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作家とアリス

 

 怒られている。

 自分が作ったキャラクターに。

 正座させられ、コンコンと説教をかまされている。


「ワタシが戻るまでラスボス作らないって約束したよね?」

「う、うん、そうなんだけど。とりあえずもう時間ないし、設定だけでもって……」

「そんなことはない。アレはもうほとんど完成していた」


 ギロリと睨まれ萎縮してしまう。

 お、おかしい。アリスより僕のほうが偉いはずなのにまったく逆らえない。

 なんでだろう。僕が作ったキャラクターなのに。

 あれか、AIを作ったら機械が反乱して、人間が支配されてしまうようなコトなのか。だいぶ違うけど。


「で、どうする? いまからワタシの納得できるラスボスをすぐに考え出すか、八部が始まるまで番外編で何話か引き延ばすか」

「ひ、引き延ばすほうでお願いします」


 ど、どうしよう。

 引き延ばすといっても、なにもアイデアが出てこない。

 裏章を何話か、いや設定資料のほうがやり易いか。

 でもそっちもやり尽くして、ほとんどネタが思い浮かばない。


「じゃあ、引き延ばす話の候補をいくつか言ってみろ。ワタシがいいのを選んでやる」

「あ、ああ、そ、それは助かるなぁ、ど、どれから言おうかなぁ、一兆個くらいネタはあるんだけど」

「ないのか?」

「……」

「一つもないのか?」

「……うん」


 だって、ずっと八部のラスボス考えてたんだもん。

 アリスがいない間にこっそり話を進めて、そのままなし崩し的に、八部を始めるつもりだった。最終章となる第八部を。


「オマエ、もしかしてこのまま物語を終わらせようとしていないか?」

「そ、そ、そ、そんなことないよっ、ずっと続けていくよっ、ライフワークにして、死ぬまで書いていくよっ」

「そうだな、それしかオマエが生き残るすべはない」


 ど、どうしてこうなった。

 なんとかアリスのすきをついて、物語をクライマックスに持っていくしかない。第六部の終わりが綺麗な感じの最終回だったんだけどなぁ。


「そういえば、序盤に登場していたのに最近出てこなくなったキャラが結構いないか? その人たちが今、何をしているか掘り下げてみるのも、いいんじゃないか?」

「え?」

「当然、オマエは把握してるよな? 某有名漫画家は登場していないキャラクターたちも裏で何をしていたのか、全部タイムスケジュールを書いていると聞いたぞ」


 うん、そんな面倒なこといっさいしてないよ。

 それどころか、半分くらいは読み返さないと思い出せないよ。


「あ、当たり前じゃないか。なんならまだ登場してないキャラのタイムスケジュールまで書いてるぐらいだ。よし、それでいこう。次の話は『あのキャラは、いま、どこで、何をしている』だ」


 本当に何しているんだろう。消えていったあのキャラたち。


「とりあえず最初は誰にしようか。あっ、ザッハなんてどうかな? 名前だけは出てるけど、ずっと登場させてないから……」

「却下だ。最初にそんなインパクトのない奴を出してどうする。もっとあるだろう、レギュラー確定クラスなのに、ほとんど登場しなくなったキャラが」


 え? そんなのいたっけ? 


「ゴブリン王?」

「ちがうっ、魔王だっ! 第一部のラスボスだっただろっ!」

「あ、ああっ、うん、そうねっ、そうだったねっ!」


 完全に頭から抜けていた。

 えっと、いま魔王ってどうなってるんだっけ?

 リンデン・リンドバーグから出て精神アストラル体だったかな?

 魔王の大迷宮ラビリンスにもいないから、どこにいるかも把握できていないぞ。


「ちょっと待ってね。今、思い出すからね」


 魔王が最後に出てきたのいつだっけ? 五部にも六部にも出てなかったよな? 確か四部の十豪会じゅうごうかいでアザトースと少しだけ会話したのが最後だったような…… ※


 突然、頭の中に砂嵐が吹き荒れる荒野が浮かぶ。

 なんだ? ここは? こんな場所、僕はまだ書いていない。

 それなのに、それがどこなのか、すぐに理解してしまう。


 蛮族地帯、北方ノースカントリー。


 まだ物語では名前だけで一度も登場していない場所だ。

 その荒野のど真ん中を黒いフードを深々と被った女性らしき人物が歩いている。


 まさか、あれが今の魔王の憑代よりしろなのか?


 いや、その前に、どうして僕がまだ書いていない場面が、出来上がっているんだ?


「どうした? バカみたいな顔して」

「いや、僕の物語が勝手に……」


 改めてアリスを見て思い出す。

 そうだ。アリスはとっくに僕の手を離れて勝手に動いている。

 それどころか、絶対に交わるはずのない場所に。

 ちょっと散歩に行くような感覚で。

 無限の螺旋階段を一気に駆け抜け、永遠の場所に。

 天蓮華鳳凰堂てんれんげほうおうどうにやって来ているではないか。


 ざくっ、と魔王らしき人物が、荒野の大地を一歩一歩踏み締めていく。

 視界は全て砂で覆われているはずなのに、目標の方向が見えているように、その歩みに迷いはない。

 そして、その瞳が、真っ直ぐに僕の方を向いている気がして、思わず目を逸らしてしまう。


「いったい、何が起こっているんだ?」


 それは僕の物語を根底から覆す、新たな物語の始まりだった。



※ 魔王の最後の登場は、第四部 四章「百三十話 長い冒険の終わり」に載ってます。よければご覧になってみて下さい。



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