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二百九十九話 前哨戦

 

 まるでカルナを抱きしめているように、深々とその魔剣はミッシュ•マッシュの胸に突き刺さっていた。


『タッくん』

「……ああ、うん」


 カルナが握られたミッシュ•マッシュの手を優しくゆっくりとほどくように開いていく。

 すでに融合は解け、カルナとの繋がりはなくなっていた。


『うちと合体したら、タッくんに勝てたかもしれんのに……』

「無理だよ、それをすればミッシュ•マッシュは最後の友達を失うことになる」


 まるで憑き物が落ちたように、ミッシュ•マッシュは穏やかな顔で眠りについた。

 それは過去回想で、1番最初に見た少年と同じ顔だった。


『タッくん、ミッシュ•マッシュは……』

「大丈夫、カプセルにはしないよ。カルナの友達だから」


 とてつもない大戦力になるが、さすがにミッシュ•マッシュを使うわけにはいかない。

 カルナを使って過去を変えた、罪悪感も残っている。それに……


「俺にはカルナだけで十分だ」

『タッくん、そんなにも、うちのことを……』


 うん、だってカルナ、無限界層ランキングの武器を吸収して、めっちゃ強くなってるんだもん。

 想定外の超戦力。

 正直、俺が戦わなくてもカルナだけでいいところまでいきそうだ。


「おかえり、カルナ(戦力)」

『ただいま、タッくん(愛)』


 久しぶりに、本当に久しぶりにカルナを腰の鞘に納める。

 失っていた身体の一部が戻ってきたみたいで、気づかないうちに、ニマニマと笑みがこぼれていた。


『タッくん、うちを呼び捨てで呼んでいい男、俺だけっていうてたよね?』

「え? そんなこと言った?」

『……2回もいうた』


 うん、カルナを取られて、だいぶ我を失っていたようだ。


『……結婚する? うちと結婚する?』


 聞こえないフリをしながら、球体王まんまるのアナウンスを待つ。試合が決着したので、すぐに2回戦の抽選が始まるはずだが……


『タッくん、聞こえてるやんな? 逃げられるとおもてるん? うち、いま、めっちゃ強いで』


 うん、静かにして。


『ぱんぱかぱーーん、無限界層一桁(シングルディジット)トーナメント第一試合、勘違い王タクミの勝利です。おめでとうございます』

『ちっ、ええとこやったのに』


 直接脳内に響くカルナの声を上書きするように、球体王まんまるの声が鳴り響く。


『それではさっそく第二試合の抽選を始めたいと思います。なお、9位だった勘違い王タクミが4位ミッシュ•マッシュを倒し順位が入れ替わったため、9の玉を廃棄し、4の玉を再び抽選に加えさせていただきます』


 あ、そうなんだ。俺、ついにランキング4位まで上がってきたのか。上は3人、下は4人。まだまだ油断できないが、ゴールが近づいてきた実感が湧いてくる。


「いやぁ、ついにランキング抜かれちゃったね」

「ネレスっ、なんでここにっ!?」


 いつのまにか背後に、最初からずっとここにいましたよ、的な感じでネレスが突っ立っていた。

 手にはポップコーンが入ったバケツみたいな大きな容器を抱えている。


「映画感覚で俺の戦い見てた?」

「まさか、ちゃんとサブスク見るように真剣に見てたよ」


 うん、違いがわからない。相変わらず得体が知れないネレスは、8位だけど残った敵の中で最も戦いたくない相手だ。


「あっ、ほら、抽選はじまるよ」


 崩壊したミッシュ•マッシュの世界の空に、球体王まんまるが満月のように浮かび上がる。


 どぅるるるるるる、とドラムロールの効果音がまんまるから聞こえてきた。


『全部、俺が戦う』という文字の力が発動したままなら、次も俺の番号、4番が出てくるはずだ。

 問題はその対戦相手。できればネレス以外のヤツと戦いたいけど……


 るるるるる……じゃーーーん!


 シンバルの音が鳴り響くと同時にまんまるから二つの玉が飛び出した。

 弾け飛ぶと同時に1つは真っ直ぐに俺のへ向かって落ちてくる。そしてもう一つは……


 突然出現した、真っ暗い闇に呑み込まれて消えていく。


『第二試合

 ランキング4位【勘違い王】タクミ

        VS

 ランキング7位【呪物王】ンコンディ』


「……流れ的にボクが戦うと思ったけど、なにか呪いをかけたのかな、呪物王」


 ネレス以外と戦いたいと思ってたけど、呪物王ってなんだよ。どんな攻撃してくるか予測不能なんだよなぁ。


「向こうも予測不能だと思ってるよ、タクミ君の文字」


 瘴気しょうき。突然、腐敗した空気が、むわっ、と俺の周りにまとわりつく。

 対戦が決まった【呪物王】がさっそく俺に呪いをかけてきたのか。

 明らかに試合前に攻撃を仕掛けているのに、公平な審判である球体王まんまるはまるで反応しない。


「俺の文字みたいにスルーされたのか。やっぱり予測不能だな」


 瘴気の中に【呪】の文字を見つけたので、チョキチョキと二つに切り離して【口】と【兄】に分けた。

 そのまま【口】を具現化させて、残った【兄】を食べてもらう。


 腐敗した空気が浄化され、口だけが地面に残る。


ခစိုတ်(khaciut)

 

 俺の文字で支配されているにもかかわらず、その口はニタリと笑い、呪いの言葉を口にする。


 何処かの世界の、何処かの言葉。

 死という意味が、俺の脳裏にダイレクトに伝わってきた。



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【口】2つと【儿】に分けるんじゃないのか(スットボケ その「死」を文字ストックに増やすのか(目反らし
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