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二百五十八話 底の底

 

『一度失った文字は、同じものを二度と書けない』


 お腹に書かれた、その文字を肉を切り裂きながらえぐりとる。


「ふざけてるっ! 呪印は一度書いたら消せないって言ったよね?」


 魔王少女が、自らに問いかけるように口を開く。


「世界のことわりを跳ね除けた。これはあまりにも予定外だ。一旦ひくぞ、アオイ。攻略方法がなくなった」


 会話はしているが、1人しかいない。

 中にいるらしき魔王と、外側の憑代よりしろである少女が話しているのか。


「逃すと思うか? バラバラに切り刻んでひき肉にしてやる」

「タ、タクみん? ほ、本当にタクみんでござるか?」


 ロッカが驚くのも無理はない。

 自分でも今までに感じたことがないような破壊衝動が身体の中から湧き出てくる。


の力の影響か。わかるよ、目の前の物を全部、壊したくて仕方ないんだろう? あの時、余を救ってくれたように、オマエを救えなくて残念に思うよ」


 魔王少女が両手を広げると、辺り一面に様々な色のドアが現れた。

 これは? 俺が作り出したピンクのドアと同じようなものか。


「またやってくる。必ずオマエを止めてみせるよ。それが余の、魔王としての……」

「黙れ」


 耳障りな雑音を排除する。そう思っただけで、爆音が支配した。


 バンバンバンバンバンバンバンッ!! と現れたドアが全部、爆発して粉々に砕け散る。

 色とりどりのドアの破片が、奇怪な雪のように、岩山に降り注ぐ。


「……大ピンチだな、逃げられないよ、魔王」

「容赦なしか。すまんな、アオイ。思っていたより進行が早かった」


 あきらめたように天を見上げたのは、少女なのか、魔王なのか。俺にとってはどちらでもよい。

 追い詰められた魔王少女を見て、畑作業を終えて風呂に入った後のような爽快な気分に包まれる。


「タ、タクみん、やめてあげてほしいでござるっ、すごく邪悪な顔をしているでござ…… ひぃっ!!」


 邪魔すれば、オマエも消すぞ。そう思ってロッカを睨んだら固まって動かなくなった。

 これで、存分に少女をなぶり殺せる。


「最悪、だからあの人を待とうって言ったじゃない」


 誰が来ようが同じことだ。俺は誰にも止められない。

 俺がこの世界で、いやこの宇宙で最強なんだ。


 拳に力を込めると、この宇宙にある全てが俺の中に集まってくるのがわかる。


 ああ、どうしようか。

 きっと一撃で全部壊してしまう。

 もっともっと、この力を使いたいのに。


「ああ、残念だ。まだまだ遊び足りない」

「きっも」


 さらに怒りが込み上げてくる。

 ああ、無理だ。

 もう我慢できない。

 一撃で。いや、同時に百撃くらい叩き込んでやる。


「っ!?」


 振り上げた拳がそのまま止まった。


 俺と魔王少女の間に、ドンっ、と、それは舞い降りた。

 大武会の時と、魔王崩壊の時と、同じだった。

 いつも予想外の時に、いきなり現れる。


「ふぅ」


 長い金髪が風に揺れ、大粒の汗が飛び散って大気と混ざる。

 心音が、ドクン、と跳ね上がった。


「ギリギリ間に合った」


 ああ、そうだった。

 この力を持った時から、ずっと帰りを待ってたんだ。

 どうして、俺はこんな力を持ってしまったのか。

 どうすれば、この力を制御できるのか。

 最初はそんなことを考えていた気がする。でも、今は……


「もう助けはいらない、アリス 」

「ちがうよ、タクミ」


 アリスが俺と同じように、拳に力を込める。


「ワタシがタクミを助けるんだ」


 俺を助ける?

 最弱だった俺は、いつも強い仲間に守られていた。

 でも今は違う。

 俺はもう1人でなんでもできる。

 世界の危機も救ってやるし、どんなラスボスも、全部、俺が倒してやる。


「俺が宇宙最強なんだ」

「参る」


 魔王少女に放つはずだった拳をアリスめがけて振り下ろす。

 アリスはこんな時でも、いつもと同じように。

 ただ真っ直ぐに、一直線に、そのままに。全力の一撃を叩き込む。


 宇宙最強の力。

 ああ、懐かしいな。

 それはかつて俺の中にあって、狭間の世界でアリスにあげたものだ。※1


「返してもらうぞ、アリス」

「前から返すと言っていた」※2


 がんんっっっ、と、俺の拳とアリスの拳が真正面からぶつかる。


 膨大な力が流れてくる。

 かつて『彼女』をも圧倒し、世界を救った宇宙最強の力が、俺の元へと帰ってくる。


 最強だ。最強の中の最強だ。未来永劫、俺を倒す者など存在しない。俺は真の宇宙最強へと到達した。


「さよならアリス」


 ピシッと、ヒビ割れたような音がした。

 アリスの拳が砕け、崩壊していく。

 そう確信して笑みを浮かべた。だが。


「なんだ? これは?」


 砕けたのは自らの拳。

 宇宙最強であるはずの、無敵の俺の拳が、力を無くしたはずのアリスの拳に砕かれたのかっ!?


「前のタクミには勝てる気がしなかった」


 魔王少女も同じようなことを言っていた。どういうことだ? 全く意味がわからない。


「でも今のタクミには負ける気がしない」


 器の奥の底の底。

 そこまで届くようなアリスの一撃が、俺の胸に深く深く突き刺さった。



※1 タクミがアリスに宇宙最強の力を渡すお話は、第六部 終章 「二百七話 1005」に載ってます。よろしければご覧になってみて下さい。


※2 アリスがタクミに宇宙最強の力を返そうとするお話は、第六部 終章「二百九話 エンドロール」に載ってます。よろしければご覧になってみて下さい。


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