閑話 ソネリオン
「お前も『あのお方』側の登場人物か。ソネリオン」
たとえ、ソッちんと呼ばれていても答えるわけにはいかなかった。わかっていて、あえてソネリオンと呼んでくれたのか。
タクミ様はそれ以上何も聞かず、漆黒の布がかかった最終破壊兵器に背を向けて帰っていく。
「またのお越しをお待ちしております」
振り返ることなく扉は開かれ、チリン、とドアチャイムの鈴の音だけが小さく鳴り響いた。
「さて、これでよかったのですか、ネレスさん」
「うん、そうね。今は最終破壊兵器があることを意識させるだけでいい。それだけで世界や仲間を守るために闘いの選択肢も絞られてくるはずよ」
奥の倉庫に見慣れないピンクのドアが出現して、そこから、桜色ショートヘアの少女が現れた。左右の腰には、それぞれ紅と蒼の抜き身の剣をぶら下げて、黒装束を身に纏っている。
「紅蓮と蒼漣の調子はどうですか?」
「いいかんじ。でも、けっこう仲悪いよ。一緒に使ったら喧嘩ばかりしてる」
「戯れあっているのですよ。炎と水、性格も性質も反対ですが、お互いを信用していますから」
ふぅん、といったように、二刀を一瞥する。
無造作に使っているようだが、紅蓮も蒼漣もネレスさんを相棒として認めているようだ。
「で、本物はいつ完成するの?」
ネレスさんが最終破壊兵器にかかっていた漆黒の布を掴んで、バッ、と勢いよく放り投げる。
そこに兵器などなく、ただ壊れて使えなくなった装備がゴミのように積み上げられているだけだった。
「器だけならそう時間をかけずに作れますが、核となる魂が足りませんね。世界を破壊するほどの魔装備となると、無限界層上位クラスの強者が求められます」
「この子たちじゃ足りない?」
「残念ながら。今はまだ実力不足かと」
ぎゃーぎゃー、と紅と蒼の魔装備が文句を言っている。成長すれば相当な力を持ちそうだが、流石に今回は間に合いそうにない。
「やはり、魔剣カルナが必要か」
「そうですね、あの魔装備なら単体でお釣りがくるでしょう」
カルナさんは素晴らしい。
私の元にいた時とは比べ物にならない程に、磨きあげられ鍛えられている。
メンテナンスに来た時に、あわよくば封印しようと試みたが、肩を揉まれていると勘違いされるほどの強靭さだった。
「しかし、彼女はタクミ様を裏切らないと思われますが……」
「どうかな? 可能性はあると思うよ。こちらの世界では、どう考えてもタクミと結ばれるエンディング、カルナエンドはありえないんだから」
「そうでしょうか? 常に側にあり続ける魔装備は、最高のパートナーになりうる存在ですよ」
「あまりに近いと相棒にはなれても、恋人にはなれないんだよ」
まるで自分にも言い聞かせているみたいな言い方ですね。
ネレスさんの正体は私の情報網をもってしてもわからなかった。名前もなく、おそらく姿形さえ変わっている。
だけど、彼女はかつてタクミ様と非常に近しい人間だったはずだ。遠い未来か、遥かな過去で。
「とにかく器は完成させておいて。最悪ハッタリだけでも使えるから」
「かしこまりました。トーナメントの再開までには間に合わせます」
タクミ様を騙すのは忍びありませんが……
「不満そうね。今ならまだ、あっちに寝返っても許してあげるよ?」
「まさか『あのお方』が負けるなど想像もつきません。無限にある世界が収縮され一つになるのはタクミ様の世界ではなく、『あのお方』の世界だと確信しております」
そう、それはもう揺らぎようのない事実として判明している。
すでにこちらの世界は更新されておらず、勘違いコメディというテーマすら瓦解しているのだ。
継続していくのは、新しい『あのお方』の世界。
そして、私はそこに登場していなかった。
なんらかの事情が働いたのか。
タクミ村での出会いも、魔盾ビックボムを渡すエピソードも、レイア様にカットされたように、私の出番はまるまるなくなっていたのだ。
「『あのお方』側に引き込んで頂いたこと感謝しておりますよ」
『あのお方』につかなければ、私の存在そのものがなくなっていただろう。そうなれば私の愛する魔装備たちも消えていくことになる。それだけは何としても、避けなければならない。
どちらがより魔装備を愛しているか。
どちらがより魔装備に愛されているか。
「最高の魔装備を作って差し上げますよ、タクミ様」
コミックス4巻が、2025年12月25日に少年チャンピオンコミックスから発売されます! 小説版とはまた違ったオリジナル展開になりますので、ぜひぜひお手に取ってみて下さい。よろしくお願い致します。




