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三十三話 優しい契約

 

「そろそろ決着をつけようか」

「……ああ、そうだな」


 さっきまで、かぶりつきで俺たちの騒動を見ていたエンドとリックの試合が再開される。


 君たち、よく何事も無かった顔で始められるな。


「エクスカリバーァアアアアッ!!」


 エンドの持つエクスカリバーが、かつてないほど光輝く。

 全力の一撃を撃ち込もうとしている。


「……連層千枚ノ盾(シールドミルフィーユ)


 それに対し、リックは浮遊していた盾を何層にも重ねて、迎え撃つ。


 試合再開直後にいきなりクライマックスを迎える。


 決着の予感に歓声が湧き上がった時だった。


「両者、場外負け! それまでっ!」


 司会の無情な言葉に観客も、エンドとリックも凍りつく。


「え? 場外? いつ?」


 エンドが焦りながら、司会に質問する。


「いや、さっきまで二人とも闘技場から出てましたよね。タクミ争奪戦観てましたよね」


 そういえばめっちゃ出ていた。

 あとタクミ争奪戦とか勝手に名前つけるのはやめて。


「……先に出たほうが負けなら、両者では無いはずだが」

「どちらが先に出たかわかりません。私もタクミ争奪戦観てましたから。ゆえに両者リングアウト、引き分け退場です」

「……そうか」


 司会のお姉さんの有無を言わさぬジャッジに、なぜかリックはあっさり引き下がり、闘技場を降りる。

 そして、そのまま一直線に俺のほうへ歩いてきた。


「で、本当にキスしたのか? タクミ。気持ちよかったか? どんな味がしたんだ?」


 うん、それが聞きたかったんだね。

 普段まったく喋らないくせに、こういう話の時だけ饒舌(じょうぜつ)になる。


「あ、後で。全部終わったら後で話すっ」

「……そ、そうか」


 がっかりと肩を落として去って行くリック。

 試合退場よりショック受けてるよね?


 そして、対称的にエンドは、納得がいかないのか、闘技場を降りようとしない。


「ダメだ。ボクは魔王を倒さなくてはならないんだ。勇者の一族はその為に生まれてきたんだ。やり直しっ! やり直しを要求するっ!」

「無理です。早く退場しないと四神柱による制裁が発動しますよ。早く降りて下さい」


 四つの鉄柱を順に見たエンドは、最後に俺の方を見た。

 力のなかった瞳が、きっ、と燃え上がる。


「お前のせいだからなっ。許さないっ。いずれ責任は取ってもらうっ! あっちの責任もだっ!」


 え? あっちって、まさか、胸に触った事じゃないよね?


 びしっ、と俺を指差した後、エンドはようやく闘技場から降りて、駆け足で去って行く。



「それでは続いて一回戦第七試合を始めますっ! クロエ様、カミラ様、闘技場へおあがり下さいっ!」


 そのアナウンスで今まで姿を見せていなかった吸血王カミラが控え室から出て、初めて姿を現した。

 大きな黒い日傘を差し、目にはサングラスをかけ、全身は黒いマントに覆われている。


「カミラは陽の光に弱くて、昼間は夜の半分くらいしか力がでないにゃ。それでも、まあドラゴン如きには負けないはずにゃ」


 びきっ、と隣に座るクロエから血管が浮き出る音がした。

 だが、ミアキスに文句を言わず、じっ、と耐えている。

 闇王アザトースや獣人王ミアキスの試合を見て、四天王の強さは十分にわかっているのだろう(ドグマ以外)。


「タクミ殿、よければ姉を、カル姉を貸しては頂けませんか?」

「えっ」

『えっ』


 思わず魔剣カルナとハモってしまう。


「先程、間違えてカル姉に口付けをかましてしまいましたが、我は力を吸われませんでした。もしかしたら、すべての力を吸われることなく、カル姉と一緒に戦えるかもしれません」


