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閑話 最高の魔法使い

 

 西方魔法王国マジックキングダムの地下深く。

 床に描かれた六芒星のそれぞれの先に、六老導が立っている。

 その中心に置かれた王座には、最近まで天才魔法使いリンデン・リンドバーグが座っていたが、今は空座となっていた。


「また六人での王になったのかい?」

「王は戻ってくる。元凶が消え去れば、な」


 壱老導いちろうどうのイップクが答え、他の五人は賛同も否定もしない。

 第六禁魔法のロッカの騒動から、六老導の魔力は著しく低下している。

 6人の魔力を合わせても、もはやリンデン1人の足元にも及ばない。


「で、タクミの魔力はどうやって探知してるんだ? アンタらだけじゃ、そんな精密に測れないだろ?」

「魔力を測れるのは魔法だけではないぞ、盗賊王バッツ」


 参老導さんろうどうのサンポが答え、今度は他の5人が声もなく笑う。

 なるほど。なりふり構っていられないのか。


「……千里眼ドローンか。南方と組んだんだな。何千年も敵対していた機械帝国と」

「それほどの脅威なんじゃよ。暴走した宇宙最強は」


 肆老導よんろうどうのヨロズが答え、他5人が静かに頷く。

 思った以上に事態は深刻のようだ。このままいけば、本当にタクミは全世界を敵に回すことになる。


「えらく大袈裟だな。タクミは今落ち着いてる。下手に刺激しないほうがいいんじゃないか?」

「落ち着いてなんぞおらん。先程、魔王の大迷宮ラビリンスにて力の発動を確認した。そこで忽然と気配が消えておる」


 陸老導ろくろうどうムロマチの発言に、ざわっ、と他の5人が騒めき立つ。


「まさかっ、ピンクディメンションドアを発動させたのかっ!?」

「しばらく力は発動しないはずではっ!?」

「バンダナの封印はっ!? 無効化アジャストしたのかっ!?」

「千里眼ドローンの反応はっ!? 完全に消失ロストしたのかっ!?」

「だからワシはあれほどっ、寝ている間に片付けてしまえとっ!!」


 ちょっと力を使っただけで大混乱だよ。ヤバいな、タクミ、オイラにはもう止められない。できるのは時間稼ぎぐらいだ。


「まあまあまあまあ、少し落ち着こうぜ、爺さんたち。どのみち今のままじゃ、タクミには勝てないだろ?」

「そんなことはない。対策は着々と進んでおる。魔法と科学の融合によって、第七禁魔法が完成するところじゃ」


 弍老導にろうどうニシンがとんでもない事を言い出して、他の5人がパチパチと乾いた拍手で盛り上げる。


 くたびれた爺さんだと思って舐めてたな。

 新たな禁魔法だと? 人間が踏み込む領域を超えてやがる。


「待てよ、お前たちはタクミの力を勘違いしている。今回の暴走で見せた力が、本当の力だと思っているのか?」

「いや、大賢者ヌルハチ戦で、自ら力を抑えておったのはわかっておる」※


 伍老導ごろうどうゴカンがそう言った後、6人全員が会話を繋げていく。


「それを想定に入れた上で」「さらに数倍の力を持っていたとしても」「魔法と科学の頂点に立つ」「最強の第七禁魔法の前では」「なす術もなく」「この世界から抹消される」


 6人で奏でる不協和音。老いてなお衰えず。

 リンデンを王に添えても、実質、魔法王国の権限はこの老害たちが握っている。


「数倍か。それぐらいならいいけどな。昔からタクミを知ってるオイラからすると、アレぐらいの力なら、10分の1も出してないように見えたけどね」

「バカなっ」「ありえないっ」「あの時の十倍ならっ」「この世界における」「魔力の総量を」「はるかに上回るぞっ」


 うん、そんなわけないよね。だけど、ちょっと信じてるよね? 戦うの怖くなったよね?


「じゃが」「それでもだ」「どれだけタクミが」「宇宙最強であろうとも」「第七禁魔法は」「その力ごと破壊する」


 相手の強さは関係ないのか? 世界のことわりや原理を捻じ曲げる禁魔法ならかなり厄介だぜ。


「わかったわかった、だけど、その第七魔法が完成したとして、誰がそれを使えるんだ? リンデンはタクミの所へ行っちまったし、アンタらの魔力じゃ全員合わせても足りないだろう?」

「それは」「問題ない」「すでに」「術者は」「決まって」「おるわ」


 誰だ?

 リンデンを除けば、大賢者ヌルハチと、後は魔王とロッカぐらいか。だが彼女たちがタクミの敵にまわるとは思えない。いやそういえばもう1人いたな。


「まさか、またサシャを利用しようなんて思ってねぇよな?」

「それは違う」「ルシア王国は」「まだ協力関係ではない」「案ずるな」「誰もが認める」「最高の魔法使いが」「ここにいる」


 くそ、誰だか言いやがらねえ。場合によっては術者を説得するか、さらっちまおうと思ってたのに。


 ………ん?


「ちょっとまて、今、七人いなかったか?」


 六人の老人は誰も答えない。

 七人目の気配はどこにもない。

 姿を消していようが、獣化の儀をしていようが、オイラは絶対に見つけることができる。

 なのに、言葉を聞いたのに、その存在を掴むことが出来ねえ。


「すでにこの場にいるのか? 禁魔法を使う、最高の魔法使いが」


 いつのまにか、空席だった王座に何者かが鎮座している。その姿を直視しても、なお、気配が掴めない。


「やあ、久しぶりだね、バッツ。そしてはじめまして」

「ど、どうして、おめえが……」


 紅いマントを羽織り、玉座に座る、その男からは人間の気配がしてこない。だが、その姿は……


「タ、タクミ、なのか?」

「大賢者との戦いの後」「残された聖剣タク右カリバーから」「細胞を取り出し」「魔法と科学の融合で」「タクミのクローンを」「作り出した」「らしいよ」


 飄々と笑みを浮かべ「らしいよ」と語るもう1人のタクミの額には、『七』の文字が刻まれていた。



※ タクミとヌルハチの戦いは第八部三章「二百六十五話 不の鎮座」に載ってます。ぜひご覧になって見て下さい。


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