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二百八十話 言わないで

 

 のどかな日常が戻ってきた。

 もう何回もそんなことを言っていた気がするが、今度こそ間違いない。


 エロエロ生け贄大作戦により、破壊神へのイメージは崩れ、俺がただただエロい人ということが世界中に広まっていった。

 生け贄さえ捧げていれば、世界崩壊の危機は救われる。そんな勘違いにより、真の平和が訪れたのだ。


「帰るでござるよっ! 生け贄は充分間に合ってるでござるよっ!」

「何をいうのっ! ルシア王国の王女がわざわざやって来たというのにっ! 間に合っているのなら、他を帰して私を専属生け贄になさいっ!」


 うん、やめて。専属モデルみたいに言わないで。

 サシャはルシア王国のお仕事が専属だから。


「ブラックドラゴン一族を代表して生け贄に馳せ参じました。どうかご寵愛のほどよろしくお願い致します。タクミ殿」

『く、くーちゃんっ! なんでくーちゃんがくるんっ!? てかなにその格好っ!? なんで服きてる方がエロいんっ!?』

「ブラックドラゴン一族に代々伝わる、夜伽専用衣装やねん。これでもう、タクミ殿はうちにメロメロや。筆頭生け贄の座はゆずらへんで」


 そんなもの代々伝えないで。あと筆頭株主みたいに言わないで。


「南方機械帝国ヨリ飛ンデ来マシタ。デウス博士カラ人間ノ心ヲ捨テ、生ケ贄マシーン、トシテ責務ヲ全ウセヨト……」

「あー、はいはい。そこの人、順番守って。整理券配ってるから。ルールを破る人は、生け贄皇后のリンデン様に怒られるぜ」


 もう何をどこからつっこんでいいのかさえ、わからない。なぜかバッツが整理係みたいになってるし。


 ……これ、もしかして真の平和、訪れてなくない?


「とりあえず、今日のところはみんな帰ってくれないかなぁ」


 その望みは叶えられることなく、生け贄は日に日に増え続けていった。



「貴方が生け贄皇后リンデン様のご主人様、超弩級ちょうどきゅうエロ破壊神タクミ様であられますか」

「へ?」


 草が生い茂る俺の足元に、まだあどけなさの残る少女が跪ひざまずいている。

 増え続ける生け贄から逃れるため、こっそりピンクデなんとかドアで北方の果てまで逃げてきた時のことだった。


「うん、超弩級エロ破壊神てなに?」

「ふっ、なにを申されるか。超弩級エロ破壊神とは全世界のエロの頂点に立つタクミ様にだけ許された称号ではないですか」


 え? 俺、いつのまにエロの頂点に立ってたの?

 てか、この流れ……


「えっと、君、俺の新しい弟子になりにきたの?」

「何をおっしゃいますかっ、わっちはリンデン様を超える生け贄王にっ」


 うん、海賊王みたいに言わないで。


「ピ、ピンクデなんとかドア」

「ああっ、タクミ様っ、わっちを置いていずこへっ!?」


 これ以上、変なキャラを増やすわけにいかない。名乗りをあげられる前に逃げ出した。



「あれ? ここ、どこ?」


 ピンクデなんとかドアを開けると、目の前に無限の螺旋階段が続いていた。

 これまでに行ったことのない幻想的な風景。

 あまりに慌てて逃げたので行き先を設定せず、ランダムな場所に飛んできてしまった。


「人の気配を感じない。現実世界みたいな別次元なのか?」


 ここなら生け贄もやってこれないし、しばらく探索してみようか。

 ゼェゼェと息を切らしながら、螺旋階段を登り、なんとか頂上に辿り着く。

 空中庭園の中心で、全長百メートル程もある、巨大な王院が蜃気楼の中で揺らいでいた。


天蓮華鳳凰堂てんれんげほうおうどう?」


 家の形をした大きな駒札に、毛筆の草書で神々しく書かれている。

 どこかで聞いたような名前だが思い出せない。

 誰から聞いたんだっけ?

 そうだ、確かアリスから……


「もしかして、ここって」


 王院の扉を押し開けると、ぎぎぎっ、と軋んだ音が鳴り響く。そこから開放された空気には、淀んだ黒と熱気の赤が含まれていた。


「あ」

「あ」


 百八の仏像に囲まれて、その中心にアリスが座っている。


「もしかして、ここ、永遠の場所?」

「知らないできたの? 終の試練と魂の天秤は?」

「ご、ごめん、そういうの通ってきてない」


 本来なら様々な試練を乗り越えて辿り着く場所なのか。なんか抜け道から来たみたいで申し訳ない。


「やっぱりタクミはすごいね。ワタシがどれだけ全力で走っても、その背中すら見えてこない」


 うん、それはずっと俺がアリスの遥か後方でゆっくり歩いてるからだよ。この力だって一時的なもので、すぐなくなる予定だし。


「アリスはここで修行を?」

「……修行、うん、これも修行になるのか」


 アリスにしてはめずらしく歯切れが悪い。

 確かにいつものように激しく動いた痕跡はなく、座っている前には、分厚い本が置かれている。


「武術の本かなにかか? アリスにしては珍し……」


『生け贄全書』


 ちらっと見えた分厚い本のタイトルに頭がクラクラする。うん、六法全書みたいに読まないで。


「もう帰るの? タクミ」

「うん、ちょっと1人になりたいんだ」


 誰にも見つからない場所へ。

 俺が作った俺だけの世界へ。

 小さな宇宙を閉じ込めた空間へ。


 ピンクデなんとかドアを開けて、再びタクミワールドへと逃げ込んだ。



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