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二百六十話 背中

漫画版3巻絶賛発売中です。発売記念として、第二部の後半と閑話を全面改稿しています。今回は第二部三章「五十五話 封印された記憶」の後に「閑話 タクミとリンデン」を載せましたので、ご覧になって頂けると嬉しいです。

 

「タ、タクみんがいないでござるっ」


 文字人間と入れ替わった瞬間に、タクみんの気配は消えていた。

 飛び散った文字人間の文字が、バラバラと地面に落ちる中に、逃走する影のような残像が残っている。


「アリス様っ、タクみんがっ! 追わなくてもいいのでござるかっ!?」

「無理だ。ワタシの視線を遮断した。場所を把握できない。あとタクみん、言うな」


 さりげに殺気を込めながら、タクみん呼びを禁止してきた。やめないでござるけどね。


「……逃げられたか。仕方ない、だがアリスの力なら、次こそは……」

「くっくっ、次だと? それは本気で言っているのですか?」


 魔王少女の言葉を文字人間がさえぎった。いや、もう文字がないから、ただの真っ白人間でござるが。


「彼はこれまで、一度も自ら文字を書き込んでこなかった。なんとなく、こんな力があればいいな、という願望が自動的に器に書き込まれていただけだった。それが今、初めて自分の意思で文字を刻んだんだ。それがどういうことかわからないのですか?」

「? 全然わからないでござるよ?」


 あ、あれ? なんか真っ白人間に馬鹿にされたような冷ややかな目で見られた気がするでござるよっ。お目々はないでござるけど。


「……ラスボスとしての自我が芽生え出したということか」

「さすが魔王。その恐ろしさを理解している」


 む、むう。拙者にはさっぱりわからないでござる。


「タクミは力なき状態でも超宇宙と呼ばれるまでの肩書きを背負っていた。ただの勘違いだけじゃない。どんな強大な敵にも臆することなく、人類最強や大賢者に挟まれても平常心を保っていられた。そんな中で生き抜いてきた男が自ら創造した力を存分にふるう。考えただけでも鳥肌が立つよ」

「そうですね。清々(すがすが)しいくらいの絶望です」


 でも拙者には、底が見えなかったタクみんより、たとえ絶大な力を持っていても、それを計ることができるタクみんのほうが攻略できると思ってしまうでござるよ。


「そんなタクミ君相手に、君たちは次も勝てる、と?」


 黒いカラスが魔王少女の肩に降りてきて、カァ、と鳴く。

 あれも魔法で作られているでござるな。

 辺りにある魔力を集めて、魔王少女に魔力を配給しているのでござる。

 魔力が溜まった魔法少女の目が血のように紅く染まる。


「勝つよ。今までタクミはどんな絶望的状況も跳ね除けてきた。余の魔王崩壊サタンバーストですら、何事もなかったように受け止めたのだ。今度は我々がその借りを返す番だ」

「同意でござるよ。拙者たちがおかしくなったタクみんを元に戻してあげるでござる。さあ、アリス様、タクみんを追って……あれ?」


 な、なんでござるか?

 アリス様のお腹から手が伸びているでござるよ?

 い、いや、違うでござるっ!

 誰かの腕が、アリス様のお腹を突き破って貫いているでござるよっ!!


「まさか、愛なんて」


 その声はいつも聞いていた声なのに、まったく別人のように聞こえてきた。


「そんなわけのわからない力に、ここまで追い詰められるとは思わなかったよ、アリス」


 貫いた腕が抜かれると、アリス様が力なく、どしゃっ、と地面に崩れ落ちる。


 いつのまにか、文字人間の姿はなくなっていた。

 逃げていたはずのタクみんと、再び入れ替わったのでござるかっ!!


「タクミっ!!」

「タクみんっ!!」


 魔王少女と共に、交差するように螺旋を描きながら、タクみんに向かって突撃する。


 もうわかっているでござるよ。

 アリス様がやられた今、拙者たちだけではどうにもならないことを。

 そして、こんな時、いつも側にいて、絶対に助けてくれていた人がいないことを。

 それでも、前に進むしか、ないのでござるよっ!


「目障りだ、羽虫はむしが」

「タクっ……!?」


 片手で払うような動作をしただけで、拙者と魔王少女の身体がバラバラに砕け散り、全ての魔力が吸い取られていく。


 違うでござる。こんなの絶対に拙者のタクみんではないでござるっ! タクみんはっ、タクみんはっ!!


「……みんっ!!」

「だからタクみん、て言うな」


 お腹を突き抜かれて、倒れたアリス様が拙者とタクみんの間に、立ち塞がる。


「参る」


 満身創痍の中、拙者たちを守るその背中は、いつも見ていたあの背中と当たり前のように重なった。




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