三百十六話 取引
重い。
頭が重すぎて何もする気がおこらない。
アフロの頭をなんとかしようとして、色々試したがどんな力も全部吸収してしまう。
どうしようもない、と気づいた時には、すでに取り返しのつかない大きさまで成長してしまった。
「タ、タクみん、ある意味すごいラスボスになったでござるよ」
「本体よりアフロのほうが大きいからね。もう俺、転がってしか移動できないよ」
重心の全てがアフロに集約されている。
寝転がってコロコロ転がるのも、随分と慣れてきた。ついでにモジャモジャの中に色んな道具も収納できる。うん、便利。
『いや便利ちゃうわっ! もうすぐトーナメントやのに、タッくん、どうやって戦うんっ!?』
「もうそれどころじゃないんだよ。これからどうやってアフロとともに生きていくのか。もうその段階まできてしまったんだ」
レイアのカット能力が通用しない時点であきらめてたら、ただのモジャモジャですんでいたのに……
「確かにこの状態では戦えないでござるな。もうタクみんというよりアフみんと呼んでしまいそうでござるよ」
いいよ、もうアフみんで。
ゴロゴロ、ゴーロゴロ、と、もう意味もなく洞窟内を転がっていく。
『ああっ、そんな狭いとこもスイスイとっ、アッくんのアフロ操縦技術がどんどん上がっていくっ』
「しゃ、社会ではなんの役にもたたない無駄なテクニックが磨かれていくでござるよっ」
それでいいんだ。俺はもう世界初のアフロ型人間として生まれ変わるんだ。
「カットするのが無理なら、いっそ付けたしてみるのはどうでしょうか?」
「え?」
いつものように突然登場してくるレイアさん。
でも今回は背後ではなく、俺のアフロに乗っかっていた。
「たしてみる? これ以上、アフみんのアフロを大きくするつもりでござるか?」
「いえ、今の状態だと頭が重すぎて転がるしかないので、アフロに手や足を足してみるんです。アフミさんの文字の力なら、新しい手足を創造することも出来るはずです」
い、いや、確かに出来るけど、それかなりやばい生物が誕生しないか?
もう完全に俺ではなく、アフロが主導権握らない?
「これから戦う相手はアフミさんではなく、アフロが本体だと勘違いしますよ。そうなればもう貰ったようなものです。どんな攻撃もアフロは吸収してしまうんですから」
「でも、俺の頭、どんどん巨大化していくんじゃない?」
「まさに、恐怖のラスボスですね」
違う。俺の理想としているラスボスと全然違う。
「あっ、アフみんっ、どこに行くのでござるかっ、それはピンクディメンションドアではござらんか……あ、頭、入らないでござるな」
逃げるように移動しようとしたが、ピンクのドアにアフロが挟まって身動きがとれない。
「アフみん、どこに行こうとしているのでござるかっ」
「うん、ちょっとね。最後の手段をね。できれば、みんな、ついてこないでね」
重たいアフロによろめきながら、久しぶりに立ち上がる。転がっていくほうが楽だけど、アイツにカッコ悪い姿は見せられない。
「レイアも今回は姿を消して来ないでね」
「え? 嫌ですけど、死がふたりを分かつまで私たちはずっと一緒ですけど」
「お願い」
「わ、わかりました。そんなときめく目で見ないで下さい。アフロじゃなかったらキュン死してます」
カルナもロッカに預けて、1人、ヨタヨタと山を登っていく。
数日前に平然と登った山道が険しく厳しく、重力に押し潰されそうになる。
目的の山頂に辿り着く頃には、カッコなんか気にせず最初から転がっていけば良かったと心から後悔した。
『どうしたの、タクミ。頭でかいけど』
山頂の祭壇で、前回と同じように伽羅様がチョコンとお座りしていた。
「ちょっと取り引きしないか?」
わふっ、と吠えた伽羅様が祭壇から降りて、トコトコと近づいてくる。
俺が差し出した手にプニプニの肉球がポンとのっかった。
休載していた『うちの弟子』コミカライズが秋田書店様のチャンピオンクロスで9月2日から再開されました。
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またコミックス4巻が、2025年12月25日に少年チャンピオンコミックスから発売されます! 小説版とはまた違ったオリジナル展開になりますので、ぜひぜひお手に取ってみて下さい。よろしくお願い致します。




