二百七十九話 サクリファイス
「絶大な力を持ちながら、これまでおとなしかった超宇宙タクミが破壊神となった原因が判明しました」
崩壊したギルド協会が、紆余曲折の末、ルシア王国の援助を受けて再興した。
魔法王国の王を退任したリンが、なぜか秘書に復活して十豪会を司会進行している。
ナギサから借りたステルス迷彩で、こっそり十豪会に参加していた。完全に気配を消しているので、円卓に座るバルバロイ会長のすぐ後ろでドキドキしていることは、誰も気づいていない。
「ふむ、発表したまえ、リンデン・リンドバーグ」
え? 発表しちゃうの? 俺が文字の力で暴走したことバラしちゃうの?
「エロです」
ん?
「どエロが原因です」
んんん???
「な、なんだと? あの圧倒的なまでの力の源が、エロだったというのかっ」
「吾輩は気づいていたにゃ。あの男は時々、獣のような目で吾輩を見ていたにゃ」
お前が獣だよっ、と思わずツッコミそうになって口を抑える。
「そうか、やはりエロであったか」
いや、やはりエロであったか、じゃないんだよっ! なんで、みんな満場一致で納得してんだよっ!
「先日、タクミ村で両頬にアザを作りながら、スケベ再猛省中のプレートを首から下げている姿が確認されました。身内にすら手を出していると推測されます」
推測しないでっ! も、もしかしてリン怒ってる? 俺がエロいことしたと思って激怒してる?
「英雄色を好むとはいうが、そこまで見境がなくなっておるとは」
うん。なくなってないよ。平常心だよ。力を無くしたことを広めたくて、誤魔化しただけなんですよ。
ざわざわと十豪会が異様な空気で進行している。
どうしよう。姿を現して誤解を解いたほうがいいのだろうか。
このままだと、宇宙最強のエロ破壊神だと誤認定されてしまう。
「しかしながらエロが原因とあらば対策もございます。定期的にエロ生け贄を捧げれば、破壊衝動は収まるのではないでしょうか」
なに? エロ生け贄ってなにっ!? そんなの俺に捧げないでよっ!!
「素晴らしい提案じゃが、誰が好き好んで色狂い破壊神のエロ生け贄になるというんじゃ」
やめて。色狂い破壊神て呼ばないで。
「仕方ないにゃ。ここは吾輩が……」
「提案した私が、最初の犠牲者になりましょう」
「喰い気味にかぶせてきたにゃっ! 行く気まんまんじゃにゃいかっ!?」
「そ、そんなこと、ありませんよ」
少し顔を赤らめて、微笑を浮かべるリン。怖い。一体、何をするつもりなんだ、エロ生け贄。
「しかし本当に大丈夫なのか、あれほどの破壊衝動がすべてエロから生み出されるのであれば、お主1人では受け止められず、壊れてしまうのではないか?」
「大丈夫です。むしろ壊れてしまうほどに…… い、いえ、なんでもありません。エロ生け贄としての責務を真っ当し、全身全霊で破壊衝動を受け止めに行って参りますっ」
う、うん。なんかこわい。
もう破壊衝動なんて残ってないからね。
あとエロ生け贄の責務って何?
「反対だ。それはあまりに危険すぎる」
「むっ、誰じゃ、エロエロ生け贄作戦に反対する者はっ」
増えてる。エロが一個増えてるよ。
十豪会メンバーで手をあげる者はいない。
だって俺がこっそり声色を変えて言ったんだから。
「今のは、タクの声だったような……」
なんでバレてるのっ? 別人の声に変化させて喋ったのにっ。
「誰も名乗り出ないか。もしかしたら我々はエロエロ生け贄大作戦を恐れるあまり、幻聴を聞いてしまったのかもしれんな」
ちがうよっ、めっちゃ俺が話してたよっ、幻にしないでっ、あと大作戦にもしないでっ!
「あ、あのぅ、俺、力なくなって弱くなったんですよ」
「うひゃぁっっ!! どエロ破壊神タクミっ!?」
ああ、思わずステルス迷彩を解除して出てきてしまった。
「貴様っ、何をしにきおったっ!? 再興したギルド協会をすぐに潰しにきたのかぁっ!!」
「い、いや、だから俺、宇宙最強の力も文字の力も全部返して弱くなったんですって」
「た、戯言をほざきおって。そこまでの力を持ちながら、油断させて我らをいたぶるつもりかっ!!」
ちがうよ。これ以上ほっといたら、作戦タイトルがどんどん長くなりそうだから出てきたんだよっ
「あとですね、俺、エロくもないんです。誤解なんですよ」
「そんなプレートをぶら下げておいて、よくもぬけぬけとっ!!」
「こ、これは仕方ないんだっ!」
だってスケベ再猛省中のプレートを外すとロッカがブチギレるんだものっ。
俺の動揺を見逃さず、バルバロイ会長が懐から小さな鈴を素早く取り出し握りしめた。
「え? それ、転移の……」
「同じ鉄は踏まんっ、緊急退避じゃっ」
「ああっ、待ってっ、行かないでっ、誤認定なんだってばっ!!」
俺の叫びも虚しく円卓の数字が光に包まれる。
十一本の光の柱が並び立ち、十豪会のメンバーは、一瞬で光と共に転送された。
「あ、ああっ、追いかけたら力があるのバレちゃうよっ、ど、どうしよ…… ん?」
たった1人、11番の番号前に座る司会進行のリンだけがその場に残っていた。
恥ずかしげに頬を染め、上目遣いで俺に尋ねる。
「生け贄る?」
「生け贄らないよっ! てか生け贄るってなにっ!?」
弱くなったフリをして平凡な日常を過ごすという俺の計画が音を立てて崩壊していく。
そして、まさかのエロエロ生け贄大作戦が始まった。