表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
419/420

三百二十二話 髭枠

 

「カルナっ、おい、カルナっ、俺が悪かったっ、反省してるから返事してくれっ」


 必死に呼びかけるが、まるで反応がない。

 初めて会った頃から何年も経つが、こんなことは今まで一度もなかった。魔力が尽きて寝ている時でも、剣を握れば、その鼓動を感じることができたのに……


「ダメでござるよ、完全に心を閉ざしているでござる。タクみんの浮気にショックを受けてるでござるよ」

「浮気なんてしてないよっ、全部、チョビ髭の罠なんだってっ」


 実際、カルナと真逆の白い聖剣はただのダミーで、魂が入ってない見せかけだけの凡庸な剣だった。


「ロッカが話しかけても返事はないのか?」

「まったくでござるよ。魂が魔剣の深層に引きこもっているみたいでござるな」


 くっ、引き篭もり上級者の俺にはわかる。一度、引きこもってしまえば、よほどのことがない限り出てこなくなってしまうことをっ。


「ちょっとクロエに会ってくる。妹の呼びかけなら少しは反応するかもしれない」

「大丈夫でござるか? また別の女に会いに行ったと勘違いされないでござるか?」

「えっ、クロエは大丈夫だろ、カルナの妹だし……」

「姉妹同士が恋のライバルになる漫画いっぱい見たでござるよ」


 うん、その知識いらない。でもカルナもロッカと一緒に漫画読んでるしなぁ。


「し、仕方ない、ロッカはカルナを連れてクロエの所に行ってくれないか。エメラルド鉱石で囲まれた大鍾乳洞で黒龍の王様やってるはずだから」

「引き受けたでござるよ。タクみんはどうするのでござるか?」

「ちょっと武器屋の親父に文句を言ってくる。いや、チョビ髭の一つくらい、もいできてやる」


 これ以上、俺たちにちょっかいをかけれないように、軽く懲らしめてやらなければならない。カルナがいないので文字の力を使うことになるかもしれないが、それもやむなしだ。


「チョビ髭を連れてきてカルナに謝罪させる。ロッカはクロエと2人でなんとか閉ざされたカルナの心を解放してくれ」

「合点承知の助でござるよっ」


 だ、大丈夫だろうか? 一抹の不安を感じるが、そっちはロッカに任せるしかない。


「まってろよ、カルナ。すぐに身の潔白を証明してやる」


 なるべく早く解決する。でも文字の力は節約したいので、再び徒歩で山を下り始めた。



「……え? なにこれ?」


 武器屋の前に辿り着くと、そこには信じられない男が倒れていた。


【虚偽王】ザ•ハーク


 無限界層ランキング3位の白髭の老紳士。ピンと上を向いた白髭から、ピンヒゲとあだ名される。

 一見、ひ弱な老人に見えるが、全ては嘘でコーティングされていた。力を極限まで凝縮し、本来の姿は蒼穹そうきゅう天井リミテッドにも収まりきらない程の巨人であり、一度見た能力を全て無効にする力を持っていると言われていた。

 一桁ランキングの会議では司会進行を務め、トーナメントにおいては、1番苦戦するかもしれないと警戒していた男だったのに……


「か、完膚なきまでにやられている。上を向いていた白髭がへにょへにょに垂れ下がってるじゃないか。一体誰が……」


『あのお方』かっ!? いや、その封印はまだ解けていないはずだ。だとすれば、可能性があるのは、伽羅様かネレスぐらいかっ!?


「ああ、そのゴミはさっき、私が片付けておきました」

「ソ、ソネリオンっ」


 いつもと同じように、ただの武器屋の親父がそこに立っている。強者のオーラは微塵も感じない。とてもじゃないが、無限界層ランキング3位のピンヒゲを倒せるとは思えなかった。


「まさか、お前がやったのか? ソネリオン」

「……」

「ソ、ソッちんがやったのか?」

「ええ、まるで歯ごたえのない、ガッカリな髭でした」


 どうやって? いや、そもそもなぜ、ランキング3位のピンヒゲがこんなところに? 


「強大な魔装備に反応してやってきたようですが、最終破壊兵器を使うまでもない雑魚でしたね」

「無限界層の3位だぞ。俺やネレスよりランクが上なんだ。最下層にいる武器屋の親父が勝てる相手じゃない」

「そうですね。私1人では相手になりません。でもここは私の領域です。数々の魔装備たちが私と共に戦ってくれたのです」


 武器屋にあるだけの魔装備を解放したのかっ!?

 いくら魔装備を愛し、魔装備に愛された男だとしても、それ程の武器を使いこなせるものなのか?


「良き武器たちは自ら動いて戦います。意志があるのですよ。私たちは師弟関係でもなければ、奴隷を支配しているわけでもない。大切にしていれば、真の相棒として助けてくれるのです」


 ソネリオンの背後、武器屋の倉庫から歓声が鳴り響く。いったいどれだけの魔装備をコレクションしているのか、まったく検討もつかない。


「そして、武器をただの武器として扱い、対等の関係を保てない者には、魔装備はその心を閉ざしてしまいます」


 カルナのことかっ! このチョビ髭、お前が変な聖剣を送りつけてきたくせにっ!!


「タクミ様が粗雑(そざつ)に扱ってきた、この子たちのようにね」

「あっ、それはっ!!」


 ソネリオンが両手を広げると、指の間に3つずつ、合計6個の小さいカプセルが挟まっていた。

 そこには見たことがある文字で、『皇』『数』『怪』『蟲』『剣』『盾』と書かれている。

 それは無限界層ランキングで倒してカプセルに封じ込めた、かつての強敵たちだった。


「神樹王モクモク戦のどさくさで失くしていたのに、なんでお前が……」

「このカプセルも器に魂を封じた魔装備と同じものです。そして魔装備は誰が自分に相応しいか判断することができます。彼らは自ら私の元へとやってきたのですよ」


 まずいな。文字の力を制限されていなくても、6つのカプセルを同時に使われたら相当苦戦する。さらに武器屋の倉庫にある大量の魔装備まで使われたら……


「で、今日はどのようなご用なのですか? タクミ様」

「べ、べ、べ、別に、ちょっと通りかかっただけだよ」


 【虚偽王】ザ•ハークと入れ替わり、無限界層一桁トーナメントに【武器商人】ソネリオンがエントリーした。





コミックス4巻が、2025年12月25日に少年チャンピオンコミックスから発売されます! 小説版とはまた違ったオリジナル展開になりますので、ぜひぜひお手に取ってみて下さい。よろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