三百二十一話 寿
『あれ? タッくん、新しい魔装備は? ソネリオンにもらえへんかったん?』
洞窟の前に魔剣カルナが1人、刺さっている。
なんでもない顔で送りだしてくれたが、自分以外の魔装備がくることが心配だったのか。
「うん、思ってたのと違ったから、そのまま帰ってきたよ」
『そ、そうなんや。やっぱりタッくんには、うちしかおらへんねんな』
「そうだな、俺にはカルナだけで十分だ」
『な、なんやっ、タッくん、めっちゃ素直やんかっ、え? もうラブラブなん? うちら付き合ってるんっ?』
うん、付き合ってない。
でも上機嫌なので、何も言わずに黙ってカルナを腰に刺す。
『ぎゃーー、これって抱きしめてる? もうハグみたいなもんやんな? ……結婚する?』
うん、結婚しない。
いつもと同じように腰に帯刀してるだけだよね?
「なにを騒いでいるのでござるかっ、タクみんの嫁は過去現在未来において、拙者だけでござるよっ」
「うん、ちがうよ。ややこしくなるからでてこないで」
「どうしてでござるかっ!? ほっといたらイヤな予感がするのでござるよっ!! ラブコメ漫画を読みまくった拙者をなめないでほしいでござるっ!!」
いらない知識でロッカがパワーアップしている。
「この世界は漫画じゃないからね、そんなの参考にならないよ、ロッカ」
「なんてことをいうのでござるかっ! 充や留美子に謝るでござるよっ!」
なんで大先生が友達みたいになってるんだ。でも本当に違うんだ。こっちは漫画じゃなくて……
「すいませーん、郵便でーす、タクミさん」
「へ?」
ややこしい時に、突然、郵便配達人がやってくる。
こんな山奥に何かが配達されるなんて……ギルド会長のバルバロイから手紙が来た以来のことだ。
「ん? なんでござるか? 小包でござるな、送り主は武器商人ソネリオン……」
『タ、タッくん、俺にはカルナだけで十分だ、なんて言うたくせに、こっそり配送で新しい魔装備をっ!?』
「い、いや、違うぞっ、俺は新しい魔装備なんか見向きもしなかっし、紹介されたのは、こんな小さいやつじゃなかったよっ、これは何かの間違いで……って、ロッカっ、スケベ猛省中のプレート用意しないでっ!!」
くそっ、ソネリオンのやつ、一体、何を送ってきたんだっ!?
「怪しくないなら、拙者たちの前で堂々と開封するでござるよ」
『うん、そうやな。……いやタッくん、文字の力でカモフラージュするかもしれへんから、うちらで開けたほうがええかもしれんな』
「ちょっ、ちょっと待ってっ! それ危ない魔装備かもしれないから勝手に開けないでっ!!」
もしかしたら、小型の最終破壊兵器かもしれない。
開けた途端に世界が滅亡するほどの爆発が起きるなんて可能性も……いや、2人とも、何? なんでそんな目で俺を見るの?
「タクみん、本格的に怪しいでござる」
『タッくん、浮気どころか、すでにその魔装備とあんなことやこんなことをっ』
「どんなことだよっ!? な、なにもしてないよっ!! 違うんだっ、もしかしたら、この箱の中、最終破壊兵器かもしれないんだよっ!!」
し、静まりかえらないで。黙々とスケベ猛省中のプレートを豪華に飾りつけないで。
「もうタクみんはこれぐらいのプレートじゃ足りないかもしれないでござるよ」
『ほんまやな、もう手遅れやな。どうする? ちょんぎってしまう?』
な、何をちょんぎるの? こ、怖くて聞けない。
「よかったら、それ、私がカットしましょうか?」
「やめてっ! それだけはカットしないでっ!!」
いままでで1番怖いレイアの登場シーンに、背筋が凍りつき、それがちぢみあがる。
「ちがいますよ、タクミさん。カットするのは、その小包です」
「そ、そうか、俺はてっきり……」
「ダメでござるよ、レイア様。証拠はちゃんとおさえないといけないのでござる」
いつのまにかロッカが小包を取り上げている。
「レイア様だって、中身が何か気になっているではごさらんか?」
「タクミさんが最終破壊兵器といえば、それを信じなければなりません。それがどんなに嘘っぽくて、めちゃくちゃ疑わしいことでもです」
う、うん、レイアも全然信じてないよね?
「と、とにかく、これは危ない物かもしれないから、そのまま送り返すか、レイアにカットしてもらうほうがいいんだよ」
「タクみんなら中身なんて文字の力でわかるのではござらんか?」
「えっ」
黒塗りの辞書で文字制限されていることは言ってない。戦いでもないのに、ここで大切な文字を使うわけにはいかない。
「う、うん、これは超危ない物だ。文字の力なんて使わなくてもわかる」
『めっちゃ嘘くさいわ。ロッカ、もう、それ、開封して』
「やめてぇええっ!!」
本当に最終破壊兵器かもしれないのにっ、ロッカが無造作にビリビリと袋を破って開封する。
「タ、タクみん、これはっ」
『うちと同じ魔剣……違う、真っ白な聖剣や』
カルナと全てが真逆の剣。
さらに開けられた箱には、ご丁寧に寿と書かれたのし紙が貼られていた。
「タクみんっ、寿とはなんでござるかっ!? この剣と結婚する気でござるかっ!?」
『タッ……くんっ』
「ちがうっ、俺はこんなの貰う約束なんてしていないっ! はっ、もしかしてソネリオンは俺とカルナを喧嘩させようとっ!!」
な、なんて巧妙に仕組まれた罠なんだっ! あのチョビ髭っ!
「タクみん、あまりにも見苦しい言い訳でござるよ」
「カ、カルナは信じてくれるよなっ、俺の心を読んでるもんなっ!?」
しかし、その日から直接脳内に伝わっていたカルナの声は、まったく聞こえなくなってしまった。
コミックス4巻が、2025年12月25日に少年チャンピオンコミックスから発売されます! 小説版とはまた違ったオリジナル展開になりますので、ぜひぜひお手に取ってみて下さい。よろしくお願い致します。




