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二百五十七話 愚か者

 

 魔王の憑代よりしろと思える少女は動かない。

 ただ、その上空で不気味なカラスがカァカァと鳴いている。


「…… 俺の力は?」


 もう一度同じ言葉を繰り返す。

『彼女』ですら、受け止めることができなかった俺の力が、まるで最初からなかったように消えている。


「わかっているのだろう?」


 ああ、そうだ。

 魔王崩壊サタンバーストの時と全く同じ。※

 ただ違うのは力を放った側と受け止める側が逆転していることだ。


「吸収したのか? 魔王崩壊サタンバーストと同じ、世界を滅ぼすほどの力を」


 無表情のまま、少女の口元が微かにゆがむ。

 魔王なのか。それとも憑代になってる少女の意志なのか。

 どちらにせよ、少女には相応しくない笑みが不気味さを更に引き立てた。


「何者なんだ、その憑代よりしろは?」


 疑問に思ったことは、すぐに回答として頭の中にながれてくる。


「人間じゃないっ!? まさかっ、その憑代は、ロッカと同じ、禁魔法かっ!!」


 ギャアギャアと、上空のカラスが、さらにけたたましく鳴き叫ぶ。

 ロッカを、さらに俺の力を吸収した少女から、魔力が蒸気のように溢れ出ていた。


「人間だよ。オマエもロッカを魔法ではなく、人として接してきたじゃないか」

「一緒にしないでくれ。そいつはただの空っぽの器じゃないか」


 感情の起伏も、人としての意思も感じない。

 そこにいる少女は、魔王の力を受け止めるためだけに作られた、ただの人形にしかみえなかった。


「悪いけど、ぶっ壊すよ。取り込んだロッカも返してもらう」

「言うようになったじゃないか。でも余はひ弱でいつもビクビクしている昔のオマエが好きだったよ」


 そんな自分は、もう随分と昔のことで、ずっと俺は強かったんじゃないか、と勘違いしてしまう。


「いくよ、今度は受け止められないように、直接叩き込む」


 来い、というジェスチャーか。

 岩山に腰掛けて足を組んでいた少女が、とん、と地面に降り立った。


「さて、いこうか、アオイ」


 少女が自らに語りかける。

 それは憑代の、禁魔法の少女の名前なのか?

 魔王は完全に少女を支配せず、意識を残したままの少女と共に戦っているのか? 


「まあ、どっちでも構わない」


 どんっ、とかかとに軽く力を込めて、少女の方に加速する。

 まるで、それが開始の合図とわかっているかのように、ギャー、とカラスがけたたましく叫んだ。


 少女は、魔王は、引くこともなく、真っ直ぐに、同じように突進してくる。

 拳と拳が。力と力が。

 真っ正面から激突し、弾けた衝撃波が周りの岩山を削りながら掻き消していく。


 互角っ!? 総魔力は同じくらいかっ! なら、コイツが吸収したロッカを奪い返せばっ!!


 一度見た相手の能力は真似することができる。

 ぶつかり合っていた拳を広げ、少女の拳を握り込む。


「返してもらうぞ、ロッカを」


 少女がロッカを吸収したように、俺もロッカを吸い込もうとしたが……


「返さない。いや、元々コイツの魔力は余の魔力だ」


 少女の中にいるロッカを、ハイパーな掃除機で吸うイメージ。


『ん? なんでござるか?』


 聞こえた。少女の中にいるロッカの存在をつかまえた。

 そのまま、強引に引っ張り出そうとするが……


「行かせない」


 少女もロッカを奪われないように魔力をからめて縛り上げる。


『な、なんでござるかっ!? い、いたたたたたっ、いたいいたいいたいいたいでござるーーっ!! 誰でござるかっ!? 首と足を掴んでいるのはっ!!」


 ロッカが騒いでいるが無視しておく。

 万が一、首が千切れても、あとで復活させてやる。

 今はただ、この少女からロッカを取り返す。


「ははっ、何が人間だ。キサマ、完全にロッカをモノとして扱っておるぞっ!」

「うるさい、返せっ、それは俺んだ」

『いたたたたたたっ、で、でもなんか嬉しい言葉が聞こえたでござるよっ!!』


 出力最大。

 少女の腕を引きちぎり、中からロッカを吸い出していく。


「容赦なしかっ! 力を手に入れて溺れたかっ! 愚か者めっ!」

「魔王に言われたくない。もうあきらめろ」


 たいしたことない。魔力の総量が同じでも、一点に集中していない。使い方は、まだまだど素人だ。


「ふんっ」


 ちぎれた少女の腕の断面から、ロッカの頭が顔を出す。


「むきゅう」


 引っ張られすぎたロッカは気を失っていたが、どうやらどこも傷ついてないようだ。


 よし、これで総魔力は俺が上回ったはず。後は魔王の少女を懲らしめて……


「おかえし」

「へ?」


 それは完全なる油断だった。いつのまにか、残ったほうの少女の手が、俺のお腹に置かれている。


 ギュン、と身体の奥底から何かが奪われた感覚。

 魔力? いや違う、これはっ!?


 俺の腹にそえられた少女の手のヒラに、黒い何かが渦のようになって吸い込まれていく。


「これは文字っ!? 俺の文字を吸い出しているのかっ!? 俺の中からっ!? どこにそんな文字があったんだっ!?」


 俺の身体にはオデコの文字しか書かれてない。

 だったらこの大量の文字は、俺の内側に存在していたのかっ!?


「かえせっ」

「もうオマエには無理だ」

「あ、あれれ?」


 今まで思っただけで発動していた力が反応しない。

 お腹に置かれた少女の手が離れると、そこに何かが書かれている。


 俺が文字人間に書いたように。

 少女はいつのまにか、俺のお腹に文字を書き込んでいた。


『一度失った文字は、同じものを二度と書けない』


「前のオマエのほうが、よっぽど強かったよ」


 最弱だった頃の俺が?

 冗談じゃないっ! 俺は最強の力を手に入れたんだっ!!


 文字が書かれたお腹に指を引っ掛ける。

 呪いのようなものがかかっているのか、指先が痺れ、ボロボロと崩れるように無くなっていく。


 それでも強引に、ねじり込んだ指が、肉を切り裂きながらお腹の文字をえぐりとった。



魔王崩壊サタンバーストのエピソードは、第二部 五章「六十五話 魔王崩壊」に載っています。よければご覧になってみてください。



 


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