閑話 あのお方と魔法少女
少しだけ。
ほんの少しだけ記憶が戻ってきた。
ドラマや漫画は忘れても忘れても、また何度も見直して記憶に焼き付けることができる。
だけど、人生は一度きりで、それを繰り返すことはできない。
遥か彼方に置き忘れた遠い記憶は、か細い糸をたぐり寄せるように引っ張って、ようやく、その断片を手にすることができた。
「きっかけは、あの魂の声か。僕は昔、彼女のような存在とずっと一緒にいたんだ」
思い出した記憶とは、幾つか相違点がある。
記憶違いではない。
おそらく僕が一緒にいたのは、彼女ではなかったのだ。似ているが非なるもの。そして、僕は、それをすでに失っている。
「ちょっと待ってっ、ソッちんっ、これ、止まらないのっ!?」
「無理ですよ、魔装備と文字を掛け合わせて、無理矢理時間を加速させたんですから。何かにぶつかるまで止まりません」
「いやぁああああっ、超こわいっ!!」
2人の侵入者の声が聞こえてくる。
急速に接近しているが、距離ではなく時間を移動しているため、その姿はまだ見えない。
「あれ? なんか知ってる声が聞こえた気がするんやけど」
魔法少女セラキュアの等身大フィギュアに入った魂さんが、首をかしげている。
やはり、侵入者は彼女の知り合いか。このままだと僕を守ってくれないかもしれない。もう少し、魔法少女になりきってもらおう。
コッソリとDVDを操作して、魔法少女セラキュアのアニメをスタートさせる。
可愛い少女がステッキをクルクル回しながら跳ね回る爽快なオープニングソングが流れ出した。
「な、なんやこれ、すっごい力が湧いてくるやん」
器に入った者は、その器の形にだんだんと影響されていく。剣に入ったものは攻撃的な性格に、盾に入ったものは守備的な性格になる。それも少し戻った記憶のメモリーに保存されていた。
「今なら、うちっ……わたしっ、すごい魔法が使えそうや……ですっ!!」
がんばれ、魔法少女セラキュア。侵入者をやっつけてくれたら、ちゃんとそこから出してあげるからね。
「ちょっと待ってっ、おまっ、なんで俺の後ろにいるのっ!? もしかして衝突する時、俺をクッションにしようとしてないっ!?」
「まさか、たまたまタクミ様が前にいるだけですよ」
「嘘だっ! ほっぺたがくっつくぐらい背中に密着してるじゃないかっ! このチョビ髭がっ!」
「離れていて、邪悪な気配が近づいています」
「ありがとう、魔法少女セラキュア」
うん、これでもう大丈夫。
侵入者2人の実力はまだわからないが、魂さんが負けることはないだろう。
僕の力はわからないが、彼女が圧倒的な実力を持っていることは自然と感じ取れる。
「来る」
どごーーーーーーんっ、と落雷のような轟音が鳴り響き、屋根裏宇宙の天井が砕ける。パラパラと雪のように降ってきたのは、無限に加速した時間の数字だった。
「さすがタクミ様、よもや無傷で着地できるとは」
「くそっ、衝突が怖くて大事な文字の力を使ってしまったっ」
数字と共に落ちてきた侵入者たちが、話しながらこちらに向かってくる。
「あ、あれ? ちょっと予想以上に強くないか?」
魂さんなら絶対大丈夫と思っていたが、やってきたのは、無限界層ランキングの3位と4位。武器商人ソネリオンと勘違い王タクミのようだ。
「ちょ、ちょっと、ちょっと待って、魔法少女さん、このまま戦ったらマズイよ」
「なんやねん……ちがう、どうしたの? 今、最高に盛り上がるシーンですよっ」
「いや、でも2人とも、かなり強……ああっ、待ってっ、行かないでっ」
「宇宙の平和を守るため、銀河の彼方からやって来たっ! 魔法少女セラキュアっ、はっ!!」
クルクル回りながら登場して、決め台詞と共にビシっ、とポーズを取る魔法少女。
器に影響されすぎて、完全に魔法少女になりきっている。
確かに敵が強そうだからと躊躇する魔法少女なんていままで見たことがない。
「な、なんだっ、いきなり魔法少女が現れたぞっ! しかもこのアニメ知ってるよっ! なにこれ、ソッちんっ!?」
「ま、魔装備ですっ! 強力な魂が入っているみたいですっ! 気をつけて下さいっ、すぐに私の魔装備で魔法防御壁を展開しまっ……ゴバハァッ!!」
「ソッちっーーーーんっ!!」
魔法少女セラキュアの最初の一撃は、魔法ではなく物理だった。
踏み込んだ魔法少女の足元に小さなクレーターが出来上がるほどの、超絶的な腹パンだった。
見た目から魔法を予測していた武器商人は、得意の魔装備を使う間も無く、屋根裏まで飛んで行く。
「ミラクル魔法セラキュアパンチっ!!」
「それ魔法じゃないよねっ! 絶対違うよねっ!!」
僕もそう思ったが口にはせず、こっそりとアニメのオープニングをリピートさせた。
コミックス4巻が、2025年12月25日に少年チャンピオンコミックスから発売されます! 小説版とはまた違ったオリジナル展開になりますので、ぜひぜひお手に取ってみて下さい。よろしくお願い致します。




