二百九十六話 悟空の気持ち
めっちゃ強い。
カルナから繰り出される斬撃は、これまでに出会った無限界層ランキングの中でも、ぶっちぎりの高威力だ。
『いやぁああああっ、タッくんが粉々になっていくぅっっ!!』
頭に響くカルナの声は、ついこないだまで聞いていたはずなのに、随分と懐かしく感じてしまう。
全ては俺がカルナを過去に送ってしまったからか。
この斬撃は、ただの攻撃じゃない。
カルナの想い、そのものだ。
「大丈夫、俺が全部受け止めてやる」
『いや、そんなんいうてる場合ちゃうからっ!! タッくん、もう、きざみ野菜みたいになってるからっ!!』
バラバラバラバラ。
再生を封じられ肉体が崩れて粉微塵になっても、そんなことは想定内だ。
「業火絢爛」
『えっ!? タッくん、燃えてるっ!? これ、うちがやったんとちゃうでっ!!』
「そらそうやで。タクちゃん燃やしたん、ワレやからな」
とっておきの秘密兵器。
四神柱の朱雀ことスーさんを神降し、俺の中に降臨させた。
背中から六枚の紅い翼が大きく広がり、紅蓮の炎がその身に宿る。
カルナに斬られた断面が再生しないなら、全部焼き尽くしてしまえばいい。
復活の炎に身を包みながら、不死鳥のごとく蘇っていく。
「よし、もういいぞ、スーさん。炎を止めてくれ」
「いや、タクちゃん。そんなん、勝手に止められへんで。自然に消えるまで燃えたまんまや」
「え? めっちゃ熱いんだけど、いやマジで」
「うん、そこは我慢して、ほな頑張ってな」
いやぁああああーーーーっ!!、あついあついあついあついっ!! スーさんっ、これあつすぎるってっ!!
「復活の炎。不死鳥を自らに降したのか。ふん、悪あがきを。カルナ、全部、凍らせてしまえ」
『え? うち、フリーズドライ機能まで備わってるんっ!?』
カルナから絶対零度の冷気が噴出される。
熱いから消してほしいけど、この炎が消えたらもう復活できない。
仕方なく、我慢して第2のカプセルを使う。
「軍隊蟲」
【蟲】と書かれたカプセルが開き、何万匹もの大量の蟲たちが一気に解き放たれる。
『ぎゃーーーっ!! 虫や虫や虫やっ!! 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いっ!!』
「落ち着け、カルナっ、こんなもの、お前の力なら一瞬でっ!!」
それはそうだろう。
今のカルナなら、こんなもの、コンマ数秒で瞬殺できる。
けど、それはあくまで感情のない、ただの魔剣の場合だ。ミッシュ•マッシュ、お前はわかっていない。
「なっ、剣が動かないっ、バカなっ、僕と一体化して支配しているのにっ!!」
「カルナは乙女なんだよ」
『タッっっ……くんっ♡』
カルナは苦手なものが急に目の前に現れたら、びくんっ、て身体が固まるんだ。
大量の軍隊蟲がミッシュ•マッシュの視界をさえぎっている。
その隙に自分の右腕を聖剣タク右カリバーに変化させて、カルナと繋がったままのミッシュ•マッシュの腕を斬り裂いた。
「カルナっ!!」
「タッくんっ!!」
腕ごと飛んで行ったカルナに手を伸ばす。
これで何もかも元通りに……
「絶望したかい?」
斬られた腕のほうから、ミッシュ•マッシュの身体が丸ごと顔を出した。
「僕の中にはこれまで戦い敗れた者たちが何十万も圧縮吸収されているんだ。この腕の中だけでも数万体か。切り離しても分裂して増えていくだけだよ」
『タ、タッくんっ』
大丈夫だ、と言いたいが、さすがにこれはちょっとヤバい。
後ろを見ると、もう1人のミッシュ•マッシュに大量の軍隊蟲が全てやられて地面に散らばっている。
「時間稼ぎにもならないね。ゆっくり1匹ずつ、プチプチ潰してあげたのに」
これが無限界層ランキング4位の実力か。桁違いにもほどがある。このままではカルナを取り戻すどころか、俺まで吸収されてしまう。
「ごめん、カルナ。必ず取り戻すから待っててくれ」
「んん? 逃げるつもりかい? 無理だよ、空間転移系の力は封印してるんだ。ディメンションドアは使えないよ」
やっぱりそうか。
この教室に入ったときから違和感は感じていた。
ミッシュ•マッシュの身体にも文字を貼り付けて、分解しようとしているが、見えない何かに弾かれたように文字の力が発動しない。
「教室全体に特殊な領域を発動させた? いや、違うな、これはもっと異質の……」
ああ、そうか。どうして今まで気がつかなかったんだ。2つに分かれたミッシュ•マッシュの気配とまったく同じじゃないか。
「この教室自体がお前の分身か。ミッシュ•マッシュ」
「正解だよ、勘違い王タクミ。お前は最初から僕の腹の中で戦っていたんだ」
圧倒的な支配感。
思わず見上げた教室の天井すら、全部ミッシュ•マッシュのものだ。
まるで俺はお釈迦様の掌のひらで足掻いてる猿のようだった。




