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三百十九話 タッチ

 

「そうじでござーる♪ そうじでござーる♪ たーくみーんとそうじでござるんっ♪」

「ご機嫌だな、ロッカ。俺は溜まりに溜まったゴミの山を前にうんざりしてるよ」

「タクみんが何もせずにダラダラ過ごしていたのがいけないでござるよ。よく足の踏み場もないくらいゴミを溜め込んだものでござるな」


 だってトーナメント始まらないんだもの。

 激しい戦いの連続だったから、ちょっとくらいダラダラしてもいいじゃないか、と思ったのがいけなかった。

 わずか数週間で、洞窟がゴミ屋敷みたいになるなんて。


「ここまで汚くなったのは初めてでござるな。文字の力を覚えてからは、ゴミは全部消してたのに、なぜ使わないのでござるか?」

「ああ、それはちょっとね、今……えないんだ」

「え? なんて言ったのでござるか? 声が小さすぎて聞こえないでござるよ?」


 文字の力は使えないんだ。

 アフロを解除してもらう代わりに伽羅様と交わした取引、その1つが文字の制限だ。

 無尽蔵に無自覚にこれまで使ってきた文字の力。

 正確には使えないではなく、本番まであまり使えない、が正解だ。

 一度使った文字は、俺の中から消えて二度と使えなくなる。それが伽羅様が俺にかけた誓約「黒塗りの辞書(ブラックアウト)」だ。


「……文字の力にばかり頼ってたら人間がダメになる。これからは普通に出来ることは、自力でちゃんとやっていこうと思ったんだよ」

「タ、タクみんが当たり前のことを偉そうに言ってるでござるよ」

「ふふふ、よくわかったな、その通りだ」


 とにかくトーナメントが始まるまでは、一文字たりとも使うわけにはいかない。

 掃除や洗濯などの雑用は、面倒くさいが全部ズルせずやっていくしかない。


「……主にロッカが」

「さっきから、ちょこちょこ聞こえないでござるよっ」


 仕方ないから怒られないように、頑張って掃除をするフリをする。

 漫画やゲームは勝手に捨てられたら困るので、隅っこのほうに集めて並べて……


「ん? この漫画、読んだことないぞ」


 床に無造作に散らばった数々の漫画から見かけないものを見つける。


「タクみんっ、掃除の時に漫画を片付けるのは危険でござるよっ、絶対に脱線するでござるっ」


 わかってる。途中で漫画をチラ見したら高確率でそっちがメインに変わってしまうのがあるあるだ。でも、この漫画はそういうのじゃない。


「おっ、しかし、それはなかなか面白そうな漫画でござるな、後で拙者にも貸してほしいでござるよ」

「い、いや、これはロッカにはまだ早すぎるかな」

「ええっ、もしかして、その漫画18禁でござるかっ!? スケベ猛省中ではなかったのでござるかっ!!」

「違うよっ! そういうのじゃないよっ! でも見せられないのっ!!」


 一体、誰が持ち込んだ?

 この世界に存在するはずのない3冊の漫画。

 パラパラとチラ見しただけだが、やはり相違点がいくつか存在している。

 この漫画は禁書として誰にも触れられない場所に隠しておこう。


「さあ、そろそろ気合いを入れて本格的に片付けていくか……ロッカが」

「だから最後のほうだけ声が小さすぎるでござるよっ」


 すでにこの時点で片付ける気力は、まったく残っていなかった。



『あ、あれっ、タッくん、掃除するていうてなかったっ? 朝より散らかってるやんかっ!!』


 掃除の間、麓のタクミ村でソネリオンにメンテナンスしてもらっていたカルナが帰ってくる。


「うん、ちょっとコミックフェスティバルが始まっちゃって……」

『うそやんっ、ちゃんと掃除するようにロッちんに言うといたのにっ、てか、ロッちん、何してるんっ!?』

「7巻がないのでござるよっ、すごく重要な巻なのにっ、ここを飛ばしては、次にいけないのでござるっ」


 うん、そこで主人公変わっちゃうからね。まさか、タイトルの意味がそういうことだったとは、俺も初めて読んだ時はビックリしたよ。


『あかんあかんあかんっ、そんな適当に探したらっ! タッくんが積み上げた漫画タワーが崩れてまうっ!!』

「それどころではないのでござるよっ! 早くこの続きを読まないと、拙者、死んでも死にきれないのでござるっ!」

『そ、そこまでなんっ!? ……ちょっとうちも読んでみよかな』


 ミイラ取りがミイラになる。これでもうコミックフェスティバルを止める者は誰もいない。



『見つけたっ! 7巻見つけたでっ!!』

「やったでござるっ、さすがカルちんでござるよっ、さあ、早く拙者に献上するでござるっ」

『うちが見つけたんやからうちが先やっ! だいたいロッちん、あきらめてもう20巻まで読んでるやんっ!』

「じゃあ一緒に読むでござるよっ、拙者がページをめくらせていただくでござるっ」


 カルナがゴミも片付けないままに、自力で根こそぎ探したまわったのでもう部屋はぐちゃぐちゃである。


「あ、あのぅ、さすがにそろそろ片付けない? いくらなんでもこの状態は……」

『タッちゃんは黙っててっ!! 』

「そうでござるっ、今、カッちゃんが大変なことになってるのでござるよっ」

「タッちゃんじゃないっ! 俺はタッくんだよっ!!」


 コミックフェスティバルを止めれる者はもう誰もいなかった。







休載していた『うちの弟子』コミカライズが秋田書店様のチャンピオンクロスで9月2日から再開されました。

しばらく毎週更新なので、ぜひご覧になってください!


またコミックス4巻が、2025年12月25日に少年チャンピオンコミックスから発売されます! 小説版とはまた違ったオリジナル展開になりますので、ぜひぜひお手に取ってみて下さい。よろしくお願い致します。

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