三百四話 犬猿の嘘
「ふぅ、ようやく緑から解放されたわ。いったい何度ヌルハチに緑一色をかけたら気がすむんじゃ」※(ヌルハチは自分のことをヌルハチと呼びます)
レイアとロッカの協力でルシア王国にいたヌルハチを元に戻してもらい、転移の鈴ですぐに駆けつけてもらった。
「で、なんの用じゃ、お詫びに接吻でもしてくれるのか?」
「ち、ちがうよっ、ちょっと調べてほしいことがあるだけだよっ」
うん、やめて。
また変なプレートをぶら下げる羽目になるから。
「ちょっと今回の緑一色、俺の力だけじゃないみたいなんだ。別の誰かが威力を上乗せしてないか、調べてほしいんだけど」
「ふむ」
第六禁魔法のロッカでもわからなかったけど、ヌルハチならもしかして……
「波動球•鑑」
洞窟周りに生い茂っている植物に手を当てて、触診するようにヌルハチが鑑定する。
「やはり、異常成長した植物からはタクミの魔力しか感じられん。魔力以外の別の力も残っておらん」
ヌルハチでもダメったか。あとはデウス博士が復活するのを待って科学的に解析してもらうしか……
「……ただ」
「えっ!? なにかわかったのかっ!?」
「ただ植物めっちゃ元気」
「い、いや、そりゃ見たらわかるよ。足元に生えてただけの草木が樹齢何千年みたいな急成長を遂げてるんだから」
でも、それは全部、俺が緑一色をかけたからで……
「緑一色は人を植物に変える魔法で、植物を急成長させる効果はなかろう?」
「うん、でもそれは俺が暴走してたからじゃ……」
「暴走していても魔法の根底はかわらんよ。これはタクミの魔法とは関係なく、ただ植物自身が自らの意志で成長したようにしか感じられん」
植物自身が?
自らの意思で?
なにそれ? ちょっと怖いんだけど。
「それって、呪いとかじゃないよね?」
「まだ言うかっ! あれだけ大騒ぎしておいてっ、これは呪いとは違う、生命に満ち溢れた樹木の力じゃ!」
呪いとは別?
樹木の力?
あれ、なんだか引っかかるぞ。
なんか、無限界層ランキングでも似たようなことが……
「あ」
10話くらい前に載っていた無限界層ランキング6位とランキング7位の自己紹介表を確認する。
ランキング6位【神樹王】モクモク
雲にすら根を張り、触れるもの全てから生命力を取り込んでいく一本の大木。
樹木ゆえ動くことは出来ないが地中や宇宙に根を張ることで、どこまでも攻撃範囲を広げることができる。
蒼穹天井に、鎮座していたのは伸びた枝の一つで、本体は生まれた惑星から一歩も動いていない。
ランキング7位【呪物王】ンコンディ
棺桶のような箱に入れられ、全身を呪布と鎖で拘束された指先一つ動かせない呪いの王。
ランキング6位の【神樹王】モクモクとは、お互いに動くことのできない者の同族嫌悪なのか、いつも争い数億年変動がない一桁ランキングの中で6位と7位だけが頻繁に入れ替わっている。
呪物王と神樹王は、いつも争っている。
だから呪物王と戦う俺を神樹王がサポートするなんてことはあり得ない。……と、誰もが考えるはずだ。
「もしも2人が実は裏で仲良しだったら、みんな騙されてしまうんじゃないかっ!?」
そういえば、最初に呪われていると思ったときも、地面の草がご丁寧に輪っかを作り、足を引っかけて尻餅をついたからだ。それが神樹王の仕業なら、はじめから呪いのサポートをしていたことになる。
「間違いないぞ、ヌルハチ。呪物王と神樹王は手を組んでいるっ」
「ふむ、不正発覚といったところじゃな。審判に報告すれば失格になるのかのう」
「いや、現時点では証拠がない。植物の成長は俺が勝手に暴走したようにしか見えないはずだ」
球体王まんまるなら、俺が申告しなくても不正を見抜けるはずだ。それが成されないということは、神樹王の力はルールの網を抜けていることになる。
「どうするんじゃ? このままだと2体1で戦う羽目になるぞ」
「それは不利だなぁ。2回戦が始まる前に、どちらか撃破しておきたいな」
呪いの力と樹木の力。
何をしてくるかわからない恐怖は十二分に味わった。
「今度はこちらから仕掛けてみるか」
「ふふ、タクミよ、お主ちょっと悪い顔になっとるぞ」
「ん? そうかな? やられたからちょっとやり返すだけだよ」
向こうがルールを破るなら、こちらも同じことをするだけだ。
前回、ミッショ•マッシュの過去を改変したけど、球体王まんまるは、それが本来あるべきそのままの世界線と信じて疑わなかった。
「絶対バレないように、文字の力で少しだけ2人の歯車を狂わせればいいんだ」
争う振りをして手を組んでいる2人を本当に争わせる。
「俺がお前たちの嘘を真実にしてやるよ」
成長した植物に手を触れて、静かに呪いの文字を送り込んだ。




