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二百四十九話 赤と緑

 

『タッくん、ちょっと真面目な顔してみて』

「え? 今まさにキリッ、って顔してたんだけど?」

『あかんあかん、だるんだるんや。顔面の筋肉たるみきってる。植物になったヌルハチと変わらへんわ』


 ひ、ひどい言われようだ。でも確かに真面目な顔をしたのってあまり無かった気がする。人生において。


『タッくん、宇宙最強って勘違いされてるのに、みんな気軽に寄ってくるやん。今はそれがあかんねん』

「た、たしかに。俺に足りないのは威厳だったのか」


 結局、全身をロープで縛って「強すぎ反省中」のプレートをぶら下げても、悲劇は起こってしまった。

 こうなったらもう、俺は圧倒的強者のオーラを出し続け、誰も近づけさせないようにするしかない。


「ふん、たぁっ、うおぉおぉ、ど、どうだ? カルナ、すっごい力入れてみたけど」

『余計にあかんわ、タッくん。なんかうんこきばってるみたいにしか見えへん。方向性かえてみて、静かに冷静な感じで、でも内に情熱を秘めたみたいな、そういう感じで迫力出してみて』

「こ、こう?」

『それ、冷静も情熱も、どっちもなくなってるやんっ! 何も考えてないみたいやんっ!』


 うん、無理。そもそもこんな年まで真面目に生きて来なかったんだから。ギャグよりの顔は急に劇画にならないんだよ。

 もうすぐヌルハチの治療法を探る為にルシア王国の医療班とサシャがやって来るのに。


『あかんわ、そんなユルユルやったら、みんなタッくんに寄ってきて、えらいことなってしまうわ』

「なんとかしてよ、カルえもん」

『やめてっ、それ不吉やから言わんといてっ!』


 初代えもんのヌルハチは、ずっと日に当たりながら光合成だけして暮らしている。

 俺たちにはどうすることもできないので、専門の人たちに見てもらうことになったのだが……


「近々、魔法王国のリンも様子を見に来てくれるらしい。ヌルハチの植物化を治す人々を、俺は再起不能にするわけにはいかないんだ」

『わかった、うちもとりあえず誰か近づいてきたら、鞘から出て、邪龍暗黒(じゃりゅうあんこく)大炎弾(だいえんだん)バンバン出しとくわ。タッくんは、そうやな、深めのフードとかで顔隠しとこか』


 ああ、ついに威厳ある顔はあきらめられた。ちょっと悲しい。


『あ、フード被るんやったらマントも合わせたほうがいいんやない? ほら、どっかに真っ赤なマント置いてあったやん』

「そういえば、昔エンドが泊まって行った時に忘れて帰った勇者のマントがあったような。え? あれ、俺がするの?」

『とりあえず形からはいろ。雰囲気出してたら、近寄りがたくなるかもしれへん』


 ……そんな適当でいいのだろうか。うわっ、マント埃かぶってるよ。


「どう? 結構大きいから全身隠れちゃうけど」

『なかなかいいんやない。なんか決め台詞言ってみて』

「え? 俺に近寄るなよ、マント色に染まっちまうぜ?」

『うん、なるべく話さんとこ』


 ひどい。咄嗟にしてはなかなかの決め台詞だったのに。


「タクみーん、サシャたちが来たでござるよーー」


 お互い無言で頷き、洞窟の外に出る。

 これ以上、犠牲者を出さない為の極秘ミッションが始まった。



「ひ、久しぶりね、タクミ。元気だった?」

「……うむ、問題ない」

「タ、タクミだよね? なんかアザトースみたいだけど」

「親子だからな。似てきたみたいだ」


 それっぽい椅子を持ってきて、ふんぞり返って座っている。

 魔剣カルナは腰から抜き、手に持った状態で邪龍暗黒(じゃりゅうあんこく)大炎弾(だいえんだん)の黒玉を周りにいくつか浮かべていた。


『いい感じやで、タッくん。サシャも医療班の人達も近寄ってけえへん』


 だ、大丈夫だろうか?

 サシャたちの視線が痛いんだけど……


「それでヌルハチなんだけど、半分土に埋まってるし、だいぶ植物化が進行してるわ。なんで緑一色グレートフルグリーンなんて危険な禁魔法を自分自身に使ったのかしら」


 俺が魔法を跳ね返したことは噂になっているが、サシャはそれを信じていない。ヌルハチが失敗しただけだと思っている。


「どうする、カルナ。真実を伝えたほうがいいのか?」

『あかんあかん、ヌルハチの魔法をタッくんが跳ね返したなんて、サシャは信じへんわ。なんか意味深な感じで、笑っとこ。そっちのほうがカッコいいで』


 い、意味深な感じの笑い? 


「ふっ」

「やっぱりアザトースじゃないのっ! タクミはそんな笑い方しないわっ!!」


 サシャが右手を高々と掲げると、洞窟の周りからワラワラと鎧を被った騎士たちが現れる。


「もしもの時のために騎士団を連れてきてよかったわ。全軍っ、タクミの偽物を確保しなさいっ!」

『あかんっ、タッくんっ、なんか言うてっ!』

「え、ええっ!? お、俺に近寄るなよ、マント色に染まっちまうぜ?」


 一瞬、時が止まった後、ルシア王国騎士団がさらに勢いをまして突撃してきた。


『なんで今、そのセリフなんっ!!!』

「ごめんっ、実は気に入ってたっ!」


 もう騎士団は止まらない。

 絶対絶命の大ピンチに、何も起こらないことだけをひたすら願う。しかし……


【果てしなく広がる緑の大地。の地にて、我は誓わん。緑と共に未来永劫、穏やかに眠らんことを……】


 先日聞いた、呪文の詠唱がどこからか聞こえてくる。


『タッくんっ!? タッくんが唱えてんのっ!?』

「ちがうっ、俺じゃないっ!」

【リャンソー、サンソー、スーソー、イーペーコー、ローソー、パーソー、発、発、発……】


 まさか、ヌルハチがっ!?


 しかし、辺りにヌルハチの姿は見当たらない。

 その代わりに、うつろな瞳で洞窟の入り口に立っていたのは……


「ロ、ロッカっ!? え? でも口は閉じて……」

『タッくん、おでこっ! ロッカのオデコに口みたいな穴があいて、しゃべってるっ!!』

「ひぃいィィィィッっ!!」

【生きとし生けるもの、すべて緑に染まれ、緑一色グレイトフルグリーン


 ロッカのオデコに存在する穴は、抑揚のない不気味な声で、第一禁魔法を唱え終わる。


『あ、あかん、終わってもうた』


 ルシア王国に広がる大草原のように、洞窟前に新たな草原が誕生してしまった。





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