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二十八話 バルバロイの策略

 

「それではこれより、大武会本戦トーナメント抽選を始めますっ!」


 闘技場の横で司会者らしき女性がマイクを持って叫ぶ。

 闘技場を囲む観戦者達から大歓声が巻き起こった。


 闘技場の前には、俺たち十五人の出場者が並んでいる。

 そこに一人だけ、アリスだけが姿を見せていない。


 背後には、巨大なトーナメント表のボードがあり、その横に、上部に穴が開いた鉄製の抽選箱が置かれてあった。


「あと一名、到着が遅れておりますので、その方に代わり、司会のわたくしが抽選させて頂きますっ!」


 本当にアリスはここへ来るのだろうか。

 そんなことを考えていると、隣に立っているバルバロイ会長が俺の顔を見てニヤリと笑う。

 取っておきの隠し玉が残っておる、去り際に言ったその言葉はやはり、アリスのことなのだろうか。


「それでは、まずはランキング(ゼロ)位 バルバロイ会長からどうぞっ」


 不気味な笑みを浮かべたままバルバロイ会長は、抽選箱の中に手を入れ、そこから「1B」と書かれた玉を取り出した。


「バルバロイ会長、第一試合B」


 トーナメント表の最初の枠、その右側にバルバロイの名前が書かれる。


「続いて、ランキング一位 タクミ様、どうぞっ」


 抽選箱の前まで歩き、中から玉を取り出した。


「た、タクミ様、第一試合Aっ!」


 観客席から、どっ、と大歓声が上がった。


「これは大波乱ですっ! 初戦からギルド会長とランキング一位の試合が決定しましたっ!」


 張り付いたような会長の笑みが、さらに釣り上がり満面の笑みになる。


『この抽選、なんかイカサマくさいな、タッくん』

「まあ、いいさ。誰が相手でも関係ない」


 この中に俺が勝てる相手など一人もいない。

 ギルド側が何を仕掛けてきてもどうでもいい事だ。

 俺の目的は優勝などではないのだから。



 そして抽選は着々と進み、トーナメント表のすべてが埋められた。



 第1試合

 宇宙最強 「タクミ」

 会長 「バルバロイ・サウザ」


 第2試合

 不死王 「ドグマ」

 空間使い「リンデン・リンドバーグ」


 第3試合

 超狩人 「ダガン」

 獣人王 「ミアキス」


 第4試合

 闇王 「アザトース」

 半機械 「マキナ」


 第5試合

 神降ろし 「レイア」

 隠密 「ヨル」


 第6試合

 沈黙の盾 「リック」

 勇者 「エンド」


 第7試合

 ブラックドラゴン 「クロエ」

 吸血王 「カミラ」


 第8試合

 ゴブリン王 「ジャスラック」

 人類最強 「アリス」



 俺とアリスの名前がトーナメント表の一番離れた位置に書かれた。

 あり得ないと思うが、もしアリスと戦うなら決勝まで勝ち上がらないといけない。



「それでは早速、一回戦第一試合を始めますっ! バルバロイ会長、タクミ様、闘技場へおあがり下さいっ!」


 怒涛のような歓声に耳が痛くなる。

 相変わらず、バルバロイ会長は笑みを崩さず、俺をじっ、と見ている。



 最も戦いたくない相手とヌルハチが言っていた老人。


 あらゆる手段を使って相手の不意をつく。

 自分を弱く見せ、油断させ、気配を殺し、罠を張り巡らせる。そう聞いていた。


 大武会での戦いが決まってから一カ月、きっとバルバロイ会長は、必勝となる罠を用意しているだろう。

 だが、それが俺に使われるのなら、むしろ好都合だ。

 そんなもの使わずとも、俺は簡単に負けるのだから、残った仲間達が逆に勝ちやすくなる。


「ふぉふぉふぉ、それでは始めようかのう」


 バルバロイ会長と闘技場の中心で対峙する。

 思えばこの老人が俺を魔王と勘違いして、やって来たことからすべてが始まったのだ。


「一つ聞いていいか?」


 確信はしている。

 これはあくまで確認だ。


「俺を魔王だと疑ったのは、あんたじゃないんだろう?」


 一瞬、ほんの一瞬だけ、バルバロイ会長の笑みが崩れたのを俺は見逃しはしなかった。

 やはり、そうか。確信がさらに固まる。


「わしに勝てば、答えてやるわ」

「いや、もういい、全部わかった」


