閑話 カルナとタクミ
「な、なんでござるか、タクみんっ!! そのバンダナはっ!?」
「ああ、うん、ちょっとイメチェンしてみたんだ。おかしいかな?」
「お、おかしくなんかないでござるっ! 最近のタクみんは、なんというか、お顔も引き締まってきて、すごくカッコいいでござるよっ!!」
はぁー、何いうてるんや、この新入りは。タッくんの魅力はそんなんちゃうねん。
『タッくんは呑気な顔してるほうがかわいいねん。そんなすました顔してても似合わへんで』
「え、そ、そうかな? 俺、カッコよい?」
「カッコよすぎるでござるっ! まるでダークヒーローみたいに時折見せる影のある表情が、た、たまらないでござるよっ!」
あ、あれ? うち無視された? タッくん、聞こえへんフリしてる?
『ちょっとタッくんっ! 無視せんといてっ! カッコいいって言われて浮かれてるんっ!?』
「ああ、おかえり、デウス博士。どうだった? ボルト山、元に戻りそう?」
『タ、タッくん……?』
む、無視やない。うちの声、タッくんに聞こえてへん。
ずっとずっと話しかけてんのに、タッくんの反応があらへん。
『タッくんっ!!!』
出来る限りの声を張り上げる。
誰にも聞こえへんかった、うちの声。
いつもタッくんだけは聞いてくれとった、うちの声。
それが聞こえへんことに、心が張り裂けそうになる。
いつからや? おでこに文字が書かれた辺りから?
あの時から、うちの声が聞こえへんようになったん?
「逃すと思うか? バラバラに切り刻んでひき肉にしてやる」
「タ、タクみん? ほ、本当にタクみんでござるか?」
『違うっ! タッくんはっ! ほんまのタッくんはこんなんとちゃうねんっ!!』
どうしよ、あかん。タッくんがどんどん変わっていくっ!
「タ、タクみん、やめてあげてほしいでござるっ、すごく邪悪な顔をしているでござ…… ひぃっ!!」
『なんやねんっ、そのわっるい顔はっ! うちは、うちはタッくんをそんな子に育てた覚えはないでっ!!』
帰ってきてっ! 早くホンマのタッくん、帰ってきてっ!!
「もう助けはいらない、アリス 」
「ちがうよ、タクミ」
『ちがうで、タッくんっ』
アリスと一緒に大きく叫ぶ。
「ワタシがタクミを助けるんだ」
『早く助けてあげてっ!!』
アリスがタッくんをやっつけてくれたら、タッくんは元に戻るかもしれへん。
それやのにっ、それやのにっ!!
『やめてっ!! タッくんっ!!』
最愛の仲間を。
アリスのお腹をタッくんが貫こうとしてるっ!?
『な、なんでそんなことするんっ!? タッくんはっ、うちのタッくんは、絶対そんなことせえへんでっ!!』
元に戻ったらタッくんはきっと後悔するっ! そんなこと絶対うちが止めなあかんっ!!
『邪龍暗黒大炎弾っ!!』
タッくんの側で、何度も使ってきた必殺技を、初めてタッくんに向けて解き放つ。だけど……
『あ、あれっ!?』
出てこおへん。力がまったく解放されへん。
なんやこれ? まさか、うちの力、全部タッくんに吸われてしもたん?
おかしいとおもっとった。
力が無かったタッくんは、うちを持っててもなんの影響もなかったけど、今のタッくんは信じられへんくらいの力を持ってる。
ほんまやったら、うちがそれを吸収していくはずやのに、全く吸収できへんかった。
『……まさかタッくん、逆にうちの力奪ってたん?』
当然のように、答えはない。
無言のまま、タッくんは、アリスのお腹を貫く。
『や、やめてぇええっっっ!!』
びしゃあっ、と返り血が注ぐ中、いつも聞いてたはずの声は、まったく違う別人のようやった。
「まさか、愛なんて」
ちがう。タッくんはそんな冷たい声でしゃべらへん。
「そんなわけのわからない力に、ここまで追い詰められるとは思わなかったよ、アリス」
ちがう。ちがう。ちがう。ちがうっ!!
『うちのタッくんはっ、うちのタッくんはっ、自分よりも仲間のことを思ってるんやっ!!』
アリスが、どしゃっ、と地面に崩れ落ちる中、残っている力を振り絞る。
「タクミっ!!」
「タクみんっ!!」
魔王少女とロッカが、タッくんに向かっていく。
「目障りだ、羽虫はむしが」
「タクっ……!?」
タッくんが、簡単にロッカと魔王少女をバラバラに粉砕する。
『そんなんしたらあかんいうてるやんかっ!!』
止める。うちがタッくんを止めてっ、元の優しいタッくんに戻すんやっ!
その為ならもう、うちは、いなくなってもかまわへんっ!!
ぴくっ、と。
ほんの少しだけタッくんの身体が揺れ動く。
搾りかすのような力を全部出し切って、倒れているアリスに注ぐ。
魔剣ソウルイーターに、ぴしっ、とヒビが入る。
それでも構わずに力を絞り出す。
ゆっくりとアリスが起き上がり、ロッカとタッくんの間に立ちはだかった。
「参る」
『お、おい、聞いとるんか? 逃げろ言うてるねんっ。なんで近づいていくねんっ』
絶対絶滅のピンチで、なんの力もないタッくんがゴブリン王に向かっていく。※
なんやコレ? タッくんと出会った頃の?
「ここで見捨てて逃げたら、生きててもしょうがないだろ」
『……ぽっ』
え? これ走馬灯ってやつ? もしかして、うち、ほんまに死んでしまうん?
『はっ! いや、なんや、今のぽっ!? ちゃうで、そういうのとは、まったくちがうでっ。ああもう、しゃーない、特別サービスやっ、あと一回だけ助けたるわっ』
ああ、そうや、この時から決めてたんや。
『ほんま、甘いな。そんなんやと生きていかれへんで。……しゃーないから、ちょっとうちが守ってやってもいいで』
「ん? なんか言ったか魔剣さん?」
『な、なんもいうてへんわっ』
うちがタッくんを守ったる。
声なんか聞こえんでいい。
誰にも気づかれんでいい。
タッくんが困ったような顔で笑う。
そんな景色が戻るなら、そこにもう、うちはおらんでもいい。
『タッくん』
いつか、またその声が届くように。
いつもみたいに名前を呼んだ。
※ こちらのエピソードは第一部 二章 十五話「ゴブリン王の物語」に載っています。よろしければ、ご覧になって見て下さい。




