二百七十五話 義弟
「ブタクみんとか言ってなかった?」
超絶本物タクみんが拙者を見つめてるでござる。
あまりのカッコ良さに、拙者、おめめがハートでござるよ♡
「ブタクみんって言ってたよね?」
「い、言ってないでござるよ。空耳ではござらんか?」
「めちゃめちゃ言ってたわよ。私、後ろで聞いてたもん」
ク、クソビッチがぁああっ。
拙者を姑息な罠に嵌めたでござるなっ!!
「後でお仕置きだな。でも今は先にこっちを片付けないと」
タクみんが偽物のほうに振り返る。本当の姿を見せても偽タクみんは、余裕の笑みを崩さない。
「うん、まんまと騙されるとこだったよ。弱くなったフリをして、この変な世界に引き篭もるつもりだった?」
「そうだよ。俺が本気出しちゃうと、歯止めが効かなくなるから」
カ、カッコよすぎでござるっ!
その台詞、拙者の心のメモ帳に、しっかりと刻みつけたでござるよっ!
「大丈夫だよ。僕が生まれたから。安心して全力で戦ってくれ、オリジナル」
「俺のコピーで、なんでも真似できるから互角に戦えると思ってる? ここに来た時点で、もうほとんど負けてるってことに気づいてない?」
はうっ、タクみんの言葉が拙者の心の臓を鷲掴むでござるよっ!
「……戦う前から何を言っている?」
「俺だったら、敵が作った世界の中になんて絶対入らないよ。ここにあるもの全部が俺の思い通りになったらどうするんだい?」
はっ、と何かに気づいた偽タクみんから余裕の笑みが初めて消え、慌てて魔法を発動させる。
「ピンクディメンションドアっ!!」
「だからもう遅いよ、ここはすでに俺の腹の中だ」
偽タクみんが出したピンクのドアが、出現と同時に草木に飲み込まれ地面にズブズブと沈んでいく。ノブを回そうとした手が虚しく空を切った。
げらげらげら。
二足歩行の動物たちが、それを見て笑っている。
「オリジナルっ!!」
「なんだい? 劣化コピー」
偽タクみんが手をかざし、消滅の光を発動させたが、タクみんはそれ以上の光を放ち、簡単に弾き返す。
「バカなっ、威力は同じはずなのにっ!?」
「それもちがうよ。君が一回目に放った光を吸収して、それに上乗せしてみたから。少なくとも二倍以上の威力はあるはずだ」
さすが本物のタクみんは一味も二味も違うでござる。もはや偽タクみんなど、ただの雑魚にしか見えないでござるよ。
「偽物のほうにズキューンってなってたくせに」
「う、うるさいでござるよっ、クソビッチっ」
後で何か挽回しないとヤバいでござるな。
拙者の株が大暴落中でござるよ。
「……正直油断していた。オリジナルは自ら手を下さない、平和主義者だと聞かされていたから」
「まあ、少し前までは本当にそうだったんだ。というか手を出す力も全然なかった。でも今はちょっと自分の力に溺れている。あまり浸ってしまうと、また暴走しかけないほどに」
いやーん、闇に染まりそうなタクみんにゾクゾクするでござる。
敬愛をこめてダークみんと呼ばせてもらうでござるよ。心の中で。
「だから、さ。悪いけど俺が暴走する前にちゃっちゃっ、と片付けさせてもらうよ。食後の運動がてらに」
ぱちぱちばち。
植物たちが葉っぱを叩いて拍手喝采。
本当にこの世界は、全部ダークみんの思い通りでござるのかっ!?
「確かにそうだな。蛇に睨まれたカエルどころか、すでに飲み込まれた気分だよ、オリジナル」
ん? 偽物、観念したでござるか?
頭に巻いてあったバンダナを外して、棒立ちになってるでござるよ。
「あ、あれ? そのオデコの文字?」
「そうだよ、七だよ、ロッカねえちゃん」
ロ、ロッカねえちゃん???
「なんでダークみんのコピーが拙者の弟なのでござるかっ!?」
あ、ダークみんと言ってしまったでござる。
「僕は第七禁魔法なんだよ、ロッカねえちゃん。そこに前の戦いで千切れたオリジナルの右腕、聖剣タク右カリバーの細胞を混ぜて作られた魔法と科学の融合体。僕こそが宇宙最強に相応しい究極の生命体なんだ」
「き、禁魔法は六つまでしかなかったはずでござるよっ!!」
バンダナを外した偽タクみんから、異常なまでの魔力が溢れている。ほ、本当に第七禁魔法なのでござるかっ!?
「そうか、作り出したのか。人の手で。新たな禁魔法を」
これまで、余裕を持って飄々としていたダークみんの表情が真剣なものに変わっていく。
「これはちょっと、魔法王国ごと滅ぼさないといけないなぁ」
まさしくダークみんでござるっ!
それはちょっと止めないといけないけど、拙者には止められないでござるっ!!
「タッちん、それはやめときなさい」
「そう? じゃあ六老導だけにしとこうかな」
簡単に止めやがったでござるよ、クソビッチが。
「魔法王国は僕が潰しておくから、心配しなくて大丈夫だよ。これ以上、弟なんていらないからね」
偽タクみんの額の『七』が血のように真っ赤に染まっていく。
「オリジナルがどれだけ僕より強くても、この世界が君の思い通りでも関係ない。第七禁魔法は、僕は、全部まとめて破壊する」
「世界の理や原理を捻じ曲げる禁魔法か。いいよ、やってみろよ、劣化コピー」
「僕は、僕は劣化なんかじゃないっ! お前を上回る進化した存在なんだっ! 僕こそが本物のタクミになるんだよっ!!」
いつのまにか、チョビ髭や魔剣カルナが消えている。さっきまですぐ側にいたクソビッチすらいない。
第七禁魔法を警戒して、ダークみんが元の世界に逃したのでござるか。
「あ、あれ? 拙者は?」
逃してくれるどころか、地面からツタのような植物が伸びてきて、拙者の足に巻き付いてはなさない。
「ま、まさか、こんな時にお仕置きでござるかっ!?」
偽タクみんの第七禁魔法が発動する中、ダークみんが拙者に向かってニヤッと笑った。