継章 カルナワールド
「かえるでござーる♪ かえるでござーる♪ たーくみーんがかえってくーるでござるんっ♪」
『いやロッちん、そんな浮かれてる場合ちがうで。アリスでさえ辿りつかへんかったタクミワールドぶっ壊されてんでっ! 誰がやったか気にならへんのっ!?』
「だれでもいいでござーる、ありがとうでござーる」
あ、あかん。浮かれすぎておかしなってる。
確かにタッくんに会えるんは嬉しいけど、大変なことがおこってるんちゃうの? また世界の危機ちゃうの?
「とりあえず、今夜は盛大にお帰りなさいパーティーでも開くでござるよ。……生け贄のことはひとまず保留にしてあげるでござる」
『そ、そういえばそっちも解決してなかったな』
洞窟には今、専属生け贄のサシャ、筆頭生け贄のくーちゃん、生け贄皇后のリンデンが居候して、タッくんの帰りをいまかいまかと待ちわびてる。
戻ってきたら修羅場間違いなしやん。
『そういやレイアやヌルハチはどうしたん? タクミワールドに行く方法探すいうて、全然戻ってけえへんけど』
「神降ろしや転移魔法では辿り着けなかったので、二つを融合させるとか言ってたでござるよ。まあ、完成する前にタクミワールドが壊れてしまったので、一緒に帰ってくるかもでござるな」
神と魔法を組み合わせ、ピングディメンションドアを作ろうとしとったんか。それでもそこには至らへんかった。
この世界でも5本の指に入るような強者2人が力を合わせても不可能やったことを、タクミワールド潰した奴は、簡単にやってのけた。
ピングディメンションドアと同じようなもん作って侵入し、内からタクミワールドを破壊したんや。
『なあ、ロッちん、やっぱり今のタッくんは……』
「あーーっ、タクみんっ、タクみんがきたでござるっ!」
『えっ、どこ? ま、まったく気配せえへんねんけどっ!』
「700キロ先の半島からゆっくり歩いてきているでござるっ! もうすぐそこでござるよっ!」
うん、それ、ぜんぜんすぐそこやない。
「忙しくなるでござるっ、腕によりをかけて美味しいものを作るでござるよっ」
『うん、それもタッくんに任せたほうがいいと思うで』
……今のタッくんに、ウチらは必要ない。
今度の戦いはまったくレベルの違うものになる。
いや、それはもうすでにわかってたはずや。
タッくんは。ずっとずっと一緒にいたウチをロッちんに預けてしもうた。
「ごはんでござーる♪ ごはんでござーる♪ たーくみーんのごはんをつくーるでござるんっ♪」
『はぁ、うちはアンタが羨ましいわ』
ずっとタッくんの側にいられると信じて疑ってへん。どこまでもついていきそうなロッちんがまぶしく見えた。
「タクみんが帰ってこないでござる」
うん、なんかそんな気がしてた。
「帰ってこないでござるっ!」
まあ、帰ろうと思えばピンクディメンションドアで一瞬やからな。タッくんはウチらを巻き込みたくないんや。
「帰ってこないなら迎えに行くでござるよっ、きっと生け贄のことが拙者に申し訳なくて帰るに帰れないのでござるよ」
『違うと思うねんけどなぁ』
「そんなことないでござるっ、その証拠にタクみんの気配はだんだんと近づいているでござるよっ」
『え? ほんまに? どれくらい近づいてるん?』
「900キロ先の断崖絶壁にいるでござる」
『離れてるやんっ! タッくん、遠ざかってるやんっ!』
「す、少し前まではもっと離れていたのでござるよ」
それは単に遠くでウロウロしてるだけやないん?
迎えに行っても迷惑やないんかな。もし会いに行って嫌な顔されたら、ウチは立ちなおられへんわ。
「よし、そろそろダッシュでタクみんを迎えに行くでござる……んんっ!?」
『え? ええっ!!』
突然、目の前にピンクのドアが出現する。
『これ、タッくんのピンクディメンションドアやんっ!?』
「いや、違うでござるよ。ドアが木製でなく金属製になってるでござる」
ほんまや、微妙にデザインが違うわ。
「どうやら、タクみんに早く会いたいという拙者の想いが、このドアを発現させたようでござるな」
『ほ、ほんまに? これ敵のやつちゃうの? 開けたらラスボスおるんちゃうん?』
「違うでござるよ。これは拙者のドアでござる」
ロッちんのおでこから魔力が溢れてる。まさか緑一色とおんなじ原理なんか?
ガチャリとノブがまわり、ドアの向こう側の景色が変わる。断崖絶壁の崖の上で、タッくんがお鍋をグツグツと煮込んで料理をしていた。
「タクみんっ、何をしているのでござるかっ!?」
「おお、ロッカ、ピンクデなんとかドアが使えなくなって…… ん? なんでドアあるんだよっ!」
「ふふん、拙者使えるようになったのでござるよっ」
「いや、それ、俺んだろっ!? 返してっ!!」★
あ、あれ? タッくん、ウチらを巻き込まへんために帰らへんかったんやないの?
「ダメでござるよっ、拙者これでいつでもタクみんの元へ行くのでござるよっ! ああっ、何をするでござるかっ!」
「むぅ、ぐっ、ちょっ、おまっ、こらっ、はなせっ」
「だからこれはもう拙者のドアでござるっ!!」
「はぁはぁ、俺のピンクデなんとか……」
「名前覚えてあげないから、拙者のとこに来たのでござるよ」
いつもの、いつものタッくんや。
『タ、タッくん』
「お、おお、カルナか。そんなとこで何してるんだ? ほら、早く戻ってこい」
『へ? タッくんがウチをロッちんに預けたんとちゃうん?』
「いや、違うよ。たまたま、そっちに行っちゃっただけだよ」
早く早くとタッくんが手招きしている。
『えへ、うひひひひ』
「あれ? くすぐったかった?」
タッくんの腰に。いつもの場所に。ウチの世界に戻ってきた。




