二百九十八話 最後の一撃
究極の最強とはどんなものなのか。
何十万もの強者と合体したミッシュ•マッシュは、そこにかなり近づいていたんじゃないか。
理想とする究極生命体。
だが、そんな完璧な存在であったからこそ、忘れていた感情がわずかに混ざることで崩壊する。
「はぁはぁはぁはぁ」
教室に擬態したミッシュ•マッシュは、すでにその形を保てなくなりドロドロと溶け出している。
攻撃を加えたわけではない。
合体している数が多ければ多いほど、支配が及ばなくなり、内部分裂が加速するようだ。
「……そうか。そういうことか。弱かった僕が失くした感情を貼り付けたのか」
今まで自分が無理矢理吸収してきた者たちの感情が溢れ、それを無理矢理押さえ込む。
「この感情は愛か?」
「違う、哀だ」
ミッシュ•マッシュの顔面に、おびただしい数の青と赤の筋がビキビキとほとばしる。
「ああ、だからこんなにも哀しいのか」
どどどんっ、とすべての意志が爆発したように、ミッシュ•マッシュが超加速で飛び出した。
内部崩壊まで、あと数分。
それまでに全力で俺を片付けるつもりか?
「多重不可侵領域」
俺とミッシュ•マッシュの間に、絶対防御の壁を幾重にも重ねていく。
崩壊するまでの時間を稼ぐだけで勝つことができる。まともに正面から戦うなど、愚の骨頂だ。
「勘違い王っ!!」
そんな俺とは対照的に、後のことをまったく考えず、全ての力を解放してくる。
不可侵領域に激突した身体がバラバラに砕け散る。それでも、ほんの少し空いた小さな穴に、自らの身体を捻じ込ませ、こじあけるように侵入してきた。
「次元断頭台」
そこに、合わせるように次元ごと切断するギロチンを設置する。
領域を犯したミッシュ•マッシュの頭がスパンと綺麗に切断されて、コロコロと転がっていく。
だが、それでも……
「カルナァアアアアァアアアアっ!!」
転がった頭がカルナの名前を叫ぶ。
それに共鳴したかのように、魔剣カルナが咆哮する。
『グルルヴィィィアァアイィィィィィッ!!』
今まで聞いたことのない、言葉では表現できないカルナの叫びが、崩壊する教室に鳴り響き、多重不可侵領域も次元断頭台もすべての窓ガラスと共に粉々に砕け散った。
「音の斬撃かっ!? カルナっ!!」
ダメだ、返事が帰ってこない。まだカルナは支配されている。
崩壊するミッシュ•マッシュと違い、魔剣カルナは様々なカスタマイズを施した無敵の魔剣そのままだ。
「も、も、も、もうすぐ終わる」
ミッシュ•マッシュが拾った頭を、自分の首にぐりぐりと回してねじ込んでいく。
「こ、こ、ここからはもう、小細工なしだ」
ぼこん、ぼこん、とミッシュ•マッシュの身体が膨れていく。
初めて蒼穹天井で見た姿。
32本の腕に100本の足、10の頭に24の瞳。
強者を繋ぎ合わせた巨大な塊かたまりは、究極生命体としての真の姿をあらわにした。
「きたか、塊魂」
崩壊した教室の向こうに、どこまでも続く荒野が広がっている。ミッシュ•マッシュが全てを喰い尽くした世界。弱かった自分を捨てなければ、出来なかった世界。
「ァアアアアァアアアアァアアァィィッ」
まるで子供のように泣き叫び、まるで子供のように腕をグルグル回しながら、なりふり構わず向かってきた。
不可侵領域は、カルナの叫びにすべてかき消される。
逃げ切れば相手はこのまま崩壊していく。ミッシュ•マッシュの腹の中にいない今ならディメンションドアで逃げることもできる。だけど。
「いいよ、付き合ってやるよ、ミッシュ•マッシュ」
駆け引きも何もない。
ただの純粋な殴り合い。
「カルナを返せっ、クソ野郎っ!!」
「いやぁだあっ、カルナはぼくのだぁああああっ!!」
「だからっ、カルナを呼び捨てにできる男はっ、俺だけなんだよっ!!」
最弱だった頃に、デウス博士と殴り合ったのを思い出す。
あの時はポカポカと可愛い擬音だったのに、今は一撃ごとに宇宙が爆発したような轟音が響き渡る。
「いいじゃないかっ!! お前にはいっぱいいるだろうっ!! 僕にはもう、カルナしかいないんだっ!!」
「てめえが全部、吸収したからだろうがっ!!」
ミッシュ•マッシュの腕がピタリと止まった。
自分の腕と繋がって融合しそうになっているカルナを、じっ、と見つめる。
次が最後の一撃か。
これまでに吸収した、すべての力を一つにしてミッシュ•マッシュがカルナを大きく振りかぶる。
不可能だ。どんな防御も通用しない。
攻撃を喰らう前に気づいてしまった。
それは絶対不可避の、完全究極の一撃だ。
「カルナ」
最後の最後にその名前を口にする。
その究極の一撃は心の臓を貫いて、ミッシュ•マッシュ自らの肉体を崩壊させた。




