二百五十九話 愛と憧れ
アリスの拳が、俺の胸に深く深く突き刺さる。
身体がバラバラになってしまいそうな衝撃。
だが、今の俺なら、どんなダメージも一瞬で回復できる。
「再生」
「無理だよ、タクミ」
え? なんだ? 衝撃がおさまらない。
それどころか、それはさらに広がっていく。
「ワタシの想いはそんなに軽くない」
ガンガンガンガンガンっ!! と衝撃が身体中をピンボールのように跳ね回る。
なぜ回復しないっ!?
「なんだっ、これは一体なんなんだっ!?」
呼吸することもままならない。こんな苦しい痛みは、これまでの人生で一度も感じたことはない。
「わからないのでござるか? タクみん」
その問いに答えたのは、アリスではなく、隣で悲しそうな顔をしているロッカだった。
「それが愛でござるよ」
「ふざっ」
ふざけるな、という言葉も痛みで絞り出せない。
苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい、狂おしいっ。
「アリズっ!!」
吐き出すように叫んだ名前は、ちゃんと発音できていないみっともないものだった。
目の前のものを全部破壊すれば、この苦しみから解放されるのかっ!?
「違うよ」
答えたのはまたアリスじゃなかった。
旋回する漆黒のカラスの下で、魔王少女がしらけた顔で言い放つ。
「全部壊したら、もっと苦しくなる」
うるさいうるさいうるさいうるさいっ、俺は最強なんだっ! 宇宙最強なんだっ! 誰も俺を止められないんだっ!!
「ヴルヴィィィィィィィィッ!!」
身体だけでなく、頭の中まで衝撃に犯される。
自分の喉の奥から発した声が人間のものとは違っていた。
それでも、壊れた拳をアリスに向かって解き放つ。
「まるで幼い頃のワタシみたい。本当のタクミは、こんなもんじゃない」
よけるわけでもなく。
受け止めるわけでもなく。
アリスは両手で、そっ、と俺の拳を包み込む。
「そんな力に負けないで」
ぐるん、と地面が反転した。
アリスじゃない。
自らの力を制御できず、勢い余って、勝手にすっ転んだ。
俺は自分の力を持て余しているのかっ!?
くそ、くそ、くそ、くそっ、俺の方が強いのにっ!! もう誰にも負けないのにっ!! うまく力を使いこなせないっ!!
仕方ない。圧倒的な力でねじ伏せるのは次にしてやる。認めてやるよ。近接格闘においてはアリスのほうが一枚上手だと。だが、これならどうだ。
「ロッカっ!!」
「はっ、拙者のオデコがっ!!」
俺が刻印したロッカの穴が三度開く。
【果てしなく広がる緑の大地。彼の地にて、我は誓わん。緑と共に未来永劫、穏やかに眠らんことを……】
「緑一色っ!?」
さすがロッカと同じ禁魔法の少女。
わかったところで緑一色は止められないがな。
【リャンソー、サンソー、スーソー、イーペーコー、ローソー、パーソー……】
「やめるでござるよ」
「へ?」
ロッカが、自分で自分のオデコを、ごんんっっ、と殴りつけた。
開いていた穴が塞がり、緑一色の詠唱が中断され、ボルト山の岩山は静まりかえる。
「バカなっ! 詠唱中は、ロッカの意識はなくなるはずだっ!!」
「タクみんのことを想って絶対眠らなかったでござるよ。タクみん、人を植物に変えたらダメでござる」
ぐ、ぐう正論。そうだ、今までは俺が望んでないのに勝手に作動して困ってたんだ。
なぜ、今、俺は自ら緑一色を発動させようとしていたんだ?
「いま、助けるよ、タクミ」
アリスが再び拳を構える。
ちょっと待て。さらに衝撃が来たら、さすがの俺も正気でいられない。
「やめろ、アリスっ! 俺はこのままでいいんだっ!!」
知らないフリをしていた。
あきらめて見えないフリをしていた。
人類最強や大賢者に守られて、俺はずっと何もしてこなかった。
だけど本当は憧れていた。
ずっとずっとずっと、憧れていたんだ。
勘違いではない宇宙一の最強の男。
俺はようやく、そんな男になれたんだ。
両手を広げて、辺り一面に様々な色のドアを出現させる。
ここは一旦、撤退して……
バンバンバンバンバンバンバンッ!! と現れたドアが全部、爆発して粉々に砕け散った。
「おかえし」
再び、ドアの破片が降り注ぐ中、魔王少女が不敵に笑う。
「きさっ……」
「推して参る」
アリスが踏み込んで、構えていた拳を解き放つ。
間に合わないっ。
アリスの拳をかわすことができないっ。
その拳はまるで最初から俺の胸の中にあったように、吸い込まれるように、そこに到達する。
ぼんっ、と全ての文字が一つ残らず吹っ飛んだ。
大量の文字がバラバラに砕け、辺り一面に散らばっていく。
全部終わったと思ったか?
ほんの少し。コンマゼロイチにも満たないわずかな一瞬。
アリスは、本当の俺を見失った。
「タクみんじゃないっ!!」
一番最初に気がついたのはロッカだった。
「これはっ!? 文字人間っ!!」
魔王少女が倒して放置していた文字人間と入れ替わっていた。ぶっ飛んだ文字は全部コイツのものだ。
『望んだ相手と入れ替わる』
新しく書かれた文字が器の中に刻まれた。
お待たせしました!
『うちの弟子』漫画版3巻が、ついに3月7日に秋田書店様の少年チャンピオンコミックスから発売しました!
皆様、どうぞ、よろしくお願い致します。
2巻に引き続き、小説版にはない面白さがますます加速しています!
大武会後の新しい物語が始まります!
漫画版で躍動するタクミたちをぜひご覧になって見てください!
どうか、よろしくお願い致します!
1巻、2巻もよろしければ、ぜひご一緒に!
WEBマンガサイト「チャンピオンクロス」様でうちの弟子、漫画版最新話、掲載中!
第二部始まりました!
超絶に面白いので、みんな見てねー!
次回公開は5月28日火曜日予定です!
漫画版はなんと、あの内々けやき様に描いていただきました。
かなり素敵で面白い漫画になってますので、ぜひぜひ、ご覧になってみてください!!
第7回ネット小説大賞受賞作「うちの弟子がいつのまにか人類最強になっていて、なんの才能もない師匠の俺が、それを超える宇宙最強に誤認定されている件について」
コミカライズ連載がマンガクロス(https://mangacross.jp/)にて3/30(火)よりスタート!!
WEB版で興味を持って頂いた方、よかったら漫画版もご覧になってみて下さい!
またWEB版と書籍版もだいぶ変わっています!
一巻は追加エピソード裏章を多数追加。
タクミ視点では書き切れなかったお話を裏章として、五話ほど追加しており、レイアやアリス、ヌルハチやカルナの前日譚など書き下ろし満載でございます。
二巻は全編がかなり変更されており、さらに裏章も追加されてます!
WEB版では活躍が少なかったマキナや、出番のなかった古代龍の活躍が増えたり、タクミとリンデンの幼い頃のお話や、本編でいつもカットされているレイアの活躍が書かれています。
書籍版も是非、よろしくお願い致します!
⬇︎下の方にある書報から二巻の購入も出来ます。⬇︎
これから応援してみよう、という優しいお方、下のほうにあるブックマークと「☆☆☆☆☆」での応援よろしくお願いします!
すでにされている方、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.
茄子炒め 様から素敵なレビューを頂きました。
いつも応援ありがとうございます!
言葉にならないほど感謝しています!
感想も、どしどしお待ちしています!