二百五十二話 個人情報流出
ダイナマイトが爆発して、辺り一面が吹っ飛ぶ中、俺はナギサを抱えて、タクミ村まで続く道を走っていた。
「え? なんで? 爆弾は? 巻きつけてたのに?」
「ああ、スイッチ押してから爆発するまで余裕あったから、その前に外して、離れたんだ」
ナギサがアホみたいに目を見開いて俺を凝視する。
やめて。化け物を見るような目で俺を見ないで。
「え? ええっ!? スイッチを押してから? 余裕があった? 普通に爆弾を外して? 永遠の距離の設定を無視して? 爆弾の衝撃が来る前に? 私を抱えて? 走って逃げた? ど、ど、ど、どうなってんのっ!?」
うん、俺もよくわかんない。
なんか助けなきゃって思ったら、時間が止まったみたいにゆっくりになって、あ、これ大丈夫だ、って感じで、やってみたら本当に大丈夫だった。
「ま、まあ、なんにせよ、無事でよかったよ。これサバゲーじゃなかったの?」
「ゲームじゃないわよっ! これはっ……」
何かを言いかけたナギサが、慌てて押し黙る。
どうやら俺の知らないところで、大変な事が起こっているらしい。
「ああっ、タクみーーんっ! いつのまにか、女子を抱っこしているでござるっ! 浮気でござるかっ!? 浮気でござるなっ!!」
ヤバい。ロッカが全速力で追いかけてきている。
ただでさえ、ややこしい事に巻き込まれてるなのに、ロッカの相手までしてられない。
「ごめん、ナギサ。ちょっと飛ばすよ」
「ええっ!? ちょっと待ってっ! 今でも十分すごいスピードでっ! い、いやぁああああっ! はやいぃいぃいいっ!!」
ロッカから離れようと、速度を上げたら一瞬でタクミ村を超えて、ルシア王国まで辿り着いてしまった。
「ここまで引き離せば大丈夫かな。あ、あれ? ナギサ大丈夫か?」
「はや、はや、はや、はや、……はやややややや」
事情を聞くには、目を回しているナギサの回復を待つしかなかった。
「何も話さないわよ、仲間は売らない」
回復したナギサは、黙秘を貫いている。
断固たる決意。決して口を割らない迫力が伝わってきた。
だけど、ごめんね。
「え? 『彼女』やアザトースがこっちに来てるのっ!?」
「え、ええ、どうして、それをっ!?」
ナギサが何も話さなくても、考えてることが全部、頭の中に流れてくるの。
「タクミ対策委員会? 俺を倒すための十豪会を開いたのっ!? うわっ、シロやクロまで来てるじゃないかっ!!」
「ま、まってまってまって、タッちんっ! 私の思考を読んでるのっ!? ウ、ウソでしょっ!! 個人情報の流出よっ!!」
「ご、ごめん、だけど勝手に流れてくるだもん。あれ? なんか別の情報も入ってくるぞ」
十豪会の情報よりも、もっと重要で深いところにあるのか、非常に小さな声で聞こえてきた。
……彼は別の世界の住人、好きになってはいけない、でも……
「えっ!? なにコレ? ナギサの好きな人のことっ!?」
「いやぁあああっ、やめてぇええっ、聞かないでぇえぇっ!!」
「ご、ごめん。でもこれ自動で入ってくるから、俺には止められなくて……」
「わかったっ! わかりましたっ! 全部話すっ! 全部話させて下さいっ! お願いしますっ!!」
いつも冷静沈着なナギサが半狂乱で泣き叫ぶ。
どうしてこんなことになったのだろうか。
どんどん騒ぎが大きくなっていく。
「ちょうどルシア王国までやってきたし、ギルド本部まで行ってみようかな」
『や、やめといたほうがええんちゃうかなぁ』
「大丈夫、大丈夫、ちょっと挨拶するだけだから。ちゃんと説明すれば誤解だって、みんな気づいてくれるはずだよ」
カルナの忠告を聞いておけば良かったと、後で死ぬほど後悔した。
「ダガンとナギサの襲撃は失敗。ダガンは逃亡、ナギサは人質として捉えられた模様です」
「くっ、超宇宙タクミめ。隠密行動や超長距離からの狙撃にも対応できるのかっ」
ギルド会本部の会長室で、ナナシンさんとバルバロイ会長が俺のことを話している。
どうやら一定範囲まで近づくと、俺に敵意のある会話は全部聞こえてくるようだ。
「で、ヤツはボルト山に帰ったのか?」
「ダガンからの通信によると、あまりにも早い高速移動のため、目標を補足できなかったようです。ですが、これまでの行動パターンからすると、洞窟に戻っている可能性が高いかと」
ご、ごめんね。今、そっちに向かって歩いてるよ。
「ふむ、では当初の予定通り、残りの十豪会メンバーを全員そちらに向かわせよ。総戦力を持ってタクミ討伐作戦を開始する」
「かしこまりました。それではこれよりタクミ討伐作戦を実行……」
「実行しないでっ!!」
ばーーん、会長室の扉を勢いよく開ける。
バルバロイ会長とナナシンさんが、俺を見て驚愕の表情のまま固まった。
「き、き、貴様っ、たった1人でギルド協会本部に乗り込んできおったのかっ!?」
「ちがうちがうちがう、なんか誤解してるみたいだから、平和的挨拶をしにきたんだよっ!」
「警備兵、警備兵、応答せよっ! ダメですっ! 全警備兵応答しませんっ!」
再び、俺のほうを凝視するバルバロイ会長とナナシンさん。
「い、いや、違うよ、何もしてないよ。警備の人たち、なんか俺を捕えようとしてくるから、邪魔だなぁ、って思ったら勝手にバタバタ倒れていったんだよ」
「わしを倒してもっ、ギルドはっ! 十豪会はなくならんぞっ、超宇宙タクミっ!!」
うん、倒そうなんて思ってないです。
てか、危ないから俺に敵意を向けないで。
「わしのっ、ギルド協会会長の意地を喰らうがいいっ! 暗黒吸収陣っ!!」
あ、あの暗黒魔法かっ!?
力がなかった時の俺には通用しなかったが、今の俺になら有効かもしれない。
もしかしたら、力を全部吸われて、元通りに戻れるのかもっ!!
床に書かれた魔法陣からぶわっと無数の黒い腕が伸びてきて、俺の足に纏わり付いた。瞬時にあの時を思い出す。
吸ってくれ! 今度は吸いとってくれっ! 全部っ!!
だけど、すべての腕は一瞬でパンパンに膨れ上がり、吸収しきれなかった力が一斉に破裂して大爆発を起こした。
「ご、ごめんなさい」
この日、ギルド協会本部が超宇宙タクミたった1人によって壊滅したという噂が世界中に広まった。




