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閑話 タクミとロッカ

 

 平和な日々が続いている。

 魔法王国、西方ウェストランドでは六老導りくろうどうが引退し、新しい王、リンデン・リンドバーグが誕生した。

 リンは永久戦争放棄を掲げ、今後いっさい、他国に侵略しないとルシア王国と条約を結んだ。

 ルシア王国のサシャもそれに乗っかる形で、北方ノースカントリー、東方イーストグラウンド、南方サウスシティと同盟を結び、世界初の五大王国千年平和条約が確立された。

 さらに、黒龍ブラックドラゴンの王となったクロエや、バルバロイ率いるギルド協会もルシア王国との確固たる協力関係を表明する。


 これでもう、争いのない世界で、俺はずっとのんびりと暮らしていけ……


「タクみんっ! 修行してほしいでござるよっ!!」


 ……ないのか?


「え? な、なんで? アタミ(アリス)は? お、俺との修行より、今は弟子に稽古をつけないとっ」

「アタミは急用で2、3日、お里に帰るそうでござる」

「お、お里って? だったらロッカもついて行ったら」

「エーエンとかいう聞いたことのない田舎だったので、遠慮したでござる」


 が、がーーん。え、永遠の場所じゃないか。

 行き方もわからないし、追いかけれない。

 くそっ、事前に言ってくれれば、対処のしようもあったのにっ。完全に油断してたっ。


「あ、ああ、そうだったっ、今日はタクミ春のパン祭りをしようと思ってたんだっ、いっぱいパンを作らなきゃいけないから、修行はまた今度にっ」

「大丈夫でござるよ。すぐ済むでござる。ちょっと戦ってほしいだけでござるから」


 戦う? 俺と? いやいやいや俺、まともに戦ったのってデウス博士ぐらいなんだけど。しかもポカポカ合戦で、決着はジャンケンだったからね。※


「拙者、アタミに教えているうちに、なんだかすごく強くなったような気がするでござるよ。まだまだタクみんとは天と地ほどの差があると思うでござるが、どれぐらい離れてるか、試してみたいでござる」


 う、うん、知ってるよ。アリスは弟子のフリした師匠だったからね。ロッカが数十倍強くなってるのは間違いない。差は天と地どころじゃない。宇宙の果てと奈落の底ぐらい開いてるよ。


「タクミパン祭りは、食べるごとにシールが貰えるんだ。シールを集めると素敵な商品と交換できたり、もう一個パンが貰えたりするんだ」

「わかったでござる。あとでパンを作るの手伝うでござる。さあ、いつもの丘に行くでござるよ、タクみん」


 普通にスルーされ、無理矢理引っ張られて丘の上まで連れてこられる。

 あああ、やめてぇ。ドナドナがっ、あっちの世界で聴いたドナドナが聞こえてくるぅ。


「さあ、タクみん、はじめての全力を見せてほしいでござるっ! 今の拙者なら受け止めてみせるでござるよっ!!」


 全力だよっ! いつでも全力全開だよっ!!


「う、自惚れぬな、ロッカ。俺が全力を出したら、お前は跡形も残らない。武器はなし、拳による寸止めで稽古してやろう」

「さすが最強の師匠でござるな。では拙者だけ、思いっきりやろせてもらうでござるよっ!」


 いやぁああああっ、状況が悪化したぁぁあぁっ、ちがうよっ、お互い、お互いが寸止めでやるんだよっ!!


「参るでござるっ」


 まってぇええっ、まだ参らないでぇええっ!


 止める間もなく、ロッカがバスターソードを引き抜いて、真っ直ぐに突進してくる。

 全力全開のロッカの一撃。

 そんなもの俺が見切れるはずもなく……


「あ、あれ?」


 遅い。バスターソードを振り上げたロッカの動きがスローモーションのようにゆっくりだ。

 手加減している? いや、やっぱり寸止めしようとして力加減を調節できないのか?


 とりあえず、遅くても当たったら痛そうなので、ひょいと横に身をかわす。


「んなっ!? よけたっ!!」


 うん、そりゃよけるよ。めちゃくちゃゆっくりだもん。

 俺もゆっくりのほうがいいのかな?

 なんか、こういうの空手とかの型であったような。


「ちょりゃ」


 ロッカと同じように、ゆっくりゆっくり拳を繰り出す。

 簡単によけられると思ったが、ロッカはまるで別のことを考えてるみたいに反応しない。

 思わず当たりそうになる寸前で、なんとかギリギリ拳を止めた。


「あ、あぶなぁ、当たるとこだったよ。ごめんごめん、めちゃくちゃゆっくりやったんだが、寸止めって難しいな」


 ロッカが、ぽかん、と口を開けてアホみたいな顔で俺を見つめている。


「あ、ありえないでござる。タクみんの動き、まるで見えなかったでござる。そ、それでゆっくりなのでござるか?」


 へ? なに言ってるの? ゆっくりの中のゆっくりだよ?


「せ、拙者が愚かでござった。天と地どころじゃないっ、拙者とタクみんの力の差は、宇宙の果てと奈落の底ぐらい開いてるでござるよっ」


 ぐしゃっ、と力なく崩れ落ちるロッカ。

 う、うん、それ逆だからね。

 なんでそんな勘違いしたのかわからないけど、俺は世界最弱で……


 どくん、と俺の中で何かが脈打つ。


 それは物語を根底から覆す、新たな物語の始まりだった。



※ タクミとデウス博士の激闘は、第二部 一章「四十四話 最強の戦い 最弱の戦い」、もしくはマンガクロスさんのコミカライズ第14話でご覧になれます。よければご覧になってみてください。




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