 笑ったままバルバロイ会長の殺気が膨れ上がる。

 異様な空気の中、試合開始を知らせる銅鑼が鳴り響く。


「大武会、第一試合、始めっ!!」

「ウオォオォオオオッ!!」


 歓声と銅鑼の音が鳴り止まぬ中、バルバロイ会長はいきなり、その力を爆発させた。


 身体が何倍にも膨れ上がり、老人とは思えぬほどに、ムキムキのマッチョになったバルバロイ会長が、拳を握りしめ、振り上げる。


 確実に相手を倒せるその瞬間のみ、爆発的にパワーを上げて一撃で仕留める。それがバルバロイの戦い方だとヌルハチが言っていた。


 それが、今だということかっ。


『タッくんっ!』

「うん、無理。避けられない」


 足がすくんで動けなかった。

 後は頼んだ、信じてるぞ、四神柱。

 心の中で祈りを捧げる。


 どんっ、という轟音と共に吹っ飛ばされたと思った。

 だが、バルバロイ会長の拳は、俺に向かってではなく、自らの足元に突き刺さる。

 石の地面はヒビ割れ、手首までその拳は埋まっていた。


「封魔秘術式、暗黒(ダーク)吸収陣(ドレインサークル)っ!」


 バルバロイ会長の突き刺さった腕を中心に、闘技場に筆で書かれたような黒い魔法陣が広がっていく。


『暗黒魔法やないかっ!』


 魔剣カルナの叫びが頭に響く。

 カルナが使う必殺技と同じ系統かっ。


『ありえへんっ。この術式っ。用意なしで使えるもんやないでっ』


 やはり、事前に何か仕掛けていたのか。

 ぶわっ、と大きく広がった円形の魔法陣は、闘技場の舞台全体を覆い尽くす。

 逃げられる訳もなく、俺はただその魔法陣の上に立ち竦む。



「はぁ、はぁ、これでもう終わりじゃよ」


 ムキムキに膨れたバルバロイ会長の身体が、風船がしぼむように、細くなり、肩で息をしている。

 それでも、苦しそうなその顔には笑みが浮かんでいた。


「戦いを一カ月後にしたのも、大武会にお主を参加させたのも、すべてはこの技を使う為じゃ」


 足元の魔法陣から、何か異常な気配を感じる。

 とんでもない技だということは聞かなくてもわかる。


「闘技場にこの術式を仕掛けるのに、一カ月。発動させるのにわしの全ての力を使うたわ」

「前もって術式を仕掛けるのは、反則じゃないのか?」


 反則を判断する白虎の柱を見る。

 全く反応していない。大丈夫か、四神柱。


「裏技じゃ。術式を仕掛けた後に闘技場を設置した。元からあるものを利用しても反則ではあるまい」

「……くそじじい」


 ヌルハチが戦いたくないと言っていたのがよくわかる。

 汚い。じじい、超汚い。


「たとえお主がどれ程の力を持っていようと、もう関係ないわ。どんな力であれ、全ての力はこの魔法陣に吸い尽くされる」


 なるほど、カルナが持つ力を吸い取る能力と同じものか。

 いや、魔法陣全域にいる者の力を吸い取るのなら、カルナの上位互換といったところだろう。


「そろそろ幕引きじゃ。()からびよ、魔王タクミ」


 ぶわっ、と魔法陣から無数の黒い腕が伸びてくる。

 俺の足にそれらの腕が次々に纏わりつき下半身を埋め尽くす。

 本来ならこれで力を全て無くしてしまうのだろう。

 だが、俺にはそんな力など一ミリも存在しなかった。

 摑みかかる黒い腕は、明らかに掴んだまま戸惑っていた。


「よいしょっ、と」


 ちょっと足を動かしたら、ポロポロと掴んだ腕が離れていく。

 俺は魔法陣の上を普通に歩いて、バルバロイ会長の前に立った。

 まだ、腕を地面に突き刺したままの姿勢で俺を見上げる。

 目が点になっていた。


「ば、馬鹿な。この術式は神や魔王ですら、逃れられない、絶対無敵の、わしの生涯をかけて作り上げた、最高の、秘術で……」


 わるいな。力ある者なら通用していたんだろうが、俺には全く意味のない攻撃だ。


「お主は一体何者なのだっ! 神や魔王を超える存在だとでもいうのかっ!?」


 驚愕するバルバロイ会長。

 頭の中でカルナの声が響く。


『タッくん、いつもの言うたげて』


 バルバロイ会長の耳元まで顔を近づけ、俺は言った。


「よくわかったな。その通りだ」


 バルバロイ会長が崩れ落ち、一回戦が終わりを告げた。



 

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