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三十話 恋文 or 脅迫状

 

 その戦いは余りにも一方的だった。


 ギルドランキング五位 半機械マキナ。

 その力は本来なら相当なものなのだろう。

 繰り出される攻撃はどれもが戦慄を覚えるほど凄まじく、普通の人間なら一撃で粉砕できる程のものだ。

 だが、それは闇王アザトースにはまったく通用しなかった。

 アザトースを覆う闇に攻撃の全てが吸収され、無効化される。

 さらに、その闇は吸収した攻撃をそのままの威力で、マキナに向けて放っていた。


「……ダメージ率70パーセント。殺戮モード、維持不可能」


 右半身のほとんどが機械で覆われているマキナ。

 その機械が半壊していた。

 機械でないほう、薄手の布を巻いている左半身は比較的ダメージは少ないようだが、体力の消耗が激しいのか、肩で息をしている。

 それと同調するように機械部分も点灯し、空気が漏れるような音がしていた。



「安心していいにゃ。四神柱などなくても、アザトースの闇纏(やみまと)いはどんな攻撃も吸収するにゃ。人間如きがアザトースにダメージを与えるなど不可能にゃ」


 試合を終え、また後ろの席に戻ってきたミアキスがそう言った。

 なんだろう、どこかで聞いたセリフのような気がする。

 それ、負けフラグじゃないよね?


