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三百二十五話 魂の客人

 

「あ、あれ? ここどこなん?」


 さくっ、ロッちんの頭にうちが刺さった瞬間、びっくりして魔剣から、ひゅっ、と魂が抜け落ちてしもた。

 肉体はあらへん。タッくんと過去回想に飛んだ時と同じような浮遊感に戸惑ってしまう。


 下を見下ろすと、どうやら魔剣はロッちんの穴に受け止められたみたいやから、このまますぐに戻っても大丈夫そうやけど……


「なんか今やったら、どこにでも行けそうな気がするねん」


 ピキーン、という音が脳内に鳴り響く。


 魂だけやったら、誰も辿り着かれへん屋根裏宇宙バックヤードコスモに行くこともできるんちゃうかな?

 遥か未来とか言うとったけど、うち時間魔法も使えるもんな。


 頭の中でイメージしただけで、その映像が浮かんでくる。


「あ、これ、いけそう」


 疑念から確信に、スムーズに移り変わり、そのまま魂は時の流れに乗って加速した。



 そこにあるのは、ただ一つの小さな星と無限に広がる宇宙空間。星には、どこかで見たことあるような景色が広がってる。


「ここが屋根裏宇宙? タッくんが引きこもってた時の部屋とそっくりやんか」


 全ての界層から取り寄せたと思われるゲームや漫画、アニメやドラマのDVDがそこいらじゅうに散らばってた。

『あのお方』は見当たらへん。どこかに出かけているのか、寝てるのか。


「ここからは出られへんはずやから、そう遠くないとこにおるはずやけど……」


 少しでも『あのお方』の情報を集めて、あわよくば弱点を見つけたる。そうすればタッくんも喜んで、うちのことをもっと大切にしてくれるはずや。


「隠れて帰ってくるのを待ってたほうがええやろか。いま、うち魂だけやから、見えへんと思うけど、一応、警戒しとこか」


 散らばっている漫画や雑誌をかきわけて、中に隠れようとするけど、魂だけやから触ることができへん。スカスカと透き通るように、手が本を通過してまう。


「ええわ、そのままもぐりこんだろ」


 本が山になってるとこに、体当たりするように突っ込むと、そのまま中に埋もれていく。これで『あのお方』が戻ったら、じっくり観察できるはずやけど……


「ん? んんっ!?」


 潜り込んだ本の中で、そこに埋もれながらスヤスヤと眠る人間を発見する。


「あ、あのお方かっ!? えっ!? なんで本を布団がわりに寝てるんっ!? 崩れてきたんっ!? それともこれが普通なんっ!? てか、顔近いっ! んっ!? ええっ!! う、うそやんっ!!」


 あまりの情報の多さに、そのまま固まってしまう。

 そして超至近距離にあるまぶたが、ぱちっ、と突然開かれる。


「うーん、誰?」

「えっ? うち、魂やのに、見えてるんっ!?」


 本の山がガラガラと崩れて、目を擦りながら『あのお方』がゆっくり目覚める。

 驚きでへたり込んだうちは、そのままの姿勢で、ずさっ、と後ずさった。


「見えてはいないけど、なんか感じるんだ。懐かしい気配がする」

「こ、声も聞こえてるやん。あ、あんた、どうなってるん?」

「覚えてないんだ。随分と長い間、ここにいるから。もう全部忘れてしまった」


 どんどんどん、と心臓が早鐘を打つように鳴り響く。


「アンタっ、一体誰なんっ!?」

「うん、だから覚えてないんだって」

「なんでっ!? まったくなんも覚えてへんのっ!?」

「うーーん、でも君とはずっとこうして話していた気がするんだ。僕たち、付き合ってた?」


 ずっきゅーーん、と早鐘を打つ心臓が撃ち抜かれる。


 あ、あかんっ、タッくん以外の男にときめいたらあかんっ! うちはそんな尻軽女やないっ! うちはっ、うちはっ!!


「あれ? ちがった? あっ、もしかして結婚してた?」


 ぼんっ、と心臓が爆発した。

 もうあかん、魂だけやのに、多分うち、顔が真っ赤っかや。


「い、いい加減にしいやっ、うちはっ、うちはタッくんだけを愛しっ……」

「あっ」


 突然、『あのお方』が立ち上がったので、ずざざざざっ、と滑りながら後退する。


「また、誰か来るみたい。何億年も誰も来なかったのに」

「え? そうなん? 誰やろ、アンタの友達?」

「わからない、わからないけど敵意を感じる。僕を倒しにきたのかな。ど、どうしよう」


 頼りなさげに、あのお方が動揺していた。


「アンタ、ランキング1位やろ? めっちゃ強いんちゃうの?」

「それもわからないよ。でも、戦い方も忘れてるから」


 ほんまに? でも確かにあのお方からは強者のオーラをまったく感じられへん。


「ここ、なんか武器とかある? まあ武器やなくても、うちが入れる器があったら、侵入者、追い払ったってもええで」


 ちがうで、タッくん。これは浮気ちゃうからな。ちょっと可哀想やから助けてあげるだけやからなっ!


「あ、じゃあ、これでお願いします」


 なにかのアニメのキャラだろうか。

 形容し難いデフォルメのキラキラした等身大フィギュアを、嬉しそうに持ってくる。


「魔法少女セラキュアっていうんだよ」

「え? う、うち、これに入るん?」


 こんなんに入ってるとこ、誰かに見られたら生きていかれへん。

 ……なんでうち、こんなこと言うてしまったん?



コミックス4巻が、2025年12月25日に少年チャンピオンコミックスから発売されます! 小説版とはまた違ったオリジナル展開になりますので、ぜひぜひお手に取ってみて下さい。よろしくお願い致します。

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