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三十四話 大賢者再臨

 

 闘技場の爆煙が晴れ、そこには信じられない光景が広がっていた。


 爆炎に巻き込まれたカミラは、もはや人の形をしていなかった。

 巨大な黒いコウモリがクロエの首筋に噛み付いている。


「があァァァッ!」


 それを無理やりクロエが振りほどくと、コウモリの姿になったカミラが空中に舞い上がる。


「っ! おりてきいやっ! ……なっ! なんやこれっ!?」

『クーちゃんっ! どうしたんやっ!』


 噛まれた首筋を押さえていたクロエの動きが止まる。


「終わりですよ。真祖(しんそ)である(わたくし)に噛まれた者は、逆らうことの出来ない傀儡(かいらい)となるのです」


 コウモリの姿からゆっくりと元の姿に戻っていくカミラ。


 地上に降りると、クロエの前に立ち、笑みを浮かべた。


「さあ、私の可愛い下僕よ、負けを認めて降参するがよい」


 自信満々に勝利を確信するカミラの前に(ひざまず)き、こうべを垂れるクロエ。


「はい、我が主、カミラ様……」

『あかんでっ、クーちゃんっ』


 だが、つぎの瞬間、いきなりクロエが立ち上がり、口から巨大な炎を噴出した。


「ぎぃ、ぎゃああああああァアアアッ!」


 油断していたカミラは、初めてまともに攻撃を喰らい、その炎を全身に浴びる。



「ばっ、馬鹿にゃっ!」


 そう叫んだのは後ろの席のミアキスだった。


「カミラに噛まれた者が逆らえるはずがないにゃっ!」


 ミアキスが驚くのも無理はない。

 カミラに炎を浴びせたのは、クロエではなかった。


「えっ!? なんやこれっ! うち、クーちゃんになっとる」


 見た目はクロエのままだった。

 だが、クロエが噛まれた後、どうやったのかカルナがクロエと入れ替わっている。


『ああっ、我が主、カミラ様になんてことをっ!』


 その証拠に魔剣がなんかおかしな事を叫んでいる。


 そして、その入れ替わりに気が付いたのは、俺一人ではなかった。


 四神柱の一つ。

 不正を見抜く白虎の柱が、かっ、と白い光を放ったのだ。


【闘技者入れ替わりの不正を感知しました】


 白い光はそのまま、クロエと入れ替わったカルナに向かって浴びせられる。


「ちょっ、ちがうわっ、反則ちゃうわっ、やめえやっ、痛いて、いたたたっ、あかんてっ、わかったからっ、負けでいいからっ、やめてっ、いだだだだだっっ!」


 電撃を浴びたようにのたうちまわるカルナ。


「いいからっ! いいから早く火を消してっ! あづい、あっづいっのっ!!」


 さすがのカミラも、目の前からまともに巨大な炎を浴びせられ、のたうちまわっていた。

 なんだ。この地獄絵図。


「く、クロエ様反則負けっ、カミラ様、勝利ですっ!」


 大混乱のまま一回戦第七試合が終了する。



「すいません、タクミ殿。勝てませんでした」


 がっかりと肩を落として帰ってきたクロエは、いつも通りのクロエだった。

 カミラからの吸血支配は四神柱による回復治療で戻ったようだ。

 だが、魔剣カルナとの入れ替わりは、どうやって戻ったのか、そもそも何故そんなことが起きたのか、まったくわからなかった。


『なんか、クーちゃんがおかしくなって、助けなあかんて思ったら、いつのまにか変わっててん。うちもさっぱりわからへんわ』

「そうか…… もし良かったらこれからはクロエがカルナを持っているか?」

「いえ、やはり我にはまだカル姉を使いこなすことが出来ません。いましばらく、タクミ殿が持っていては下さいませんか」

「……いいのか? カルナ?」

『えっ? ……あ、うん。そうやな。それでいいんちゃうかな』


 何か考えているのか。

 カルナは上の空のようだ。

 もしかしたら、なにかの手掛かりを見つけたのしれない。


 しかし、これで四天王は皆、一回戦を突破したことになる(ドグマ以外)。

