三百二十七話 暗黒ファンタジー
聞いたことのある魔法少女セラキュアのオープニング曲が流れている。
現実世界で見た、そのアニメは子供向けの魔法少女シリーズと呼ばれているものだった。
小さな女の子が大人に変身して、ステッキから可憐なミラクル魔法を繰り広げるワクワクファンタジーだ。
だけど、目の前の魔法少女は……
腕がもげ、足は逆方向に向いている。夢の魔法を繰り広げるはずのステッキは、随分と前からゴミのように地面に投げ捨てられている。
それでも、熱く燃え見つめる瞳は、獲物を捉えた猛獣が如く、俺を真っ直ぐに見つめ、全身全霊で最後の力を振り絞る。
「ちがうっ! こんなのっ、俺の知ってる魔法少女じゃないよっ!!」
『きますよっ、タクミ様っ!!』
魔法少女最大の攻撃魔法。
それは、一直線に真っ直ぐに、ただただ拳でぶん殴る、アリスのような一撃だった。
「ふ、不可侵領域っ……あっ!」
文字の力、最大の防御は発動しない。
すでに魔法少女のフルスイングビンタを防御する時に使ってしまっていた。伽羅様から受け取った黒塗りの辞書が、不可侵領域を黒く塗り潰す。
「ソ、ソッちんっ!!」
『間に合うかっ、無敵の鎧アイギスっ!!』
突然、俺の前に煌びやかな黄金の鎧が出現する。
見たことのある、その魔装備は、かつてリックが依代にしていた伝説の鎧だ。
魔王崩壊の後、レンタルしていたので元の持ち主に返したと言っていたが、それがソネリオンだったのか。
「ソッちんが伝説の魔装備の持ち主だったのっ!?」
『いまはそれどころではありませんっ』
「ぬオォオオオっ、こんなものっ!! ミラクルっ、スペシャルっ、ハイパーっ、とにかく魔法っ!!」
魔法少女の拳が無敵の鎧アイギスに食い込んでいく。
ビキビキと稲妻状に亀裂が走り、無敵のはずの伝説が呆気なく崩れようとしていた。
『タクミ様っ!』
「我を過ぐれば永劫の罰あり、我を過ぐれば滅亡の始まりなり。聖なる威力、比類なき、えっとなんだっけ……愛とかなんとか、永遠にそびえ立つとか、ええいっ、以下省略っ!!」
早口で呪文を唱えるが途中で忘れてしまったから文字の力で省略する。
「羅生地獄門っ!!」
無敵の鎧が破壊される中、足元の地面が隆起して、巨大な門が出現した。
こうなりゃリックの技をとことんパクってやる。
それは盾ではなく、歪な形をした門だった。
扉には様々な姿で苦しむ人達や骸骨が彫刻され、門の上部には、それを監視する鬼の彫像が鎮座している。
地獄絵図が描かれた巨大な門は、あまりにも禍々しく、不気味なオーラを放っていた。
「壊せるものなら壊してみろっ」
扉が破壊されてもいい。そうなれば地獄の門が開き、魔法少女の力を全て吸い尽くす無限の腕が出現する。
「おおりゃあああああっ!!」
およそ魔法少女が発したと思えない気合いの入ったかけ声と共に、無敵の鎧アイギスごと羅生地獄門が破壊された。
扉の向こうにはドス黒い空間が渦巻き、そこから、ぶわっ、と無数の黒い腕が伸びて魔法少女に纏わりつく。
「力を吸われて地獄に堕ちろっ」
「ふん、暗黒魔法かっ」
どうしてそれを知ってる?
暗黒魔法なんて、魔法少女が使う魔法とは、まったく接点がないはずだ。
「アタシには通用しないっ、むしろ友達みたいなものだっ」
「えっ、ええええっ!?」
魔法少女の言葉は強がりのハッタリでもなんでもなかった。本来力を吸うはずの黒い腕が逆に力を吸われて萎びている。
そして、ボロボロだった魔法少女は、暗黒魔法の力を吸収して、今度は本当に全回復しちゃってるっ!!
「な、なんで? どういうことだ、ソッちんっ!? コイツ、暗黒魔法少女なのかっ!?」
『違いますよ、タクミ様。ああ、どうして今まで気がつかなかったのか。魔装備を愛する者として私は恥ずかしいっ』
「え? なに? 一体、何に気付いたのっ!?」
『まだわかりませんか? あの魔法少女の魂は……』
ぼぼぼぼぼぼ、と魔法少女の周りに、無数の黒い玉が飛び出して浮遊する。
俺はこの技を知っている。1番最初に見た暗黒魔法。ゴブリンの群れから俺を救ってくれた懐かしい必殺技だ。
……ああ、そうか、そこにいたのか。
「カルナっ!!」
「邪龍暗黒大炎弾っ!!」
俺の叫びは、魔法少女、いやカルナの必殺技コールに掻き消された。
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