る。その背後には巨大な黒龍がオーラのように具現化している。
「うわあぁあああっ! 超こわいっ!!」
確実に黒龍としての記憶が蘇ってきているはずだった。それなのに魔法少女の器はそれを解放せずに閉じ込めている。
『タクミ様っ』
「それでもだっ」
真っ向から立ち向かう。カルナの拳に向けて、千手完音で増やした龍殺しの魔剣を千本同時に突き刺していく。
パキンっ、という音が、これでもかっ、というほどに重なった。千本の魔剣が砕け散る音。共に増やした千本の腕も吹っ飛ばされる。
「なんだこれっ、なんでこんなに強いっ!?」
『魂だけではありませんっ、器の強さが尋常じゃないっ、この魔装備の魔法少女っ、よほど持ち主に愛されて大切にされてきたものですっ!!』
ああ、そうか。だからカルナはその器の影響を強く受けているのか。俺も現実世界でアニメを見ていたからよくわかる。オタクのフィギュアに対する愛情は、果てしなく強く、気高く、天井知らずだ。
だが、それでもっ……
「そんなものがっ」
千本の腕は砕けてなくなった。
もはや、カルナの攻撃を防ぐ盾も持てない。
残っているのは、ただ一つ。
「俺とカルナの絆に勝てると思うのかっ!!」
ただただ真っ直ぐにカルナに向かって突っ込んでいく。ここでもう一撃、必殺技を喰らえば、俺の顔面はなくなるだろう。
だが、魔法少女の中にあるカルナは、時が止まったように動かない。
「再生」
文字の力で両腕を再生する。
攻撃するためじゃない。
カルナを抱きしめるために、大切な回復の文字を使い切る。
全力で、それでも優しく、俺は初めてカルナを抱きしめた。
「……………………………………タッくん?」
「おかえり、カルナ」
止まっていた時が動き出す。
魔法少女の器が、ぱぁん、と弾けて、カルナの魂が鞘の中に帰ってきた。
コミックス4巻が、来週、2025年12月25日に少年チャンピオンコミックスから発売されます! 小説版とはまた違ったオリジナル展開になりますので、ぜひぜひお手に取ってみて下さい。よろしくお願い致します。