 これからの魔王の出方によっては、その勢力すべてが敵に回ってしまう。それだけは回避しなければならない。



「それでは続いては一回戦第八試合、アリス様対ジャスラック様ですが、ジャスラック様、棄権の為、アリス様の勝利とさせて頂きますっ」


 試合が見れずに観客達からはブーイングが巻き起こる。


 ゴブリン王もアリスも闘技場に顔を出さない。

 そういえば、トーナメント抽選の後からゴブリン王も姿を見せていない。アリスの部下であるゴブリン王は前もって棄権することを司会に伝えていたのだろう。

 しかし、アリスは本当にこの大会にやってくるのだろうか?



「それでは、これより二回戦第一試合を始めたいと思いますっ。タクミ様、リンデン様、闘技場へおあがり下さいっ!」


 ついに魔王との戦いが始まってしまう。

 俺にできることは戦いではなくて、話し合いだけなのだが、向こうはどうするつもりなのか。


「タクミ、いってらっしゃい」


 膝の上で大人しくしていたチハルが俺を見送る。

 なんだか、やけに自信たっぷりな表情だ。

 俺が勝利すると信じているのだろうか。


「タクミ殿、カル姉は?」

「さっき戦ったばかりで疲れているだろう。クロエが持っていてくれ」

「わかりました。カル姉を使うまでもない。そういうことですね」

「ああ、よくわかったな、その通りだ」


 使っても勝ち目がないだけだが、まあ、そういうことにしておこう。


「では、行ってくる。……あれ、レイア?」


 そういえば魔王との騒動からレイアの反応がまるでない。

 心配して覗きこむと、ブツブツと小声でなにか呟いている。


「……そんな、私がタクミさんとキスだなんて。恐れ多い。それにまだ手も繋いでないし、そういう事は順番に一つずつでないと……」


 ……あれからずっと一人で呟いていたのかっ。

 怖っ、レイア、それ、だいぶ怖いっ。


「じゃ、じゃあ、行ってくる」


 若干、引き気味でレイアから逃げるように闘技場に向かう。


 その闘技場の真ん中に突如、巨大な黒い穴が出現する。

 そこから、ゆっくりと魔王、リンデン・リンドバーグが現れた。


「さて、始めようか」


 すでに力を隠す事なく、最初から全開モードのリンデンさん。


 俺はため息をつきながら、舞台に上がり、彼女と対峙する。


 戦うつもりなどなかった。

 試合が始まる前に、自分が魔王でないことを公表して、棄権するつもりだった。


 だが、俺は魔王が何の為に、こんな事をしているのか。

 どうして、俺を魔王と誤認定させ、キスまでしたのか。

 それを知りたくなっていた。


『内緒だ。余に勝てば教えてやろう』


 魔王はそう言っていた。

 俺が魔王に勝てるはずがない。

 そう、俺一人では不可能だ。

 魔剣カルナを持ってしても魔王には勝てないだろう。

 もし、少しでも勝つ可能性があるとするならば、それは……


 腰に下げた鈴に触る。


 転移の鈴。


 ヌルハチが俺の所に来る為に残した鈴は、あれから一度も使われることがなかった。


 本当にヌルハチはアリスと戦い、亡くなってしまったのか。いや、あのヌルハチが亡くなっているはずがない。


 一緒にパーティーを組んでいた頃、どんな困難なクエストでも、足手まといの俺を連れながら、達成していた。


「……ヌルハチ、俺、今、助けて欲しいんだ」


 初めてヌルハチに俺は助けを求めた。


 それに答えるように、チリン、と鈴が鳴る。


 試合開始の銅鑼が鳴ると同時に鈴から光が溢れ出る。



「はっ、これはまさかの展開だな」


 そう言った魔王の声は、どこか少し嬉しそうだった。


 最後に会った姿と全く同じ、変わらない姿で彼女はやって来た。

 エルフの魔法使いにして、不老不死の肉体を持つ、元ギルドランキング一位。


 大賢者ヌルハチがやって来た。


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