閑話 ラスボスなのに
「タクみん、どうしたでござるかっ!? 頭がモジャモジャでござるよっ!!」
「うん、ちょっとイメチェンしたんだ。似合わないかな?」
「雷様みたいでござるよっ」
伽羅様に先日やられた傷がズキンと痛む。再生で治したはずなのに爆発のダメージが、まだ身体の中に残って燻っている。そして、髪は再生対象外なのか、アフロヘアのまま治らない。
「どうしよう、俺、ラスボスなのに」
『アフロにバンダナに赤マントって何がしたいん、タッくん』
う、うん、俺も何がしたいかわからない。
でも、口に出して言わないで。現実を受け止めきれない。
「よかったらその髪、カットしましょうか?」
レイアの声がすぐ後ろから聞こえてきたが、存在を消しているので姿は見えない。相変わらず心臓に悪いからやめてほしい。
「それって散髪のカットじゃなくて、カット能力のほうだよね?」
「いえ、散髪のカットのほうです」
「う、うん、できたらカット能力の方でお願いします」
芋剥きをマスターするまで何年もかかったレイアに散髪のカットなんて怖くて任せられない。
「散髪の方も自信があったのですが……仕方ありません、カット能力で元に戻してみますね」
確か芋剥きの時も最初自信満々だったよね。
しかし時の流れでさえカットできる万能の力。これで、ついでに爆発のダメージもなかったことに……
「あ、あれ?」
「ん? どうした、レイア?」
「お、おかしいですっ、カットできませんっ、こんなことは初めてですっ! 『重要事項のためこの案件を削除するには管理者の権限が必要です』の警告マークがタクミさんのアフロに貼り付いてますっ!!」
「え、えええっ!!」
だから文字の力でも治せなかったのかっ。
相手の攻撃を返すだけじゃない。伽羅様の攻撃は、全て元に戻せない圧倒的な力が脈動しているんだ。
「と、とりあえず髪型は置いといて、他の部分で補っていこうかな」
「それなら拙者がタクみんをラスボスっぽくコーディネートしてあげるでござるよ」
え? ロッカ、そういうの得意だった? いっつも同じ蛮族服しか着てない気がするけど……
「とりあえず、一発でラスボスとわかるように、まずはコレを首からぶら下げるでござるよ」
「そ、それ、スケベ反省中プレートじゃないかっ!」
「ちがうでござるよっ、ちゃんと裏側に『俺はラスボス』って書いたでござるよ。地球に優しいリサイクルでござる」
「やめてっ、戦いの途中で裏返ったらどうするんだよっ、超恥ずかしいじゃないかっ」
ダメだ。やっぱりこういうのはロッカには任せられない。うちのメンバーで1番こういうのが得意なのは……
チリン、と腰元の鈴が綺麗な音色をたてる。同時に目の前の空間が歪んで、ルシア王国から久しぶりの大賢者が転移してきた。
「ヌルハチっ」
「久しぶりじゃな、タクミ。なにか困ったことでもあったのか」
うんうん、と上下に激しく首を振る。これほどヌルハチが頼もしく見えたことはない。
「俺、ラスボスになったんだけどアフロが散髪カットできなくてっ! スケベ反省中のバンダナ赤マント雷様なんだよっ!!」
「お、落ち着けタクミっ、なにがなにやらさっぱりわからんっ」
「俺も何が起こってるのかわからないんだよっ、いつものようになんか上手いことやっておくれよっ、ヌルえもんっ」
このままじゃ俺、ロッカに魔改造されちゃうよ。
「誰がヌルえもんじゃ、とにかく見た目がヤバいことになっとるんじゃな。幻惑の魔法をかけて、他者からはカッコよく見えるようにすればよいのか?」
「おおっ、それそれっ、そういうのを待ってたんだよっ、めっちゃ強いラスボスのイメージでお願いしますっ!」
ヌルハチが思うラスボスのイメージだと魔王が1番の候補だろうか。
「怱々たる幻よ、夢現なる住人よ。汝の望む姿を映し見せ、それを現世に残したまえ…… 幻惑っ!!」
「おおっ、これで俺もカッコいいラスボスにっ」
『いや、タッくん、全然なんも変わってへんで』
「へ?」
頭のアフロがヌルハチの魔力を吸収して、幻惑を無効にしている。
「いや、変わってるでござるよ。アフロが5倍に膨れ上がったでござる」
「いやァァァアァァァァアァっ!!」
こっそりと帰っていくヌルハチに手を伸ばしたが、魔力を吸収した5倍のアフロが重すぎて追いかけることができなかった。
休載していた『うちの弟子』コミカライズが秋田書店様のチャンピオンクロスで9月2日から再開されました。またコミックス4巻が、2025年12月25日に少年チャンピオンコミックスから発売されます! 小説版とはまた違ったオリジナル展開になりますので、ぜひぜひお手に取って見て下さい。よろしくお願い致します。




