三百十二話 時を止めないで
「時間系禁魔法の代償だ」
カルナがカッチーンとなっているのは、自らの時間が止まっているからだ。
同じように固まっているリンのほうは代償ではなく、カルナが時間を止めてしまったようだ。
「禁魔法は危険だから、むやみやたらに使うものじゃない。なんでリンは軽々しく2人に教えようとしたんだ?」
「か、軽々しくはなかったのでござるよ。タクみんの次の敵が早すぎるから、拙者たちが時間を止めてサポートしようとしたのでござる」
うん、その気持ちは有難いけど、一歩間違えれば、こんなことになってしまう。一時期、魔法が使えなくなっていたリンなら痛いほどわかっているとおもったけど……
「タクみんの力で元に戻せないでござるか?」
「ちょっと難しいな。貼り付けた文字まで止まってしまうから。魔法関係は、俺よりもヌルハチや六老導たちに聞いた方がいいかもしれない」
「あのジジイたちは嫌でござるよ」
魔法王国関連で、ロッカとリンは六老導と揉めている。ここはやっぱり頼りになる大賢者にお願いしてみようかな。
「その時間カットしましょうか?」
「うわあっっ!!」
突然背後から声がして、心の臓がびくん、と跳ねる。
「い、いたのか、レイア」
「はい、ずっーーといますよ、いつ何時も」
「い、いや、それ怖いから、前にやめて、て言ったよね?」
「言ってませんよ。もし本当にタクミさんが言ってたとしても、全部カットしてます」
な、なんて恐ろしい能力だ。いやそれより今は……
「まさか、止まった時間までカットできるの?」
「はい、小さい範囲ですし、薄皮を剥がすみたいにペリッ、とカットできます」
そんな事もできちゃうの!? もう俺の変わりに戦ってくれないかなっ!?
「お、お願いしてもいい?」
「はいタクミさん、もうできましたよ」
『ぷはぁーーっ』
カチンカチンだったカルナが大きく息を吐く。
魔剣だから呼吸しなくていいはずだけど、それほど息苦しかったのだろう。
『ヤバっ、禁魔法ヤバいわっ、うち完全に止まってたやんっ』
「カルちんっ、大丈夫でござるかっ、止まってる間も意識があったのでござるかっ?」
『あるある、めっちゃ怖いわ。宇宙に1人とり残された感じやで。もうほんま号泣してしまうわ。時間止まってたから涙でえへんかったけど』
いや、もうやめようよ。時間魔法は下手すれば、自分も含めて、全てが止まったまま動かなくなってしまう。
「えー、時間魔法は当分禁止にします」
『なんでやっ、それやとタッくん助けられへんやんっ、ご褒美ももらわれへんっ』
「ご褒美ってなに?」
「そ、それは、内緒の秘密でござるよっ」
え? そんな、人に言えないやつなのっ!?
今のうちに、時間魔法が使えないように3人に文字を書き込んでおこう。
『あかんて、タッくんっ、うちらが時間止めへんかったら、どうやってあの速いのと戦うんっ!?』
「走るよ、本番までにもっと走る。やっぱり正々堂々と、ちゃんと真っ向から戦わないといけない気がするんだ」
「そ、それはあまりに無謀でござるよ」
うまく操れない時間魔法を使うほうが無謀だよっ。
「だいたい向こうは血の滲むような努力で早く走れるようになったんだ。こっちだけ、そんなズルみたいなこと……」
「タクミさん、あの人、早く走ってませんよ」
「へ?」
え? スピード狂が? いや、カルナが取られたのわからないほどの速度で走ってたよ?
「あれ、全部、時間止めてます」
「え? えええっっっ!!」
嘘だろ、あの超スピードは足が速いんじゃなくて、時間を止めてたのっ!?
『なんやっ、アイツ、イカサマやんかっ、時間止めるなんて、なんて卑怯者なんやっ!』
いや、カルナさん? 同じことしようとしてたよね?
「本当でござる。武士の風上にもおけないでござるよ」
うん、ロッカさん? なんでそんな腕を組みながら胸を張って否定できるの?
『でも向こうが時間止めるならこっちもやらんと損やんな』
「確かに、それは仕方ないでござるな。ついでにレイア様も時間魔法マスターして、4人でやれば圧勝できるでござるよ」
「いやいやいやいや、ダメだよっ、1人でも危ないのにっ、そんな大人数で時を止めないでっ」
大失敗するイメージしか浮かばない。
ご褒美も気になるし、時間魔法作戦はこのまま永久的に禁止したい。
『けど、時間止める相手にタッくん、どうやって戦うん?』
「そうでござるよ。試合開始そうそう止められたら何もできないでござる。拙者たちが止め返すしかないでござるよ」
止めるとか、止め返すとか、時間はそんなふうに操っていいもんじゃない。
みんなでそんなことしたら、絶対、時空とか歪んじゃうよ。
「時間を止めるのはなしにしよう。俺たちだけじゃない。スピード狂も」
『そんなん、どうやって……』
「そうでござる。向こうはお構いなしに使って……」
2人の言葉が途中で止まる。
うちの弟子の弟子が、静かにニコッと微笑んだ。




