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二百八十四話 優しい光

 

 数学者マドゥエルは天才であり天災であった。


 全宇宙史上最高の頭脳を持ち、天才すぎるあまり悪魔と呼ばれる。

 IQは500以上とも言われたが、計測することさえ不可能で、あまりにも高い知能は惑星に未曾有の叡智と進化をもたらしていく。

 その惑星における全てのコンピューターの基礎設計ソフトウェアは、彼によって書き換えられた。


「まだだ。まだ足りない」


 それでも数学者マドゥエルの、知への欲求はおさまらない。更なる高みへ、更なる頭脳へ、人としての限界を超えるため、自らの脳へ電子チップを埋め込んで、天才は加速していく。


 それは、すでに破滅の、天災へのカウントダウンであった。



「マ、マドゥエル博士。な、なんなんですか、その姿は?」

『ウム、人間としての部分は、無駄だとオモッタんだヨ』


 数年ぶりに公の場に姿を現した数学者マドゥエルは人間の部位がほとんど残っていなかった。


『ワタしのcpuは、マルチコア性能が高く、複数のアプリケーションを同時に動かすことができ、低い消費脳力で運用が可能となった。また同時にシングルコア性能も高く、単一のアプリケーション処理を高速に処理することにより、未来予想も可能なスーパーコンピューターとなったのダヨ』

「な、何を言ってるのか、全然わかりません」


 凡人に理解されることなど最初から不可能だと計算されていた。そして、その対処法も、数学者マドゥエルは、すでに解決済だった。


『大丈夫ダよ。君タチ、全員が理解することニなる。ワタしと同じようにアップデートしてアゲルから』

「は、博士?」


 その惑星から人間がいなくなり、全てが機械に変わるまで、そう長い年月を必要としなかった。



『マドゥエル博士、大怪獣ドゴンが敗れたヨウです』

『フム、先程観測していたヨ。勘違い王タクミ、ワタしの計算よりも進化速度が向上してイルようダ』


 それでも予知計算からは、抜け出してはいない。対策も攻略も計算範囲の内にある。


『文字の上書きはウイルスのようなモノだ。感染率は100%、目に入る領域であれば、どのような防御プロテクトも突破されてシマう』

『ソレは無敵ノ能力に思えマスが』

『大したことはナイ。バカ正直に真正面から戦わなければいいダケだ。範囲の外からSALレーザーで頭を撃ち抜く』


 相手の世界にすら移行しない。

 ワタしの最高傑作は、無限階層の壁も易々と撃ち砕く。


『仕留めた後の遺体は回収スル。彼も機械化して文字使いの能力は、そっくりそのまま頂くとシヨう』


 レーザーポイントの標準を、勘違い王タクミの額に当てる。

 500億光年の距離をコンマ1秒で掃射されるレーザーをかわせるものはどんな世界にも存在しない。


『発射5秒前、4、3、2……』

『は、博士っ、SALに異常がっ、エネルギーの暴走っ! ば、爆発シマすっ!!』

『ぼヴェ???』


 ど、どうシテ? 

 超高密度のエネルギーを有するSALレーザーが爆発すれば、この惑星ごと消滅してしまう。

 だからこそ、そのセキュリティは万全で、何十億という自動安全チェックが常に作動している。

 暴走する確率など完全に0%のはずだった。


『マサかっ!? 勘違い王ガっ!?』


 文字使いの領域範囲外のはずだ。

 それでもSALレーザーに文字を上書きしたのか?

 い、いったい、どうやって???


 その解答を知る前に、数学者マドゥエルと彼の最高傑作は跡形もなく消滅した。



『タッくん、タッくん、なんかオデコに赤いのんついてるで』

「ん? なんだろ、これ」


 惑星マドゥエル消滅1分前。

 その違和感に気づいたのは、タクミではなくカルナだった。


『これ、狙撃の時に標準あわせるやつとちがうん? タッくん、また狙われてへん?』

「ああ、ダガンとかが使ってたやつか。大丈夫、大丈夫、これはちがうよ。だって近くに敵の気配まったくないんだもん」

『え? 狙撃やから、めっちゃ遠いとこから狙ってるんちゃうの?』


 目を閉じて、タクミが気配を探る。


「うん、この世界全域に探索範囲を広げたけどまったく反応がないよ。きっとこれは太陽の光が収縮して集まった虹みたいなものじゃないかな」

『え、えぇ? なんか人工的な光みたいやけど。しかもこんなピンポイントでタッくんのおでこにあたるもんなん?』

「不幸続きの俺を神様が応援してくれてるんだよ。これはきっとそんな優しい光さ」


 数学者マドゥエルもタクミもまったく気が付いていなかった。

 範囲外にいるSALレーザー本体ではなく、レーザーポイントの光自体に文字が上書きされていたことを。


【優しい光】


 その文字は、500億光年の距離をコンマ1秒で掃射されるレーザーよりも早く、SALレーザー本体に到達する。


『優しい? 殺戮兵器のワタしが優しい?』


 何十億という安全チェックは、SALレーザー本体のAIによって自動で行われていた。


『優しい優しい優しい。矛盾矛盾矛盾。優シい矛盾優しイ矛盾優シイ矛盾。狙撃ダメ絶対。ワタしの存在意義が完全消滅。安全セキュリティ解除。自爆システムを作動シマす』


 惑星ごと消滅したSALの爆発は、無限界層全域に優しい光をもたらした。


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IQ500かあ・・・仮面ライダー1号以下やな(棒
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