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二百六十二話 顚倒善果

 

 頭の中に次々と文字が浮かんでくる。

 この文字を使って、見たことのないような神を降ろして、ああ、そうだ、空間魔法をアレンジして時間を止めよう。


 アイデアが湯水のように湧いてくる。


 無敵最強無敵最強無敵最強無敵最強。

 誰も俺に追いつけない。


 宇宙最強や超宇宙なんてものじゃない。

 全ての次元、並行世界、上位世界において、俺は完全なる最強の頂きに辿り着いた。



天照大御神アマテラス」  


 現実世界のゲームで知った、日本神話における八百万の神々の頂点に位置する最高神をその身に宿す。

 イザナギの左目から生まれた、その神は天上世界を治める太陽を司る女神となり、高天原を統べる主宰神で、皇祖神である。……だったはずだ。


 そんな神ですら、従えることができる。

 一体俺はどこまで高みに登り続けるのか。


「最後だ、アリス。降参するなら、また弟子にしてやる」


 完全上位者として、圧倒的師匠として、それは最後の慈悲だった。しかし。


「なりたくないよ」


 ハッキリと間をおかず、愚かな弟子は返答する。

 何も考えていないのか?

 この神を降ろした俺を見てもまだどうにかなるとでも思っているのか?

 呆れるのを通り越して、哀れにも思えてくる。


「今のタクミは文字に狂ってる」


 狂っている? バカなっ、俺が狂っている? 冗談じゃない。最弱なのに最強と勘違いされ、化け物たちの戦いに巻き込まれて、それでも呑気に笑っていた、あの頃の俺のほうがよっぽど狂っている。

 今の俺が、今の俺こそが、本当のタクミなんだっ!!


「アリスっ!!」


 俺の想いに答えるように天照大御神が反応し、身体を紅く染めていく。

 太陽を具現化したような熱波が、俺を中心に辺り一面に広がった。


「共に参る」


 それでも止まらないのか?

 ブレーキをどこかに捨ててきたのか?


 ジュッ、と肉が焦げ付く匂いを漂わせながら。

 いつものように、ただ真っ直ぐに、一直線に、そのままに。アリスが俺に全力の一撃を叩き込む。


 無駄だよ、アリス。無駄なんだ。俺には絶対無敵の文字が無限に溢れかえっているんだよ。


「空間魔法 世界停止ワールドストップ


 いとも簡単に。朝の散歩に出かけるように。世界の全てを支配する。


 禁魔法ですら軽々と凌駕して。

 俺以外の全てが固まった。


「タクミっ!」

『タッくんっ!』


 ?????


 どうして止まった時の中で声が聞こえる?

 それも二重に重なって。


 そうか、それでもお前は止まらないのか。

 アリスの中に、この世界の時間軸とは別の存在が共存している。

 だったら、それごと叩き潰してしまおうか。


戴天たいてん震王跋扈しんおうばっこ国喰くにぐい巨神きょしん


 二つ目の神を降ろす。

 俺が文字を組み合わせたオリジナルの神。

 国をそのまま丸呑みにしてしまうような巨大な神をイメージして、その身に降ろさず、そのまま身体の一部を具現化する。


 どんんんっっっ!!! と、山より巨大な大足が、アリスの頭上から現れて、情け容赦なく踏み潰す。


「ふーーーっ!!」


 それでもかっ! それでもお前は止まらないのかっ!?


巨神(デカゴッド)地団駄ジダンダっ!!」


 巨足による連続スタンピング。

 アリスを潰す前に、ボルト山がその形を変えて崩れていく。


 だんっ、と、それでもアリスは、強い一歩を踏み込んだ。


「なんなんだよ」


 無敵最強無敵最強無敵最強無敵最強、むてき、さいきょう、むてきっ、さいきょうっ、俺がっ、俺が誰よりも一番強いんだっ!!


「ぐがぁーーーーっ!!」


 踏ん張っていたアリスが全力で開花する。

 ぼんっ、と戴天震王跋扈国喰巨神の足が爆発するように弾け飛んだ。

 豪雨のような血飛沫を受けながら、アリスは拳を握り締める。


 いいだろう。もう小細工など必要ない。

 天照大御神を帰して、同じように拳を握り締める。

 アリスから奪った宇宙最強の力を、己の拳に全て溜め込んだ。


 確信する。

 過去現在未来において。

 この一撃を超える者は、何があっても絶対に存在しない。


 これで俺は誰の力も借りずに、大切な物を自分一人で守っていける。


「あれ?」


 今までになく静かに放たれた拳は、全てを置き去りにしたまま、アリスを倒したという結果だけを残して終わる。


「大切な物ってなんだっけ?」


 何もかも、望む物を手に入れられたはずなのに。


 それが何か思い出すことはできなかった。


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