二百八十九話 口癖
「タクみんっ、おかえりなさいでござるっ」
「あ、うん、ただいまぁ」
どうやって行ってきたのかわからない蒼穹天井から、どうやって戻ってきたのかわからないまま洞窟に帰ってきた。
「どうしたのでござるか? 元気がないでござるが…… お腹空いてるでござる?」
「いや大丈夫。むしろお腹いっぱいだよ」
そう、あまりにもいろんな情報が入り込んで、いっぱいいっぱいなのだ。
「これより無限界層一桁トーナメントを始めたいと思います」
ピンヒゲの宣誓で、いきなり大武会みたいなものが始まってしまった。
「ルールはいたってシンプル。8人がそれぞれ戦い、勝ち上がるだけ。最後に生き残った優勝者がランキング1位の『あのお方』との戦闘権利を獲得できます」
うん、まず、その権利全くいらない。
「トーナメントの組み合わせは公平に行うため、ランキング15位「球体王まんまる」のガラガラ抽選機にて、後日公表を行う。誰か異論はあるかね?」
いや、誰だよ、なんだよ、球体王まんまる。
みんな、頷いているから信用あるんだろうけど、俺、知らないよ?
面倒だから異論となえないけど。
「なお、この戦いにおいては一対一とする必要もない。何をやっても許される無制限。自らの惑星にいる住人たちも、一つの武器とみなし、これを許可する」
え? そうなの? だったらアリスとかロッカに協力してもらったら楽に戦えちゃう?
蒼穹天井の自分より上にある八つの雲を見上げる。
……ダメだ。今までの敵と比べてもレベルが段違いすぎる。あのアリスを持ってしても足手纏いにしかなり得ない。
「それでは皆様、本日の所はこれで解散ということで。次にお会いする時は正々堂々、殺し合いまみえましょう」
ピンヒゲが胸に手を当てて、丁寧にお辞儀する。
同時に足元の雲が消失し、蒼穹天井からどこまでもどこまでも、果てしなく落下していく。
「わふんっ」
犬神伽羅様が最後に、またね、と言った気がした。
「タクみん? タクみんっ! タクみーーんっ!!」
「あ、ああ、ごめん、ロッカ。ちょっと考えごとを」
むふー、と無視されたロッカが怒っているが、今は相手にしている時間はない。
トーナメントが始まったら、一桁の化け物がやってくるかもしれないのだ。
「な、なんでござるか、タクみん。拙者をじっ、と見つめて……」
ロッカは俺が開けたおでこの穴により、緑一色やピンクデなんとかドアを使うことができる。
「も、もしかして、ついに拙者の魅力に気づいたのでござるか? だ、だったら拙者も覚悟を決めるでござるよっ」
いやぁ、やっぱりそれだけの能力じゃ頼りないな。
樹木の人と戦ったら、絶対、緑一色効かないし。
「で、なんでロッカは目を閉じて口を尖らしているの?」
なぜかわからないが、ロッカは真っ赤な顔で俺にフルスイングビンタをかましてきた。
『タッくんアホやなぁ、なんでわからへんの?』
「い、いやほんと、それどころじゃないんだよ。下手すりゃ、この世界終わっちゃうかもしれないんだよ」
ヒリヒリする頬を押さえながら魔剣カルナと、トーナメントの作戦を思考する。
『あんまり深く考えんと、みんな連れてって戦ったらええんちゃう? 誰かやられても、タッくん、文字の力で復活させられるやん』
「いやいや、俺がやられちゃったら、それできなくなるからね。出来れば、みんなには安全な所に…… ん? まてよ、文字の力で復活か……」
そうだ。別に復活させるのは大事な仲間じゃなくていい。今までに戦ってきた無限界層のランカーたちでもいいんじゃないか?
無敵皇帝ドン・キリング。
怪獣王ドゴン。
数学者マドゥエル。
軍隊蟲の王アンガスト。
千刀流ゼロ。
不可侵盾アイギス。
彼らを復活させて仲間にしたら、かなりの戦力アップになる。
『タッくん、なんかヤバいこと考えてへん?』
「え? ぜ、全然そんなこと考えてないよ。みんながしあわせになる素敵な計画さ」
再生より上位の復活。
だけど、ただ復活だけさせればいいってものじゃない。
俺にやられてるわけだから、相当な怨みをかっている。下手すりゃ再び敵にまわってさらに不利になるかもしれない。
「使い方とタイミングだな。トーナメントが始まるまでにいい作戦を考えないとな」
ここから先は、無自覚のまま勝てるほど甘くない。
切り札はなるべく多く作っておかないと。
『なぁなぁ、いつものタッくんやったら、そんな面倒くさいトーナメント、逃げようとするやん? なんでそんなやる気なってるん? 優勝したらなんかもらえるん?』
「いや優勝したら、さらに強い奴と戦えるんだ」
『ええっ!? な、なんなん、そのバトルマニアしか喜ばへん賞品っ!! タッくん、Mやったんっ!?』
うん、ちがう。全然Mじゃないけど仕方ないんだ。
「トーナメントから逃げたり負けたりしたら、その人の住む世界は消滅するらしい。だから優勝するしかないんだよ」
『……………………へ?』
カルナが固まったまま、動かなくなってしまった。
俺も最初聞いた時は、ちょっと動揺しちゃったよ。
「まあ、大丈夫だよ。俺、負けないから」
『カ、カッコいい……タッくん♡ 飄々としてるのに男らしい♡』
俺、負けないから。
初めて言った言葉なのに、まるでいつもの口癖のように、自然と口からこぼれ出た。