 本当にそうなのだろうか。

 下手をしたら、何もしないまま、負けてしまうかもしれない。


「大丈夫なのか?」

『わからへん。力の吸引は自動で発動するねん。でも、確かにさっきは発動せえへんかったな』


 カルナにもわからないらしい。だが、クロエがそんな無謀な賭けに出るということは……


「闘技場ではドラゴンになれません。はみ出して場外負けになります。我があの吸血鬼(ヴァンパイア)に勝つにはカル姉の力が必要なのです」

『……クーちゃん』


 プライドの高いクロエが真剣な眼差しで頭を下げて、俺に頼み込む。


『タッくん』

「わかった。行ってこい」


 クロエにカルナを渡し、見送った。


「必ず、勝ってきます!」

『行ってくるで、タッくん』


 二人が闘技場に上がり、歓声が湧き上がる。

 盛り上がっているところ悪いのだが、カミラもこちらの陣営なので、どっちも無茶せず頑張ってほしい。

 でも、クロエに言ったら怒られそうなので黙っておく。



「やれやれだにゃ。姉妹の力を合わせたぐらいでカミラに勝てると思っているのかにゃ。四天王の力を甘く見ないでほしいにゃ(ドグマ以外)」

「確かに四天王の力は強大だ(ドグマ以外)。だが、クロエとカルナを甘く見ないほうがいいぞ」

「そうかにゃ。無駄だと思うけどにゃ。あ、ところで一つ質問があるにゃ」


 この時、俺はすでに結構なピンチに陥っていることに気づいていなかった。


「お前は一体、何者にゃ?」



 試合開始の銅鑼が鳴り響き、クロエがカルナを握ったまま、カミラに突進する。

 華麗に紙一重でクロエの攻撃を躱したカミラが、クロエの首元に牙を剥く。

 だが、すんでのところで、カミラ自らがクロエから大きく飛び退いた。


邪龍暗黒(じゃりゅうあんこく)大炎弾(だいえんだん)


 すでにクロエの身体の周りには黒い邪悪な球体が無数に浮かび上がっていた。


「めっちゃ、力吸われるやん。しんどいわ、カル姉」

『全部の力吸われてへんし、うちの声が聞こえるだけで大したもんやでっ、クーちゃんっ』


 戦っているカルナの声が俺にまで聞こえてくる。

 まさか、俺とカルナはもう離れていてもどこかで繋がっているのか?


「一気に攻めるでっ」

『よっしゃっ』


 クロエが口から炎を吐き出した。

 それはドラゴン形態の時に比べれば、小さい炎だが、その炎がクロエの周りに浮いている黒い球体に引火していく。


 そして、それらすべてが爆弾のように凄まじいスピードでカミラに向かって飛んでゆく。


「ふん、こんなもの」


 黒いマントをひるがえし、すべての球体を華麗に避けるカミラ。だが、その余裕が命取りになった。


「爆散せよっ。双龍(ダブルドラゴン)大爆炎(インフェルノ)っ!!」


 カミラの周りを浮遊していた黒玉が連動するように一気に爆発した。


「なっ!」


 カミラは咄嗟に傘でガードしたが、それだけではすまなかった。


 爆発した黒玉から、さらに小さな無数の黒玉が次々と飛び出し、それらすべてが同じように爆発する。

 どどどどどどんっ、と爆音の大連鎖が響き渡る。


「その程度でっ! このカミラをっ!」


 カミラの身体がドス黒く染まり、何かに変形していく。

 だが、闘技場は大爆煙に包まれて、何も見えなくなってしまった。



「意外とやるにゃ。だが、そんなものではカミラは倒せないにゃ」


 ミアキスはまだ余裕を持って試合を見ている。

 それよりもだ。


「ミアキス、さっきの……」


 聞かないほうがいいのかもしれない。

 だが、俺は聞かずにはいれなかった。

 ミアキスは俺をじっ、と見つめた後、静かに話し始めた。


「さっきの女が最後に出したオーラ。あれは確実に魔王様のものだったにゃ」


 そうか、あの時に気付いていたのか。


「で、ミアキスは俺が魔王じゃなければ、どうするんだ?」

「どうもしないにゃ。魔王様はお前を必要としているみたいだし、このまま気づいてないふりをしとくにゃ」

「……そうか」


 この大会が終われば、ミアキス達四天王はまた魔王と共に人類の敵となるのだろうか。

 それもすべては魔王次第だ。


「ただ、今まで魔王様を騙っていたお詫びに一つだけ吾輩(わがはい)のお願いを聞いてもらうにゃ」


 別に騙っていない。俺は全力でずっと否定してきた。

 それでも、聞いてあげれる願いなら聞いてあげたいと思ってしまう。


「わかった、言ってくれ」

「魔王様に糞ビッチと言ってしまった事を一緒に謝ってほしいにゃ」


 情けない顔で頼み込むミアキスが可愛く見えて、なんだか少し安心する。

 きっと、いつかみんなが笑って共に暮らしていける。

 そんな未来を想像して、俺は思わず笑ってしまった。


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