閑話 舞台裏の生贄たち
はしってる。
タクみんはひたすらに走っているでこざる。
タクみんの次の対戦相手が非常に素早く動くので、その対策で、少しでもスピードを上げる特訓でござるが……
『そういう次元やないような気がするんやけどなぁ』
「拙者も、同意見でござるよ』
少しでも身軽に動くため、カルちんも拙者に預けているが、ただの戦力ダウンになっているだけではござらんか?
『タッくん、考えすぎて間違った方向にいってる気がするねん』
「確かに、あのスピードは少しくらい早くなっても、どうにかできるものではないでござるよ」
瞬間移動や時間を止めるなど、そっち系の能力を鍛えた方がよいのではござらんか? とアドバイスしたでござるが、タクみんは、まずは基礎からと言い張って聞く耳を持たない。
『これはもう、うちらがそういった能力を身につけるしかないんちゃう?』
「拙者、ピンクディメンションドアで瞬間移動はできるでござるよ」
『ほな、時間止めるほうマスターしよか。どんだけ早くても、止まった時間の中では動かれへんやろ』
タクみんを支えるために陰で必殺技を身につける。
これはもう、タクみんは、拙者たちにメロメロになってしまうでござるな、うひひ。
「でも時間を止める能力なんて、どうやって身につけるのでござるか?」
『今ちょうどおるやん。時間系の禁魔法使う、天才魔法使いが』
ああ、確かにいたでござるな。
生贄皇后とか言って、何にもしてないので、天才魔法使いという設定も忘れていたでござるよ。
「あれに頼むのでござるか?」
『あれに頼むしかないやろ』
「む、むぅ」
なんだかちょっと嫌な予感がするでござるよ。
「ふむ、私に時間を操る禁魔法を教えてほしいということですか」
洞窟の奥を増設して作られた後宮殿。
全面を大理石の壁で覆われたその部屋は、どこかの国の王室のようで居心地が悪い。
その中心にある玉座のような真っ赤な椅子に座る生贄皇后リンデン•リンドバーグは、キセルのようなものをふかしながら拙者たちを見下ろしている。
「時間魔法は私の最高の魔法にして、最後の切り札、それをあなたたちに教えるメリットは?」
「タ、タクみんを救えるでござるよっ、次の敵は、めちゃくちゃ早く動くから、時間を巻き戻したり、止めたりしないと、対抗できないのでござるっ」
「ふーーん」
あ、あれ? タクみん大好き幼馴染キャラのはずが、まったく興味を示さないでござるよ?
「生贄皇后である私をほったらかしにして、下級生贄と逃げたタクがピンチなのね。それは自業自得というやつではないのかしら?」
ひぃ、神樹王が攻めてきた時に、拙者とカルちんだけ連れて逃げたことを根に持っていらっしゃるっ!!
「あ、あれは仕方なかったのでござるよっ! たまたま近くにいたのが拙者たちだけだったのでっ、皇后様も近くにいればっ」
「近くにいましたけど? たしか洞窟ごと移動しましたよね? 繋がっていたはずの後宮殿は切り離されたみたいですけど」
ひぃいいぃ、タ、タクみん、めんどくさいから絶対わざと切り離したでござるなっ。
「まあ、タクが直接謝りに来たのなら考えてもよいでしょう。あなたたち、下級生贄ごときでは、お話になりません」
生贄皇后から離れて、部屋の隅でカルちんにこっそりと話しかける。
「どうするでござるか? タクみんは今必死に走っているので邪魔したくないのでござるよ」
『いや、そもそも洞窟の奥に後宮殿があること自体、タッくん、忘れてるで。それどころか、もう生贄制度自体、忘れてるんちゃう?』
「た、たしかに、トーナメントでそれどころではなくなってるでござるな」
やはり、タクみんには知らせず拙者たちだけでなんとかしないといけないでござる。
「あの皇后様、一つ提案があるのでござるが……」
「言ったであろう、下級生贄と話すつもりはない」
「……それがタクみんに関わるお得案件でござってもか?」
ぴくん、と皇后の目尻が反応する。冷静さを装っても隠しきれないでござるな。
「す、少しだけなら聞いてやってもよいでしょう」
これは、タクみんを助けるのとは関係なしに、時間魔法を覚えたら、やってみたかった、とっておきの提案。ほんとはカルちんと2人だけで楽しみたかったが、仕方ないでござるよ。
「止まった時間の中、タクみんとイチャイチャしたくないでござるか?」
「なっ、き、き、き、貴様っ、なんて破廉恥なことをっ」
「絶対、考えたことがあるはずでござるよ。でも時間魔法を操れるのが1人だけなので、バレるのが怖くてできなかったはずでござる。でも、時間を止めれるのが3人になったとしたら?」
「はっ!!」
目から鱗状態の生贄皇后。もうひと押しでござるっ。
「しかも、3人集まれば3倍の時間楽しめるでござるっ!!」
「はうぅぅうぅっ」
キョロキョロと辺りを見渡した後、誰もいないのを確認して生贄皇后は拙者たちの手を硬く強く握った。