「ダメージを与えるのが不可能? マキナを舐めないほうがいいぞ。一方的にやられているようで、致命傷を避け、敵を分析しておる。戦いはまだこれからだ」


 ミアキスの横、アザトースの座っていた席に、首に包帯を巻いた初老の男が座っている。

 ミアキスに惨敗し、首がちぎれかけていたダガンだった。あれほどの傷を負っても四神柱、玄武と青龍の力でかなりの回復を見せている。


「なんでお前、しれっと隣に座っているにゃ?」

「帰る前に挨拶をしておこうと思ってな。(わし)の言葉を覚えておるか? 狙った獲物は逃がさない、と」

「忘れたにゃ。それにもうリベンジの先約はすでに入っているにゃ」


 ミアキスが観客席の後ろの方に視線を送る。

 つられて俺やダガンがそこに目をやると、全身を包帯でぐるぐる巻きにされた巨大な男が立っていた。

 顔まで包帯に覆われていたが、二メートルを超える身長と背中に背負った巨大な剣ですぐに誰だかわかる。

 大きな盾を大切そうに抱えていた。

 魔盾キングボムだ。

 自爆したはずなのに、なぜか超気に入っている。



彼奴(あやつ)。まだ諦めておらんのか」

「うにゃ。まだまだ本気を出していないらしいからにゃ」

「……その言葉を信じておるのか?」

「なんで疑う必要があるにゃ? 戦えばわかるにゃ。アレはまだ自分の力を使いきれないだけにゃ」

「そうか、見抜いておったのか」


 どうやらミアキスもダガンもザッハの力を認めているようだ。


「儂の順番はまだ先になりそうじゃな」


 そう言って席を立つダガンがどこか嬉しそうに見える。

 そして、その言葉を聞くミアキスも、どこか楽しげだ。


「またいつか、相見(あいまみ)えようぞ」


 去っていくダガンにミアキスは振り返らず、しっぽをぴらぴらと揺らしていた。



『タっくんっ!』


 魔剣カルナの声が響き、再び闘技場の方を見る。

 一方的にダメージを受けていたマキナの機械部分が変形していた。

 右半分だけだった機械から、うねうねとチューブのようなものがはみ出し、まるで、身体が侵食されるようにマキナの生身だった左半身を覆っていく。

 さらに、その上に右の機械部分からパーツが次々と現れ、マキナの全身すべてが機械化する。


「ヴゥッヴヴヴヴヴヴヴゥッ!」


 機械音が混ざったような、耳をつんざくような雄叫びをマキナがあげた。


「最終決戦モード発動。活動限界マデ残リ一分」


 最後の賭けに出たのかっ。

 マキナから、今までとは桁が違う力を感じる。


 マキナが両腕を前に突き出し、手の平を広げていた。

 手の平には小さな穴が空いていて、そこに光の粒子が溜まっていく。


「機閃光・ロンギヌス」


 マキナがそう呟いた瞬間、光の粒子は一本の線となり、ビームのようにアザトースに向かって一直線に飛んでいく。


「無駄にゃ。たとえ、どんな攻撃であれ、アザトースには通じない……にゃっ! そこはっ!?」


 これまでまるで動じなかったミアキスが始めて驚きの声をあげる。


 その細い光のビームはアザトースの闇に覆われた顔に直撃した。

 これまで、すべての攻撃を吸収していたアザトースの闇が初めて光のビームに弾かれる。


「ヴォォォォォォォッ!」


 マキナは最後の力を振り絞るように、さらに出力を上げていく。

 光がアザトースの顔を覆っていた闇を剥がしていく。


 光と闇が交差する中、闇が裂け、青アザがついたアザトースの左目付近が完全に外に出る。


大虐殺(ジェノサイド)・全弾爆撃」


 その隙をマキナは見逃さなかった。


 機械で覆われた身体の至るところから穴が開く。噴射口だ。そこにはすべて、小型のミサイルが搭載されていた。


 何十発ものミサイル。それら全てが一斉にアザトースの顔面に飛んでいく。


「アザトースっ!」


 ミアキスの叫びと共に大爆発が起こる。

 ミサイル全弾がアザトースの顔面に命中した。

 アザトースを覆っていた闇が闘技場に飛び散り、霧散する。


 硝煙と闇の残滓(ざんし)でアザトースの姿は見えない。

 そして、力を使い切ったと思われるマキナは、全身を覆っていた機械が、再び半身だけになり、その場に崩れるようにしゃがんでいた。



「見事な攻撃だった」


 アザトースの声にマキナの人間部分、細い左の目が初めて大きく見開いた。


 マキナの背後に爆発で吹っ飛ばされたはずのアザトースが立っている。

 マキナは後ろを振り返りはしなかった。


「……ソノ闇ハ、ドコマデ深イ?」

「昼の光に、夜の闇の深さは分かりはしない。……まだ続けるか?」

「イヤ、全終了(オールエンド)ダ」



「マキナ様、棄権の為、アザトース様の勝利です!」


 ミアキス戦と同じく、観客席は静まり返る。

 ランキング上位の二人が手も足も出ずに敗北したことに、魔族の圧倒的な脅威を感じているのだろう。


「や、やっぱり余裕だったにゃ。前にアリスにやられた所を攻撃してきたので、ちょっとだけびっくりしたけどにゃ」


 アリスにやられたところか。たしかにアザトースの左目にはアザがあった。

 ダガンが言っていたように、マキナはアザトースの闇が弱っていた部位を解析し、そこを集中攻撃したようだが、それでも通用しなかった。


 人と魔族の力の差。四天王の圧倒的な強さを連続で見せ付けられる(ドグマ以外)。



「それでは続いて一回戦第五試合を始めますっ! レイア様、ヨル様、闘技場へおあがり下さいっ!」


 四神柱による回復が終わったマキナとアザトースが闘技場を降り、次の試合が始まろうとしていた。


「見ていて下さい、タクミさん」


 レイアが立ち上がり、俺に一礼する。

 その表情はこれまでにないほど真剣なものだった。

 やはり、対戦相手のヨルとは、並々ならぬ因縁があるのだろう。


「頑張ってこい。ここで見ている」

「はいっ!」


 元気よく返事し、闘技場へ向かうレイアを見送る。

 だが、その約束は守られることはなかった。


 俺はこの時、左手に違和感を感じていた。

 何も握っていないはずなのに、いつの間にか、手の中にそれは存在していたのだ。


「手紙?」


 こんなことが出来るのは彼女しかいないだろう。

 それは宛名も送り先もない青い色の封筒だった。


 チハルやクロエに気づかれないよう、そっと封を開けて中を見る。


 それは恋文のようであり、脅迫状のようでもあった。


()は貴方を忘れていない。闘技場裏の大樹の下で待っている】


 このタイミングで動き出したか。

 全ては計算通りといったところだろう。

 バルバロイ会長を誘導し、俺を魔王と誤認定させた人物。

 それはもう、彼女以外に考えられない。


「ちょっと、トイレに行ってくる」


 そう言って席にカルナも置いていく。


「タクミっ」

「大丈夫、すぐに戻る」


 ついて来ようとするチハルも制し、一人で向かう。

 そうだ。これは俺が一人で行かなければならない。


 第五試合開始の銅鑼(どら)が鳴り響き、大歓声が巻き起こる中、ゆっくりとその場所へ向かう。


 闘技場裏の大きな木の木陰で、彼女は少し微笑みながら俺を待っていた。


「やっぱり君が魔王だったか」


 否定も肯定もしない。

 彼女は静かに俺を見て、にっこりと笑う。


 それは昔見たヌルハチとそっくりな笑顔だった。


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