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二百八十八話 あのお方

 


「どういうことっ!? なんで盾の人、目玉になっちゃったのっ!? ネレスっ!!」

「君が文字の力を使ったからじゃないか。どうせ変なこと考えてたんじゃない?」

「そ、そんなことないよ。硬そうな盾の人いるから、漫画で見た、(ほこ)(たて)の話を思い出してただけなんだよっ」※


 それが、どうして目玉になるの?

 俺、悪くないよね? 目玉の人、怖いからこっち見ないで。


「だいたいなんでこんなとこ連れてきたんだよっ、なんだか怖そうな人いっぱいいるしっ! 雲の上に座らせられるしっ!」

「いやいや、蒼穹天井は無限階層のランキングが一桁になったら自動的に連れて来られるんだよ。むしろ、君のお披露目のため、ここにいるみんなが巻き添えで招集されたんだって」


 え? 俺のせいでみんな集まってるの?

 だ、大丈夫? 怒ってない? 

 なんか棺桶に入ってる人や、雲に根を張るでっかい樹木がいるんだけど、俺がまた何かやっちやったわけじゃないよね?


「これ以上変なこと考えないほうがいいよ。ここでの戦闘は重大なペナルティがあるから。無意識でもどこまでが許容範囲か、私もわかんないんだから」


 い、いや、そんなこと言われても……

 こんな濃いメンツに囲まれて何も考えないなんて無理だよ。


 なるべく見ないようにしてたけど、いろんな人が合体して組体操みたいになってる化け物や、すっごい速さで動き続ける人がいて、むしろガン見してしまう。


「心配しなくても大丈夫ですよ、勘違い王。私には一度見た能力は通用しません。無意識であろうがなかろうが、すべての文字を無効にして差し上げます」


 俺よりも6段高い雲の上から、ピンと上を向いた白髭の老紳士がお辞儀をしてくる。


「気をつけなよ、アイツ嘘つきだから」

「うん、それはなんとなくわかるけど」


 この中では比較的人間に近いのに、人間の器に収まっている気がしない。


「あのヒゲが1番強いの?」

「違うよ、上にまだ二つ雲があるでしょ。あのピンヒゲは3位」


 確かに、上に雲は二つあるけど誰も乗ってない。

 と、いうことは、この場にいる中で1番強いのは、やっぱりピンヒゲでは……


「わふんっ」


 蒼穹天井に犬の鳴き声が響き渡り、誰もいないと思っていた2番目の雲から、ぴょこん、と小型犬が顔をだした。


「い、犬神様っ!?」

「わっふん」


 え? あのブラックタンのまろ眉? 胴長短足の小型犬、犬神伽羅(きゃら)様だよね??

 なんでここにいるの???

 しかもピンヒゲよりも上の位置に???


「あれ? タクミさん、伽羅さん、知ってるの?」


 チラリと二度見すると、コロッケみたいな茶色の手が、『しーー』と指先を立てている……ように見える。

 太くて全部の指が一緒に出てるからよくわからないんだけど、たぶん、そう。


「い、いやぁ、知らないよ。可愛いのがいるなって見てただけだよ、うん」

「ふぅん、そう」

「わふっ」


 情報量が多すぎて混乱する。なんでこんなことになってしまったのか。

 俺はただただ平和に暮らしたいだけなのに。


「で、顔見せは終わったけど、もう解散していいの? 最近、リーダーになったから、わたし忙しいの」


 そういえばネレスは俺の生贄リーダーだった。

 具体的に何してるかまったくわからんけど。


「あと少しだけ待ってもらっていいですか、ネレスさん。実はランキング1位の『あのお方』からメッセージを預かっているのです」


 ピンヒゲの言葉に、ピシッ、と周りの空気が凍りつく。

 比喩ではない。本当にいきなり氷点下まで気温が下がって、座っていた雲が固まったのだ。


「え? なになに? 1位の人、そんなに怖いの?」

「ちょっと黙っててっ! 伽羅さん以外、まだ誰も見たことがないの。メッセージを送ってきたのも初めてなんだよ」


 ずっと飄々とおちゃらけていたネレスの真面目な顔をはじめてみる。


「みんな見たことないんだったら実は弱かったなんてこともあるんじゃない?」


 ネレスが信じられないといった顔で俺を見下ろす。


 実際、昔の俺がそうだった。

 弟子のアリスが強いだけで、ずっと勘違いされていたんだ。見たこともない1位なんて、噂だけが先行してるだけの雑魚かもしれないじゃないか。


「さすが過去最速で一桁ランキングまで駆け上がった勘違い王ですね。私たちは、そんな恐ろしいこと、口にするどころか、考えることもできません」


 氷点下の寒さだというのに、ピンヒゲの額から汗が流れている。


「『あのお方』は頂点そのもの。それなのに、その力は今も無限に階層を上がっているのですよ」


 ピンヒゲは懐からゆっくりとカードのようなものを取り出して、それを上空に放り投げた。


「わふっ」


 伽羅様の能力なのか。ただ吠えただけなのか。

 1番高い雲の位置まで上がったカードが空中で静止して巨大化する。

 1番下にいる俺まで、はっきりとカードに書かれた文字が見えた。


『8人みんなで戦って、1人になったら戦ってあげる』


 氷点下から絶対零度まで下がった後に、爆発するように温度が上昇する。

 蒼穹天井が異様な空気に包まれる中、俺は唯一、1人だけ違うことを考えていた。


 これ、みんなで戦わせて共倒れ狙ってない?


 伽羅様がさっきみたいにまた『しーー』と指を立てた。





 ※ 昔、楚の国で、(ほこ)(たて)とを売っていた商人が「この矛はどんなかたい盾をも突き通すことができ、この盾はどんな矛でも突き通すことができない」と誇ったが、「それではお前の矛でお前の盾を突けばどうなるか」と尋ねられて商人は答えることができず、二つの物事がくいちがい、辻褄が合わないことを「矛盾」という事になったというお話。タクミは漫画、聖闘士◯矢で学んだ。



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― 新着の感想 ―
「矛盾」って使い手の技量無視しとるからな~ 全く同じとまで行かなくても近い技量なら双方壊れるだろうけど 技量差が大きかったら技量の高い方が残るよなあ(目反らし
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