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二百七十七話 永劫回帰

 

「ただいまぁ」


 久しぶりに洞窟に帰ってくる。

 ちょっとメンテナンス中のカルナの様子を見に行っただけのつもりが、長い留守になってしまった。


「おかえりなさい、タクミさん」

「久しぶり、レイア。変わりはなかったかな?」

「はい、もう少し帰ってくるのが遅かったら、私が切腹しそうだった事以外は何も」


 う、うん、間に合ってよかった。


「そういえばロッカがタクミさんを追いかけて行きましたけど、一緒ではないのですか?」

「しばらく反省中。小さい宇宙と」


 レイアは首を傾げるが、それ以上は聞いてこない。

 ロッカのことだから大丈夫だと思っているのだろう。もうしばらく放置しておこう。


「他のみんなは? 久しぶりに料理を作ろうと思うんだけど」

「ヌルハチとサシャはルシア王国に。西方と南方の謀反について国際会議にかけるとか言ってました。デウス博士とマキナもその件でついて行ったみたいです」


 デウス博士には、ファイナルクエストンのこと聞きたかったんだけど。後で南方に行ってみようかな。


「アリスは?」

「アリス様は相変わらず」

「修行、だな」


 洞窟の裏の森の奥で、鬼気迫るような気配を感じる。1人分の気配しかないから、自分との戦いとか、なんかそういう類いのやつだろう。


「ちょっと話してくる。料理の仕込みを頼んでていいかな? たしか倉庫に」

「芋剥きですね。任せてください。一瞬ですべて片付けて参ります」


 うん、三人しかいないからね。十個もいらないよ。

 そう言おうとする前に、カット能力を使ったレイアが目の前から消えていた。


「まあいいか、余ったら全部あらごしヴィシソワーズにしちゃおう」※1


 時間はかかるが仕方ない。戻ってくる頃には、もう俺に万能の力は残ってないから、ゆっくり時間をかけて作っていこう。



 ピンクなんとかドアを使わずに、森の奥へと向かっていく。進むほどに薙ぎ倒された木々が増えていき、人影が見える頃には森は消え、草木一本残らない荒野が広がっていた。


「やあ、アリス。久しぶり」

「はぁはぁ、……タクミ」


 ずっと休まず修行していたのか。シャワーを浴びたみたいに汗だくのアリスが、自分の匂いを気にして、二の腕をくんかくんかしている。


「大丈夫、臭くないよ」

「そう? 自分でもだいぶ匂うけど」


 嫌な匂いじゃない。ずっとずっと幼い頃から感じてきた、アリスの匂いだ。


「はい、これ、お土産。もっとも元々アリスのものだけど」

「いや、元々の元はタクミのじゃないか。というか、宇宙最強の力をそんな簡単に……」


 暴走してアリスと戦った時に奪った宇宙最強の力。※2

 だって軽い感じで返さないと、また揉めそうなんだもん。


「簡単でいいんだ。ずっといた場所に戻る。それでいい」


 返されても困る。そんな顔をしているがもう遅い。宇宙最強の力は、もうアリスの中に返してしまった。


「なんでもできる。なんにでもなれる。だから、なにもできないし、何者にもなれないんだ」

「タクミはそのままで最強だから」


 それも勘違いだけど、まあ、今はいいや。


「文字の力も返すの?」

「うん、最強になれたから最弱に戻れるんだ」


 なにもかも全部元通りにする。

 弱くなっても、想いや意志は変わらない。


「そっか。もっともっと強くならないと。……また置いてかれる」


 アリスは遥か先にいて、俺はずっーーと後の方だよ。いくら頑張っても、その先に俺はいないからね。


 そう言ってやりたいのだが、なんだか嬉しそうに遠くを眺めるアリスを見ていると何も言えない。


「後で肉じゃがと、たぶんヴィシソワーズも作るから食べに来て」

「ありがとう、タクミ」

「うん、またね、アリス」


 たぶん、アリスは帰ってこない。

 また、どこか遠くへ行くのだろう。

 果てしない強さを求めて。誰も知らない最強を知るために。


 背を向けて、やって来た道を戻っていく。

 天に向かって両手をあげて、自分の中にある全ての力をそこに集約させる。

 ありとあらゆる全ての文字が混ざり合い、大きな球体が出来上がった。


「ふぅ、身体が重い。久しぶりに戻ったら、立ってるだけでしんどいじゃないか」


 最弱になった俺の額には、きっともう何も書かれていない。


 あるべき物は、あるべき所へ。

 文字の塊は、それが生まれた場所へと帰っていく。


 帰って……あれ?


 文字塊は、どこにもいかず、俺の周りをふよふよと漂っていた。


「か、帰らないの?」


 ふんふん、と頷くように。文字塊が上下にゆれる。


『文字に愛されてるんだな。何百万という文字を書いてきた僕よりも。少し羨ましいよ』


 誰かの声が聞こえてきたが、どこから聞こえてきたのかわからない。ただ、ずっとずっと遠い場所から聞こえたような気がした。


 塊だった文字がバラバラになり、一文字ずつ、雪崩のように、連続して俺の口から入り込む。


「ゲ、ゲボッ、う、嘘だろっ、力、戻ってるっ!?」


 周りの空気を凍らせて、鏡のようなものを作り出し、自分の額を恐る恐る覗き込む。


 しっかり、はっきり、太い文字で。


「永遠のラスボス」と書かれてあった。




※1 タクミの得意料理あらごしヴィシソワーズの初登場回は、第一部 二章 「十二話 芋と魔剣とゴブリンと」に載ってます。ぜひご覧になって見て下さい。


※2 タクミがアリスの宇宙最強の力を奪うエピソードは、第八部 二章「二百五十八話 底の底」に載ってます。ぜひご覧になって見て下さい。




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― 新着の感想 ―
[一言] 「永遠」さんが最後に倒さないと逝けないボスになったんか(棒 正しい順番で倒さないとバグるんやろうなあ(明後日の方を見ながら
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