二百五十三話 フラグ回収
「レイア様、レイア様っ、大変でござるよっ! タクみんが浮気をっ! 女子を抱えて逃走したでござるっ! ……あれ? お客様でござるか?」
洞窟の前に、真っ黒いフードを被ったオッサンと淡い色のワンピースを着た長い黒髪の女が立っている。
「そのまま、動かないで、ロッカ。創造神と大精霊よ」
「っ!! タクみんのご両親でござるかっ!?」
突然の来訪者。まさか、タクみんは、拙者をご両親に紹介するつもりでっ!?
「何を考えてるか、だいたいわかるけど、ちがうわ、ロッカ。髪型を整えないで。臨戦体制に入りなさい。油断すると一瞬で、この世界から弾かれることになる」
「な、なんですとっ! 創造神と大精霊は、タクみんと和解したのではござらんのかっ!?」
スッ、と黒いオッサンが、自らフードを取り外し、その顔をあらわにした。
タクみんと同じ顔。それでも雰囲気はまったくの別人で、暗くドロドロした陰鬱な空気が漂ってくる。
「別に敵対しているわけじゃないんだ。今の匠弥の強さは異常だからね。私たちはそれを正しにきただけなんだよ」
これが創造神アザトースか。
広げた両手のひらから、闇が渦巻き出現する。
圧倒的、強者。触れたらそれだけで終わってしまいそうな圧力を感じるでござるよ。
「タクミさんが強いのは、今に始まったことではありません。今は少し強くなりすぎて力を抑えられないようですが、きっと自力で解決します。速やかにお帰り下さい」
さすが、レイア様でござる。創造神の迫力に一歩も引かないでござるよ。よし、ここは拙者もガツンと……
「世界が崩壊してからでは遅いのよ」
「ひぃっ」
な、な、な、なんなんで、ござるかっ。
創造神の横にいた大精霊。
ぱっ、と見たところ、のほほんとした普通の感じの女なのに、一言、発しただけで場の空気が一変したでござるっ!
これが、過去最大のラスボスと噂される、『彼女』でござるかっ!?
「今のタクミの力は、ワタシたちですら把握できないの。このままじゃ、何が起きるかわからないわ。そうなる前に全部リセットして元に戻す。邪魔をするなら、アナタたちも退場することになるけど」
いかがかしら?
最後の言葉は、話してもいないのに心の最奥に、楔のように打ち込まれる。
圧力の権化。
想像はしていたが、まさかこれほどまでの化け物だったとは。
「引かないわ。何もできなかったあの頃とは違う。今度こそ私はタクミさんの隣で、並んで戦ってみせる」
「せ、せ、せ、拙者もっ、拙者も全力で頑張りたい次第でござるよっ、はいっ」
ダ、ダメでござるよっ、カッコいいこと言おうとしたのに、拙者、緊張でめちゃくちゃになってしまったでござるっ!
「カット。ワタシの能力、不採用と似た力を手に入れたのね。力の痕跡を模倣したの?」
あ、あれ? もしかして拙者、完全にスルーされてるでござるか?
「世界の理に干渉しなければ、その位置まで届かない。悪魔の技だって盗ませてもらう」
「いいわ。少しは楽しめそうね。始めましょうか、新旧ラスボス対決を」
「参る」
いきなり、レイア様の刀が『彼女』の首を跳ね上げる。
それまでの過程を根こそぎカットしたのか。
戦いは初っ端からクライマックスだ。
「不採用」
跳ね飛んだ首がそうつぶやくと、戦いが始まる前に巻き戻り、再びレイア様と『彼女』が対峙する。
「つ、ついていけないでござるっ」
2人の戦いは次元が違う。
『彼女』はともかく、拙者、こんなレイア様にどうやって勝ったでござるか? 今やってもまったく勝てる気がしないでござるよ。
「少し、離れていようか」
「さ、賛成でござるよっ」
さすがタクみんの御父上。闇が深そうであるが紳士でござる。
「君は匠弥を随分と信用しているようだね。こんな状況でも楽観視しているように見える」
「それは当然でござるよ、御父上。拙者たちがピンチになったらタクみんはすぐにやって来るでござる。それにしても向こうではタクみんは匠弥と書くのでござるか。カッコいいでござるな」
「表記の違いがわかるのか。さすが第六魔法といったところか。こちらの住人より我々に近い」
ん? 表記? そういえば何でわかったのでござるか? 頭に勝手に文字が浮かんだでござるよ。
「でも、あまりはしゃがない方がいい。ここに匠弥は来ない。『彼女』が外部と遮断する壁を設置した。四神柱の結界とは比べ物にもならない完全なる絶縁結界だ。何者にも、たとえ絶大な力に覚生した匠弥ですら、入ってくることはできない」
うん、言ってることはなんとなくわかるでござるが、そういうの、拙者、タクみんが借りてたDVDで見ていたでござるよ。
「あまりフラグを立てないほうがいいでござるよ?」
「フ、フラグではないっ、いいか、絶縁結界というのは、私たち創造神と大精霊がっ」
「お、お邪魔します」
ガチャと、洞窟の前に突然、ピンク色のドアが現れて、そこから申し訳なさそうにタクみんが登場する。
「ご、ごめん、来ちゃった」
「来ちゃったのおぉっっっっ!?」
おもろい顔で度肝を抜かす御父上の顔は、やっぱりタクみんとそっくりでござった。