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二百五十五話 文字人間と棒人間

漫画版3巻絶賛発売中です。発売記念として、第二部の後半と閑話を全面改稿しています。第二部二章「五十話 遅れてきた大賢者と黒幕の正体」の後に「閑話 ヨルとレイア」を載せましたので、ご覧になって頂けると嬉しいです。



 なにもない。

 ほんの少し、ちょっとだけ力を解放しただけなのに。

 その場にあるもの全部が消滅した。


 周りにいたはずの誰もいない。

 ロッカもレイアもカルナも、『彼女』もアザトースもスーさんも、全部全部なくなってしまった。


 そして自らの肉体すらも。


「大丈夫。全部再生(リバース)できるよ」


 お前はっ!?


 叫ぼうとしたが声が出ない。

 まだ俺の声帯は再生リバースしていないのか。


 すべてが消滅した空間に、全身に黒い文字がビッシリと書き込まれた文字人間が立っていた。※1


『第八部ラスボス』


 1番目立つように、おでこにそう書かれている。その他にも相変わらず文字は盛り沢山だ。


『暗黒空間より誕生した混沌の王』

『あらゆる攻撃を何十倍にもして弾き返す』

『世界に影があるかぎり何度でも蘇る』


 ああ、そうか、俺のこの異様な力は、お前のせいだったのか。


『超優しくて誰も傷つけない。誰よりも平和を望むナイスガイ』


 俺がおへその上にそう書いた後、文字人間は消えたので、この世界からいなくなったと思っていた。

 ラスボスであることをやめて、永遠の場所で静かに暮らしているものだと、勝手に勘違いしていた。


「お前は消えたんじゃなくて、ずっと俺の中にいたのか?」


 声帯が再生され、声になる。

 まだ身体は完全には戻らず、不安定な棒人間みたいになっていた。


「え? ちがうよ」

「え? ちがうの?」


 文字人間がコクリと頷く。

 棒人間の俺と向かい合う光景は、やけにシュールで現実味がない。


「君の力は君の力だ。ボクはキッカケを与えたに過ぎない」

「キッカケ?」

「君は自分が思っているよりもすごい人間なんだよ。どうして第六禁魔法が人間の姿で、この世界に留まっていられるのか、考えたことがあるかい?」


 ロッカが? 

 確か、第六禁魔法は膨大な魔力を消費するとサシャが言っていたな。

 ロッカは一度、魔力がなくなって消滅しかかっている。

 あの時は、どこからか謎の魔力が送られてきて助かったけど、未だにずっと魔力が配給されてるのだろうか?


 すっ、と文字人間が俺のほうを指差す。


「君だよ。第六禁魔法は君から漏れる魔力で存在している。君の中には世界を滅ぼすほどの膨大な魔力が入っているんだ。身に覚えはないかい?」

「あっ」


 魔王崩壊サタンバーストかっ!?

 あの時の魔力の濁流だくりゅうは、勝手に消えたんじゃなくて、やっぱり俺の中に入っていたのかっ!!※2


「この力は魔王の、あの時の魔力からくるものなのか?」

「それだけじゃないよ。それもただの、ほんの一部に過ぎない。まだ気づかないのかい? 君の真の力は……」


 文字人間の言葉がそこで止まった。

 俺が書いたヘソの上の『ナイスガイ』の文字に触れながら、くいっ、と首をあげて宙を眺める。


「それはボクから言わないほうが良さそうだ。物語はまだ始まってもいないんだから」

「えっ? すっごい気になるんですけどっ!!」


 ごうっ、と文字人間の周りに、黒い渦が湧く。

 よく見ると、それは文字の塊で、『帰還、帰省、帰宅、帰国、帰郷、帰る、里帰り、還る、戻る、舞戻る、リターン、返還』の文字列がびっしりと書き込まれている。


「じゃあ、ボクは帰るよ、頑張ってね」

「ちょっとまってっ! まだ聞きたいことがっ!」


 爽やかに帰ろうとするナイスガイな文字人間を引き止めようとするが、文字の渦に邪魔されて触れることもできない。

 そのまま文字は、竜巻のように舞い上がり、ビュンっ、と文字人間ごと空の彼方へと消えていく。


「え、ええええぇ……」


 思考が追いつけず、俺はただただ立ち尽くす。

 すでに俺は棒人間ではなく、身体のほとんどが再生していた。


 まさか、と思いながらも自分のおでこを触って見る。

 これも今の俺の力なのか。

 そこに何が書かれているのか確信する。


「……怖くて見れないけど」


 パチパチと手のひらに小さな炎が集まってきた。

 消滅した、スーさんのかけら。

 ぐっ、と握ると、そこから小さな紅い小鳥が誕生する。


『え? なにこれ? タ、タクちゃん、一体何が起こったん?』

「うん、ごめん、スーさん、なんか全部、消しちゃった」

『ええっ!? ほんまやっ、なにもかもなくなってるやんっ! えっ? もしかして、ワレも消えてたん?』


 う、うん、ごめんね。

 アザトースが消した山をスーさんと2人で復活させたことを思い出す。※3

 まさか自分で復活させた山を、また自ら消すことになろうとは……


「でさぁ、ほんと度々で申し訳ないんだけどさぁ、もう一回一緒にボルト山復活させてくれないかな?」

『え、ええけど、復活させて消して復活させるて、サイコパスすぎへん? ほんでタクちゃん、なんでさっきから、ずっと、おでこ、押さえてるん? そこからなんか出てくるん?』

「いや、ただのおでこ隠したい症候群。気にしないで」


 後で、おでこ隠しバンダナを巻いておこう。


「じゃ、来てくれ、スーさん」

『ほな、いくで、タクちゃん、お手柔らかにな』


 スーさんに向けて手を伸ばし、ぎゅんっ、と手のひらから吸収する。

 同時に、俺の背中を突き破り、バッ、と絢爛豪華な紅い羽が飛び出した。

 あの頃とは比べ物にならないほどの立派な羽がバッサバッサと動く。


『な、なんやこれ、力が溢れてくるわ。羽も十二枚あるでっ』

「あの時は、熱くて我慢できなかったのにな」


 無くなった山に向けて手を伸ばすと、爆発的な熱量が、そこに流れてくる。

 しかし、その物理的な熱さにも、俺の身体は冷め切ったように反応しない。


『タ、タクちゃん、なんか復活した山、おかしない?』


 今までの穏やかなボルト山ではない。

 そこには、まさにラスボスが住むにふさわしい、漆黒の険しい岩山がそびえ立っていた。


 

※1 文字人間の登場回は、第七部 転章「二百四十三話 ナイスガイ」に載ってます。よければご覧になってみてください。


※2 魔王崩壊サタンバーストのエピソードは、第二部 五章「 六十五話 魔王崩壊」に載ってます。よければご覧になってみてください。


※3 アザトースが消したボルト山を復活させるエピソードは、第五部序章「百四十二話 あっつい想い(物理的に)」に載ってます。よければご覧になってみてください。



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