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二百八十二話 迷子の子供

 

 無限界層ランキング72位、勘違い王タクミ。


 うん、俺、いつのまにランキングに入ってたの?

 まったく戦った記憶ないんだけど。


 幾重にも重なり積み上がった世界の一つ一つは、どれも形容し難いほどに異質でおぞましい。

 こんな世界の住民たちがやってきたなら、一発でわかるはずなんだけど。


「あれ? もしかして疑ってる?」

「いや、痕跡はあるから来たのは来たと思うよ、うん。でも、俺が気づかないうちに倒してたって、おかしくない?」


 ネレスを疑うわけではないが、出会ったことすら記憶にない。そんなことある?


「ちょっと見てくるよ。えっと、この痕跡は3日前のか。ずいぶん、最近だな」

俯瞰ふかんによる過去回想か。そうだね、真実はちゃんと受け止めて」


 う、受け止められるかな。このまま気づかずに平和に暮らしたかったよ。


「はぁ、行ってきます」

「いってら」


 脳の中を彷徨いながら進むように、記憶の渦を逆行していく。

 目的の記憶は、いつもの洞窟前、ザワザワという喧騒の中で始まった。



『あ、あれ? なんやコレっ!? なんでうち、人間に戻ってるんっ!? ええっ、宙に浮いてるやんっ!』

「落ち着け、カルナ。過去回想だよ」


 前に飛んだ時と同じように魔剣カルナも一緒についてきた。大睡眠コールドスリープの魔法も、過去に戻ったと同時に解けたようだ。


「はーい、みなさーん、ここがかの有名な破壊神タクミが住む洞窟。不動久遠千手洞ふどうくおんせんじゅどうでございます」


 うん、なに、不動久遠千手洞て。

 ここは名もなき洞窟ですが? 


『あ、これ、タクミ見学ツアーやん。サシャがタッくんは怖くないって、みんなに知ってもらうために始めたやつ』

「あー、俺、見学されるのが恥ずかしくて逃げてたはずだけど…… あっ、あのコソコソしてるの、俺じゃないっ!?」

『ほんまやっ、あからさまに怪しい動きやのに誰も気づいてへんっ、気配なくなってるやんっ』


 ステルス迷彩を着てるわけじゃないのに、うっすら透明になっている。隠れたい願望が無意識のうちに反映されているのか。


 見学ツアーの群れから遠ざかり、裏山のほうへと逃れていく。


「こそこそ」

『過去のタッくん、口でこそこそ、言うてしもてるで』

「そっとしといてあげて。俺も今気がついたの」


 強くなっても本質は変わらない。やっぱり俺は俺らしい。


『あれ? タッくん、逃げ出したとこに小さい男の子おるで、ほら』

「あ、そうそう。タクミ見学ツアーでお母さんとはぐれた迷子の子供を保護したんだよ。俺の華麗なる活躍を見て見て」


 これは上位世界とは関係なさそうだけど、いいシーンだからもう一度見ておこう。


「どうした、ぼく。お母さんとはぐれたの? 一緒に洞窟まで戻ろうか?」

「ふん、オマエがタクミか」


 ツンツンの青髪に銀色のつり目。見た目10歳くらいの子供が迷子の寂しさをまぎらわすため強がっている。


「よしよし、泣かなかったのか、えらいねぇ。あとでオヤツのホットケーキを食べさせてやるからな」

「あ、頭をなでるなっ。最下層の底辺がっ。俺様を誰だと思っているっ。惑星グンニグル最高指導者、ドン・キリング皇帝であるぞっ」


 うんうん、かわいそうに。この年で迷子になるのは恥ずかしいから、必死に誤魔化しているんだな。


「そうかそうか、それは失礼した、ドン・キリング皇帝殿。でも遅くなったら心配するから、そろそろ一緒にお母さん、探そうか」

「ぐ、ぐぬぬっ、き、貴様、まったく信じておらんな。よかろう、その死をもって、俺様の力を知るといいっ」


 子供が俺に向かって、手のひらを前にして、大袈裟に両手をかざす。


『タッくんっ、この子、敵ちゃうんっ!? 手から、なんか必殺技でるんちゃうんっ!?』

「大丈夫、大丈夫、遊んでるだけだよ、ほら」

「あ、あれ? なぜでないっ!? 俺様の絶対無敵破壊光線がっ!?」


 うん、いかにも子供が考えた必殺技のネーミングで微笑ましい。


「うわぁ、やられたぁ、見えないけどちゃんと出てたよ、絶対無敵破壊光線。すごいすごい、さすがドンキ皇帝」

「な、名前を縮めるなっ! くそっ、なんで出ないんだっ!? こうなったら究極奥義を浴びせてやるっ!! ……くっ、こ、これも出ないのかよっ!!」


 子供がジタバタと動き回るのを、優しく見守る過去の俺。


「はぁはぁ、バ、バカな、全ての技が発動しない。それどころか、身体能力も格段に低下している。ほ、本当に最下層の子供になったみたいじゃないかっ、……ま、まさかっ、貴様っ、俺様の頭をなでたときに、なにか攻撃を仕掛けていたのかっ!?」


 うん、何もしてないよ。ただ迷子の子供、かわいそうって思っただけで…… ん?


『どうしたん? タッくん?』

「いや、ちょっとこの子の頭、なでなでしたとこ、巻き戻してみる」


 キュルキュルと数分間、回想を巻き戻し、そのシーンを見直す。


「あ、頭をなでるなっ。最下層の底辺がっ」

「ああっ!!」

『うわっ、タッくんの手からなんか文字でてるでっ!!』


【迷子の子供】


 その文字は、ドンキ皇帝の頭から侵入し、全ての能力をかき消して上書きしていく。


『タ、タッくん、この子、ほんまは……』

「うん、上位世界の侵入者だったみたい。わ、悪いことしたなぁ」


 巻き戻しをやめて回想を元に戻す。


「お、俺様は本当にただの子供になってしまったのか。こ、ここで生涯、このまま生きていかねばならないのか」

「ああっ、泣かないでっ、大丈夫、すぐにお母さん見つかるよっ」


 最弱を最強と勘違いされてた俺は、いつのまにか最強の敵を最弱と見誤る勘違い王になっていた。


 



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