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三百十話 なんちゃって返し

 

 宇宙規模の巨大な大樹をぶっこ抜く。

 もちろん、文字の力を使ってだ。

 神樹木には、【軽】や【無重力】、俺には【怪力】や【剛力】の文字をびっしりと書き込んでおいた。


『……おのれ、まだだ、まだ、終わりはせぬ』


 地面から抜かれた樹木がどうなるか。

 そんなことは子供でもわかっている。

 後は枯れて朽ちていくだけ。そのはずなのに……


『妾は、ンコンディの仇をっ』


 黒い怨念めいた煙をあげながら、根っこがピクピクと蠢いている。

 呪いの根底を絶たない限り、どこまでもどこまでも動き続けるのか。


「もうやめろ、俺が解き放ってやるといっただろ」

『妾はっ、呪物王のっ、ンコンディの魂を引き継いだっ、全てを破壊するまでっ、止まりはせぬっ!』

「うん、だから呪物王、生きてるから」

『へ?』


 ずっと、おかしいと思っていた。

 神樹王を老化させただけで、俺は直接、呪物王に会ってもいない。それがどうして仇みたいに言われなきゃならんのか。


みなごろし】の文字にまみれた神樹王の中で、別の魂が脈動しているのを発見した。

 老化を防ぐために、呪物王が自らの生命エネルギーをまるごと与えたのか。だったらそこをちょちょいと、戻して……


「うん、もう復活してる。だから、これ以上暴れないで」

『そのような嘘に妾がっ……』


 神樹王の動きが止まる。自らの中にあった呪物王のエネルギーがなくなっていることに気がついたのか。


『お、お主が治したのかっ!? 勘違い王っ!!』

「元に戻しただけだよ。返還の文字を使って。だいたいそっちが勝手に呪物王のエネルギーを吸収したのに、俺を仇みたいにして暴れたらダメじゃない?」

『は、はい、ごめんなさい』


 お、呪物王を復活させたら、素直になってきたぞ。これで神樹王の方は安心だけど……


「あと呪物王のほうにも人を呪っちゃダメだって言っといて。戻したエネルギーに文字を貼っておいたから、悪さしたら消滅しちゃうよ」

『わ、わかった。強く言っておく。妾たちはもう絶対に誰も呪わないっ』


 うん、本当は文字なんて貼ってないけどね。

 何もしてないのに、何かしているように見せる。その恐怖を俺は嫌というほど味わってきた。

 これは俺から呪物王への、なんちゃって呪い返しだ。


 本体を引き抜かれ、呪物王のエネルギーもなくなった神樹王は、巨大な物量を維持できなくなり収縮していく。

 やがて、人型の大きさの木になると、髪の長い和服姿の女性を形どり、元は樹木だったとわからぬ程に人としての変化を遂げた。

 最後に会釈するようなお辞儀をすると、神樹王モクモクは、人間のように歩いて、その場から立ち去って行く。


「お、終わったのでござるか?」

「うん、全部終わったみたい」


 呪物と樹木のダブル攻撃。

 いままでに戦ってきた、どの敵よりも手強くて、甚大な被害を受けてしまった。

 壊れた世界を戻すのに、どれだけかかるだろうか。

 次の対戦相手がいなくなったので、しばらくトーナメントはなさそうだけど……


『ぱんぱかぱーーん、無限界層一桁(シングルディジット)トーナメント第二試合、勘違い王タクミの勝利です。おめでとうございます』


 神樹王にやられていた、球体王まんまるが復活したようだ。……まだゆっくりしててよかったのに、3回戦の抽選始まっちゃうな。


『それではさっそく第三試合の抽選を始めたいと思います。なお、7位の神樹王モクモクは失格となりましたので、敗北した6位の呪物王ンコンディと共に6と7の玉を廃棄させていただきます』


 これで残る玉は2、3、4、5、8の五つ。

 まだ中盤に差し掛かったばかりというところか。


『タッくん、うち、もう疲れてきてんけど』

「うん、俺も正直、もうやめたい」


 敗北者の惑星が消滅するという条件がなければ逃げ出しているところだよ。てかすでに俺たちの世界、崩壊寸前だからねっ。


 そんな俺の想いを無視するように、どぅるるるるるる、とドラムロールの効果音がまんまるから聞こえてきた。


 誰と当たっても楽な戦いなど望めない。でも、せめて2位とか3位は避けてほしいっ。


 るるるるる……じゃーーーん!


 シンバルの音が鳴り響くと同時にまんまるから二つの玉が飛び出した。

 1つは当たり前のように、真っ直ぐに俺のへ向かって飛んでくる。そしてもう一つは……


 ありえない速度で飛んできた影が、そのまま玉ごと消える。


『第三試合

 ランキング4位【勘違い王】タクミ

 VS

 ランキング5位【スピード狂】マッハ•エクシード』


 蒼穹天井で音速も光速も超え、時空を歪めるほどの速度で走り続けていた、あの男かっ! い、いや、はっきり見てないから男か女かもわからないんだけど。


「ま、まあ、いま残ってる中では、マシなほうかな?」


 カルナに話しかけたが反応がない。

 腰に刺してあった鞘には本体がなく、いつのまにか空っぽになっている。


「カ、カルナっ!?」


 まさか、今の一瞬で、玉と一緒にカルナも奪っていったのかっ!? 球体王にも気づかれない速度でっ!!


『タ、タッくん』

「えっ!? カルナっ!! あれっ!? 元に戻ってるっ!?」


 奪う気配も、戻した余韻も残らぬ超速で、見えない何かが駆け抜けていった。


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